『おい、妃。』

「・・・」

『冷てぇな・・・返事くらいしろよ。』

「・・・生憎俺は無駄口を叩く暇がないんでな。」

『・・・白雪が生きてるぞ。』

「そうか。」



物言う鏡の意見などどうでもいい、とでも言うようにお妃様は窓辺でお気に入りの煙草をふかしていました。



「ま、アイツに白雪が殺せるとは思ってなかったからな。」

『じゃぁお前の出番だな。』

・・・あぁ?

『用意しといてやったぜ。』



鏡から白い手が伸びてきたかと思うと
黒いマント真っ赤なリンゴの入った籠をお妃様の前に置きました。



「何だこれは。」

『お前の衣装だ。』



あのぉ〜、あたしが一応進行役なんだけど・・・



『じゃぁお前は金蝉・・・いや、コイツにこの衣装を着せられるのか?』



無理です!



『じゃぁ俺に任せておけ。』



ニヤリと不敵に微笑んだ鏡は、今にも逃げ出しそうなお妃様を捕まえると何か話し始めました。




















それから30分後、眉間の皺も隠れるほど深々と真っ黒なマントに身を包み、籠を腕にぶら下げたお妃様がお城から出て行きました。



さ、さすが観世音菩薩様・・・三蔵に黒マントを着せる手腕は素晴らしいです。



『ま、オレサマに不可能はない。』



・・・今だけは本当に拝みたいくらい神々しく見えます。










さて、そんな事も知らない森の白雪姫は今日も小人さんに帰宅時間を確認しています。



「じゃぁ今日は遅くなるから・・・」

「残業ですね?」

「うん、でも白雪姫のお弁当持ったから大丈夫!」

「帰りは明け方になりそうですね。」

「ん〜・・・多分。」

「頑張って下さいね。」

「うん!行って来ます!」

「はい、行ってらっしゃい。」

まるでどこかの新婚夫婦のような会話をしてから、小人は元気に仕事に出かけていきました。





残された白雪姫は家中の窓を開けていつものように掃除を始めます。
するとそこへ真っ黒なマントに身を包んだ一人の老婆がやってきました。



「・・・おい、お前。」

「・・・」



老婆を見た瞬間、何故か白雪姫はくるりと背を向け一生懸命口元を押さえていました。



「・・・笑ってんじゃねぇよ。」

「す、すみません・・・」



・・・どうやら笑いを堪えていたようです。

ようやく落ち着いた白雪姫は、極力老婆から視線を反らしながら話をしました。



「どうなさったんですか、お婆さん。」

「てめぇにこれをやる。」

「・・・見知らぬ人から頂く事はできません。」

「いいから食え。」

「洗わないで食べるなんて不衛生です。」

「・・・食え。」

「無茶言わないで下さい。」



えっと・・・八戒?そのリンゴ、ちゃんと洗ってあるから大丈夫だよ?



「そうなんですか?」



うん、それに八戒がそれ食べないと・・・進まないし、お婆さん・・・いつまでもそのまんま。



「笑ってんじゃねぇぞ。」

「・・・三蔵」

「今その名を口にするな・・・ぶっ殺すぞ。

「はいはい、分かりました。じゃぁ折角のご好意なので頂きますね。」



苦笑しながら白雪姫はお婆さんがくれたリンゴを更にエプロンの裾で磨くと、ひと口食べました。



「案外甘いです・・・
ね・・・



感想を口にしながら、白雪姫はそのまま瞳を閉じて床に倒れてしまいました。
それを見たお婆さんはまるで肩の荷が下りた、とても言うようにため息をつくと、床に転がっているリンゴを拾い籠に戻しまし・・・って持って帰るの!?



「殺害現場に証拠を残す馬鹿が何処にいる。」



物語のお妃様は
馬鹿なんです!!!



「・・・」



置いてって!そのリンゴ!!



「・・・」



ほら、既に三蔵の指紋もついちゃってるから!



「・・・拭けばいいだろうが。」



そう呟くとお婆さんは黒いマントでリンゴを拭くと、そのまま白雪姫の側に転がしました。



「・・・これで、話は終わりだな。」



三蔵!台詞違う!!



「こんな馬鹿な台詞言えるか。」



言わなきゃずーっとその黒マントのままだよ?



「ちっ・・・」



ほらほら。



・・・これで世界で一番美しいのは俺だ。



うわぁ、すっごい棒読み。



「帰る。」





・・・えー、お妃様がご機嫌?で白雪姫の元を去った日の夜。
日中仕事を頑張ったおかげで残業がなくなった小人が、八戒のお夜食を楽しみに帰ってきました。
その手には白雪姫への日頃の感謝を込めて、綺麗な花束を持っています。

「いつも頑張ってくれてるお礼・・・喜んでくれるかな。」

ウキウキと家に帰ると、普段慎重な白雪姫が家中の窓を開けっぱなしにしていました。

「?」

不審に思いながら家に入った小人が見たのは、床に力なく倒れている白雪姫の姿でした。

「・・・白雪姫?」

ビックリして駆け寄り、白雪姫の頬を軽く叩きます。

「どうしたの?寝ちゃったの?」

しかし、白雪姫はピクリとも動きません。
色白な肌は透き通るように白く、温かな笑みを浮かべる顔は・・・氷のように冷たくなっています。
小人は泣きそうになる気持ちを抑えて、必死で白雪姫を助けようとしましたが・・・白雪姫の瞳が開く事はありませんでした。

「・・・白雪姫・・・」





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