最終章 −出会い?−
「おはようございます、さん。」
「お…はよう…」
今日はじめて見たのは八戒の綺麗な笑顔だった。
もう何度目になるのかこちらで迎える朝。
初めの内は驚きと戸惑いで慌てていたあたしだが、今は八戒のモーニングコールにすっかり慣れている。
大きく伸びをして洋服を手に取り八戒の方へ視線を向けると、八戒は窓を開けて外の新鮮な空気を入れてくれていた。
あたしの視線に気づくと部屋のドアへと向かった。
「着替えたら居間に来て下さいね。今日はさんの好きなスープ作りましたから。」
「はーい。」
どちらが年上なのか悩む所だが、どうやらあたしは八戒に年下に思われているようだ…全然構わない。
むしろ嬉しいくらい♪一人っ子だったのでずっとお兄ちゃんが欲しかった。
だから八戒が世話を焼いてくれるのがとっても嬉しい。
着替えて居間へ向かうと既に食事が準備されており、今日は悟浄も起きていた。
「おはよう悟浄…八戒、今日って雨?」
「そりゃねェだろ。せーっかくチャンが来たから早起きしたってのに…」
つーんと不貞腐れた様に横を向く悟浄…何だかこのへん可愛いって思っちゃうな。
「冗談だよ♪」
そう言って笑うと悟浄も笑ってくれる。
「きゅ〜♪」
「あっ、ジープ。おはよう。」
ジープの喉を撫でると気持ち良さそうに目を細めてその体をあたしの手に摺り寄せる。
あー!!可愛い!!衝動に駆られる様に抱きしめるとジープがあたしの頬に顔を寄せてくる。
すりすりする毛並みが気持ちいい…あぁ…やっぱり小動物(?)は可愛い。
「さん、朝ご飯食べたら僕と出掛けませんか?」
悟浄のお替りをよそいながら八戒があたしに話しかける。
お出かけ?八戒と?
「行く!」
ジープを抱いたまま八戒の方へ向き直り一も二も無く返事をする。
八戒とお出かけなんて嘘みたい!何があっても行きます!
あたしのご機嫌な声とは丸っきり正反対のひっくーい声が向かいの席から聞こえてきた。
「…って事はオレは留守番かい。」
悟浄が八戒から器を受け取りながら呟く。
「そうなりますね。よろしくお願いします。あぁついでに片付け…お願いしますね。」
悟浄の声など何ら気にせずにっこり笑う。八戒の笑顔が綺麗な時は逆らわないに限る。
珍しいなぁ…いつもなら悟浄も荷物持ちで一緒に出掛けるはずなのに…。
悟浄は舌打ちしながらもしぶしぶ留守番を了承した。
しっかりお替りを食べ食後のお茶を飲んだあと、悟浄に見送られ八戒と家を出た。
あたしの横を八戒が歩く。
ちらりと横目で覗くと凄くいいタイミングで笑ってくれる。
八戒のそんな所が好きだなぁなんて思いながら歩く。
ふと歩くペースが悟浄の時よりもゆっくりな気がして八戒の足元を見ると、あたしの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれている。
うわっ…何だか感動!
「今日は下を見てばかりなんですね。」
八戒の声に弾かれる様に八戒の方を振り向く。
「町は見慣れてしまいましたか?」
「ううん。町に出ることはあんまり無いから全然飽きないよ!ただ…」
八戒が隣にいるのは初めてだから…緊張してる…なんて恥かしくて言えない。
「ただ…なんですか?」
八戒が立ち止まってあたしの目に視線を合わせる。
は…八戒の翡翠の眼とも言う綺麗な目がこっちを見てる…って言うか見つめられてる!?
心臓がばくばくしているのがわかる。
早く視線を外してくれー!と言う叫びが聞こえたのか八戒がくすくす笑いながらあたしの頭をぽんぽんっと撫でた。
…子供…だなぁ…あたしって…。
「そうだ八戒どこ行くの?」
「特に決めてはいないんですけど、たまにはさんと二人で出掛けたいなぁって思ったんです。」
…あっ、今マジでクラッときた。
悟浄とは違う甘い声。
直接的な口説きじゃないんだけど、そのさり気なさが乙女心をくすぐっている。
コロコロ表情を変えるあたしは八戒にとって面白いのだろう…くすくす笑う声が絶えない…気がする。
いつも買物に行くお店に行って入荷したばかりの紅茶を買ったり、露店を覗いたりしていたら八戒が急に足を止めてある方向をじっと眺めていた。
八戒に買ってもらった烏龍茶を片手に視線の先を見ると、そこには「腹減ったぁ〜」が合言葉の人物とその飼主がいた。
八戒が声をかけるより先に小さな影がこちらに駆け寄ってくる。
あ…髪が長いんだ…。
「八戒!久し振りじゃん!」
にこにこしながら八戒に声をかける。
…悟空だぁ…。
太陽のような眩しい笑顔に穏やかな月の笑顔が返される。
「こんにちは悟空、今日はお買い物ですか?」
二人そろうと…ま…眩しい!
