「タダイマー・・・っと、チャン?」
玄関を開けて一歩中に入ると、いつもなら笑顔で出迎えてくれるチャンはいなかった。
「?」
いつもならまだ帰る時間じゃない。
それに雨が降っているから買い物に出掛けるってコトもねェよな?
って八戒がこんな日に買いモンに行かすワケねぇか、しかも一人で・・・。
着ていたシャツを脱いで前髪から滴る水分を取りながら、取り敢えず帰宅理由でもある目的の人物を探す事にした。
「おい、八戒。」
台所、洗面所など一応あらゆる場所を探しながら、最後に八戒のいる部屋の扉をノックする。
以前、ノック無しで部屋に入った瞬間危うく生命の危機を感じた事があるので、それ以来保身の為アイツの部屋へ入る時は必ずノックをして入るようにしている。
しかし何度ノックしても返事が無い代わりに、中から小さな物音が聞こえる。
「・・・いるこたぁいるんだよな、多分。」
さすがに1分待っても何の返事も無いので勢いよく扉を開けた。
「おい八戒!いるならいるで返事・・・」
「お、お帰り・・・悟浄。」
扉を開けたオレの目に映ったものは・・・八戒にしっかり抱きしめられながら顔を真っ赤にしてベッドに横たわっているチャンの姿だった。
「―――― へ?ナニ、してんの?二人で・・・」
「あの、そのぉ話せば長くなるんだけど・・・」
苦笑しながら何とか八戒の腕から抜け出ようとするチャンの動きを制して、こんな風に喋っていても起きる気配の無い八戒の側に近づいた。
「・・・寝てんのか?八戒。」
「・・・うん、ついさっき。」
本当だったら八戒のヤツを叩き起こして、何でチャンとこんなコトになってンのかって声を荒げて問い詰める所。
んで、チャンにも何で八戒と二人で部屋にいるんだって問い詰める所。
チャンを気に入ってるオレとしては当然怒るべき所・・・なんだろうケド。
「・・・サンキュウな。」
「え?」
口から出た言葉は意外にもチャンに対する感謝の言葉。
「コイツさ、雨の日にこんな風にゆっくり眠るコトなかったんだよ。」
「・・・」
「オレが何言ってもこんな風に気持ち良さそうに寝た事なかったゼ。」
「そんな・・・」
「とは言え、オレが何も言わなかったらコイツ雨の中ボーッと突っ立ってたり、ガスの火じーっと見てたりで危なっかしいんだけどな。」
今はそんなコトねェけど、同居始めた頃は更に酷かった・・・って、それを今言う必要はねェよな。
「・・・コイツが今こんな風に寝てンのはチャンのおかげだろ?」
「悟浄。」
「だから・・・サンキュ。」
横になっているチャンの頭をポンポンと撫でてやると、何故かチャンがくしゃりと顔を歪めて手で顔を覆ってしまった。
「・・・チャン?」
「あたし、何も出来てない・・・」
「・・・んなコトねーよ。」
「でも・・・」
「あの堅物の八戒が寝る時に誰か側に置くなんて考えられっか?オレならともかく。」
冗談めかしてそう言えば、チャンは間髪入れず小さく頷いた。
自分でふっといてなんだが・・・速攻肯定されるのもちょっと淋しいって感じ?
「だから、八戒がこうして寝てるってコト自体がチャンの努力の成果ってことだろ?」
「そう・・・かな。」
「そうだよ。」
まだ悩んでいる風なチャンの眉間に軽くデコピンをすると、さっきまで皺の寄っていた眉間が緩んだ。
それを見てからオレは反動をつけて立ち上がると大きく伸びをした。
「ま、雨が止むまで八戒にチャンレンタルしてやるよ。」
「?」
「そん代わり、八戒が起きたらオレとデートでもしようなv」
「ごっ悟浄!?」
「ダイジョォーブv雨の間に安全デートコース考えといてやるから。」
「えぇ!?」
「・・・あんまり大声出すと八戒起きるゼ?」
ニヤニヤ笑いながらチャンの隣にいる八戒を指差せば、チャンは慌てて自分の口を両手で塞いだ。
「そんじゃ、手のかかる相棒をヨロシクな。チャン。」
もう一度チャンと八戒の姿を見たら、その手を解いて自分の腕に抱えてしまうから。
だから賭場の店を出た時と同じ様に後ろでに手を振って静かに部屋の扉を閉めた。
そのまま自分の部屋に戻り床に力なく座ると新しい煙草を手にし、それに火をつけ空中へ煙を浮かべた。
「ったく・・・やっぱ傘借りるんだったゼ。」
くっ・・・と自嘲気味な笑みを浮かべながら窓の外を眺めれば、音を立てていた雨も次第に勢いを弱めていた。
「お子様向け安全デートコース・・・か。」
タバコを口に咥えたままその言葉を口にする。
何かを考えていれば、外の雨もいずれ止むだろう。
コトンと言う音をたててライターが倒れた。
それを合図にオレはゆっくり目を閉じて、彼女が喜ぶであろう場所を頭の中で考え始めた。
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NO22:らぜサンの『9800のキリリク小説の悟浄サイド』と言う事で書いてみた(笑)
こちらはヒロインがいるバージョン!!
なんだけど・・・無性に切ない感じがするんですけど、これ。
書き上げて思わず参謀に電話して「どーしよー!!」と叫んだほどに(苦笑)
いや、その・・・なんだろうね(苦笑)
取り敢えずいるいない、両方のシーンが浮かんだので書かせてもらいました。