第6章 −おうちに帰ろう−







「う〜ん…」

大きく伸びをしてから目を擦りゆっくり瞼を開ける。
最近見慣れてきてしまった天井。どうやらこっちに来てしまったらしい。
今日も八戒のベッドを借りてしまった様で慌てて起きあがろうとしてベッドの上の服に気付いた。
それは前回来た時に悟浄が見たててくれた服で、如何にも着替えてくださいと言わんばかりに綺麗にたたまれていた。
パジャマのまま…しかもノーブラと言うのが気になって部屋の鍵を確認してから洋服を着替えた。

「…あー太い足ぃ…」

声に出せば出すほど情けない。
お世辞にも綺麗とは言えない大根足がスカートの裾から出ている。
女は度胸!と心に決め、二人がいるであろう居間へ向かった。

「おは…よ…う…?」

いつもなら笑顔で迎えてくれる八戒の姿がない。
首を傾げながら台所や洗面所を覗くが人の気配はない。
悟浄は初めにあたしを見つけてくれるが、大抵その後は眠っていて後から起きてくるパターンが多い。
今日もそうだろう・・・と思ってソファーに座って登場を待つが一向に現れる気配はない。
時計の針が動く音だけが部屋に響く。
不安と一人という寂しさがこみ上げてきてどんどん嫌な方向へと考えが歪んでいった。

「あたし…何かしたのかなぁ。」

両膝を抱えその上に頭を置く。
何かしたのかといえば…しっぱなしである。
二人の生活を邪魔し、突然現れ突然消える。神出鬼没の大迷惑女とは正に自分の事だろう。
そんな事を考えていたら馴染みのある声が外から聞こえた。





「だから買い過ぎだっつってンだろ!」

「貴方が珍しく買い物に付き合うって言うから荷物持ちについてきてもらったんです。これくらいいつも買ってますよ。」

「誰の金だと思ってんだよ!」

「誰が遣り繰りしてると思ってるんですか?お金は空から降ってくるわけじゃないんですよ。」

「きゅ〜♪」

「ほらジープだって頷いてるじゃないですか。」

ばんっと言う音がして家の扉が開いた。
そして入ってくる二人と一匹。

「そりゃお前のペットだから…」

さ…」

「お帰り…なさい。」

ソファーから立ち上がり二人を笑顔で出迎えた…つもりだった。
八戒が荷物を机に置いてポケットからハンカチを取り出すとあたしの目の前に差し出した。
あたしはそのハンカチが何の為に差し出されたのか分からず、無言でそれを指差し八戒の顔を見た。

「…八戒?」

「使ってください。洗濯してありますから…」

それでもわからない顔をしているとそのハンカチを悟浄が奪ってあたしの顔を拭った。

「ご…悟浄!?」

「一人で泣いてんじゃねーよ。」

そこまで言われて初めて自分が泣いていた事に気付いた。




何かあったわけじゃない。
何かした訳でもない。
ただ目が覚めた時に二人がいなかった…ただそれだけだった。





さんが目を覚ます前に買い物を済ませてしまおうと思ったんです。」

八戒が何時もの様に微笑みながらコーヒーを入れてくれた。

「珍しく悟浄が付き合うといってくれたのでついつい買い込みすぎてしまって…遅くなってしまったんです。」

「だーかーらー買い過ぎだっつったろ!」

「…悟浄はコーヒーいらないんですね?」

にっこり微笑む八戒の背には何だか黒いオーラが漂っていて…思わず目を逸らしてしまった。
きっと見ちゃいけないものなんだ。

「スミマセン…下さい。」

悟浄が片手を上げて降参すると八戒が目の前にコーヒーを置いた。
その様子をくすくす笑いながらあたしもコーヒーを飲もうとカップに手を伸ばした所で、いつものチェック柄のカップじゃない事に気がついた。
くるくる回して見るとそれは綺麗な桜色のカップで、カップの内側には小さな花が描かれていた。

「可愛い…ここにはこーゆー可愛いのもあるの?」

「たった今買ってきたんですよ。」

「ふ〜ん…」

さり気なく聞き流していた言葉が引っ掛かりそのまま八戒を見つめる。

「いつまでもお客様用を使うというのも味気ないでしょう?僕からのプレゼントです。」

「そんで、服はオレから。あとコレもな♪」

そう言って差し出された袋を開けると、中には可愛いチャイナドレスが入っていた。
それはこの前洋服を買ったところであたしがさりげなく見ていた物。
水色の綺麗なロングドレスだった。
いつかこうゆう大人っぽいのが着てみたいと思って見ていたんだけど…。

チャンが欲しそーにしてたから…アゲル。」

「そうそう、コップとお揃いでこういうのもあるんですよ。」

嬉しさで胸がいっぱいのあたしに八戒が更に拍車をかける。
そこには茶碗や箸等の日常雑貨が机いっぱいに広げられていた。

「他に必要な物があればまた揃えましょうね。」

「まっ、新たな同居人にプレゼントっつーとこかね♪」

胸がいっぱいってこーゆー事だと思う。
声を出そうとすると涙が出そうなくらい苦しくって、でもお礼を言わなきゃ…と思って口を開く。

「ありがとぉー」

そしてやっぱり泣いてしまった。
今度は一人という寂しさからくる涙ではなく、一人じゃないという嬉しさの涙。
ここへ来てももう自分は一人じゃないんだという安心感。
泣いているあたしをからかう悟浄、そしてそれを笑顔で諌める八戒。

そんな二人が大好きだと皆に叫びたくなったそんな日。



その日は珍しく夜までうたた寝もせず、新しいお茶碗とお箸で八戒のご飯を食べてその後ジープと遊んでいる内に眠りについた。





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おめでとう!貴女は悟浄、八戒宅の同居人として認められました。
同居人になるまでは客用食器を使っていましたが、これからはマイ茶碗、マイコップを使って生活してくださいねv
桜柄・・・はただ単に私が好きなだけです(笑)桜模様もあの淡いピンク色もvvv大好きですv
そしてチャイナドレスは・・・実際に我が家にあるものです(笑)
旅行に行った際購入した物なのですが、お気に入りの一着ですv
ただ問題はそれを着る場がないと言う事(苦笑)せめて話の中だけでもどこかで着せてあげたいと思ってます。
悟浄は短い丈のチャイナドレスが本当は買いたかったみたいですけど(苦笑)ヒロインの欲しい物を買ってくれたんですねv

さて、次回!ようやく登場します!例の方々が(笑)
・・・何て大げさに言っているわりにあまり出番が無い・・・(おいっ)