「三蔵がこっちに用あるって言うからついてきた。な!三蔵!」
ゆっくりこちらに近付いてくる緩やかな金髪…紫暗の瞳、そしてどう見ても機嫌が悪そうな表情。
三蔵と悟空に出会えた喜びよりも三蔵の目が怖い…って言うか態度が怖いよぉ!
「勝手に動くんじゃねぇ。」
バシーッと言う痛そうな音が耳に届いた。
三蔵がハリセンを振り落とした音…だよね。
無意識にあたしは八戒の服の裾をきゅっと握っていた。
それに気付いた八戒が苦笑しながら三蔵に声をかけた。
「あまり脅かさないで下さい。彼女、貴方に会うのは初めてなんですから。」
三蔵がちらりとあたしを見た。
ひゃー!!八戒とは違う種類の美人さんだっ・・・ていうかやっぱ綺麗だなぁ・・・。
やがて視線を外したかと思うとおもむろに大きな溜息を付いた。
「…アイツは本当にエロ河童か…。」
「?」
三蔵の声を聞いてもあたしはただ首を捻るだけだった。
「違いますよ。彼女は新しい同居人なんです…僕等の…」
八戒の言葉を聞いて三蔵の表情が変わった。
何?何なの!?より強く八戒の服の裾を掴む。
すると目の前・・・本当に目の前に悟空の顔があって、思わず声を上げてしまった。
「ぅわっっ!」
「ふ〜ん変わってるな…お前。でもすっげーいいヤツ!」
そう言ってにかっと笑った悟空の笑顔は、夏に咲く向日葵の様な輝きをもっていた。
おねぇさんちょっと可愛いと思ってしまったよ…。
その後悟空に手を引かれ屋台に誘われた。八戒が悟空にお金を渡し、少しの間八戒と離れた。
屋台でやきそばを買っている最中後ろを振り返ると八戒と三蔵が何やら深刻そうな顔で話をしていた。
あたしの視線が向いているのに気付くと八戒はいつもの笑顔で手を振ってくれたのであたしも手を振り返した。
きっとあたしの事…なんだろうな。
「はいこれ!ここのやきそばすっげーうまいんだぜ!」
悟空が買ったばかりのやきそばを手渡してくれた。ソースの匂いが食欲をそそる。
ありがとうと言って受け取り八戒の元へ戻りかけた時、その場に座りこんで悟空がやきそばを食べ始めた。そのまま唖然と眺めているとのびたくんが寝るまでの時間に負けないくらいのスピードで食べ終わってしまった。
「あーうまかった!!あれ?食わねぇの?」
「…あはははは」
そのスピードではムリ…。
結局八戒の元へ戻った時も悟空があたしのやきそばをじっと見ていたので一口味見させてもらって残りは悟空にあげた。
喜んで食べる悟空をやっぱりどこから出してるのかわからないハリセンで三蔵が叩いてた。
「それじゃぁ今度は家に来て下さいね。悟浄もきっと喜びます。」
「…嫌がる…だろ。」
「またな八戒!…えっと…」
片手を上げたままあたしの方をじっと見てる。あたしは慌てて自分の名前を告げた。
「だよ。。」
「…?…か、じゃあまたな!」
にかっと笑う悟空にあたしも笑顔で応える。
「さようなら悟空…三蔵…様。」
ちらりと三蔵の顔を見るがその表情は出会ってから一度も変わらない。
「あぁ…」
悟空は三蔵に引きずられる様に帰っていった。
ずっと手を振っていたのであたしも姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「…今度きちんと紹介しますね。三蔵達はまだ何も知らないですから…」
「はい、楽しみに…して…ますぅ…」
急激に来た睡魔に襲われ意識が段々遠くなる。
ゴメンね八戒こんな所に一人にしちゃって…次に行ったら謝らなくちゃ…と思いながら目が覚めると目覚ましは止まっていて慌てて飛び起きた。
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散々待って悟空と三蔵との出会いってこれ!?状態ですかね(苦笑)
はい、二人との出会いです。
三蔵は思いっきり怪しんでますね。
悟空はどうやら気に入ってくれたようです。
とりあえずこれで「うたた寝」の掴み・・・と言うか基本は終わりです。
第7章までの目的は、
★悟浄と八戒に同居人として認めさせる事。
★悟空と三蔵に存在を告げる事
・・・この2点だったので、これ以降は単発のイベント話になると思います。
ただ7章を読んで分るように三蔵が思いっきり怪しんでいるので、まず三蔵を口説き落とさねばなりません(笑)
その話はキリリクとしてあげる予定ですので、そちらでお楽しみくださいね。
次からはイベント話で彼らと一緒に遊びましょう♪
長々お付き合いくださいまして有難うございました!