「なぁチャン・・・」

「ダーメ♪」

「ンだけど・・・一個だけ、ナ?」

「悟浄が言ったんだよ?」

「そりゃそーだけど・・・」

がっくり肩を落としながら大量の荷物を持って歩く悟浄。
ちなみに前を歩いているあたしは・・・手ぶら。





悟浄と一緒に町まで買い物に来たんだけど、あちこちの店で色々買い込んだら意外とかさばっちゃって二人とも両手いっぱいに袋を抱える事になった。
面倒だからって悟浄がそれをひとつにまとめたんだけど、その時じゃんけんで負けた方がその荷物を持つって話になった。
負けるかもって思ったんだけど、あんまりにも悟浄が楽しそうに言うから、負けてもいいやって気でじゃんけんをしたら
――― 勝った ――― 無欲の勝利ってヤツだよね♪

と言う訳で、一生懸命大きな荷物を片手で持っている悟浄の周りをウロウロしながら歩いていたら、先の曲がり角から数人の女性達が楽しそうに笑いながら歩いてくる姿が見えた。

緑と青と黒のスリットの深いチャイナドレスを着たモデルのように綺麗なお姉さん達。
そんな綺麗な人なんて滅多にお目にかかれないので、思わず足を止めて眺めていると後ろにいた悟浄が額に手を当てて小声で呟いた。

「っちゃぁ・・・」

「悟浄・・・」

どうしたの?と思って振り向いた瞬間、あたしはまるで障害物を避けるかのように肩を掴まれて悟浄から引き離されてしまった。
一瞬何が起きたのか分からなくて、首を傾げながら悟浄の方を振り返れば・・・荷物を片手に、チャイナドレスのお姉さんにまとわりつかれて苦笑している悟浄の姿が目に入った。



「やっだー悟浄久し振りぃ〜♪」

「なぁに?こんな荷物抱えちゃってーv」

「悟浄らしくないわねぇ・・・」




何!?何なのこのハーレムみたいなこの状態はっ!



「・・・ったく、買いモンの途中なんだから邪魔すんなよっ!」

悟浄は腕にしっかり絡み付いている緑のチャイナドレスのお姉さんの腕を振り払おうとしてるけど、お姉さんはわざと胸を押し付けるようにして離す気はないみたい。

「もぉ〜最近悟浄が来ないからつまんなぁ〜い。」

「他のヤツがいんだろ?」

「悟浄じゃなきゃ、嫌なのv」

緑のお姉さん、凄く色っぽい目で悟浄見てるけど・・・何言ってるかサッパリわかんない。

「ねぇ、何で最近賭場に来ないの?」

「前は雨の日以外毎日来てたじゃない。」


「オレにも都合ってモンがあんの。」

悟浄っていつも賭場にいる時・・・こんな風に綺麗なお姉さん達に囲まれてんのかな?

「都合って?まさかお買い物とか言うんじゃないでしょ?」

「そんなの悟浄に似合わないわよ!」


「うっせ。」

悟浄・・・困ってる感じがするけど、この場合あたしが側にいるから困ってるのかな。

「ねぇそんな荷物置いといて、あっちに行って一緒に遊びましょうよ。」

「あぁ?」

黒のチャイナドレスを着たお姉さんが悟浄の肩に手を乗せて耳元に何か囁いてる。

「そうそう、久し振りに楽しみましょう・・・ね?」

同じように悟浄の耳元に囁きながら、青のチャイナドレスのお姉さんは悟浄の髪に触れている。

「あのなぁ・・・」

苦笑しながらもまんざらでもない顔をしている悟浄。



・・・何かやだな、そんな悟浄見たくない。



痛む胸を軽く押さえて、俯きながらお姉さんに囲まれている悟浄の側に近づくと両手を差し出した。



これ以上ここにいて嫌な気分になるくらいなら・・・

「悟浄、あたし荷物持ってあげるから・・・行ってきなよ。」

「へ?」

凄く驚いた顔した悟浄と、あたしの声を聞いたお姉さん達が顔を見合わせた。
そっと手を伸ばして悟浄とお姉さんに触れないよう紙袋に手をかける。

「先に帰ってるから・・・」

気をつけて行って来てねって続けようとしたあたしの声は ――― 最後まで悟浄に届くことはなかった。

「ちょっと悟浄何このコ?」
「何言ってんの!?」
「悟浄のナニ!?」


さっきまで悟浄だけしか見ていなかったお姉さん達が今度は睨むようにあたしを見ている。
お姉さん達が何を言ってるのかは相変わらず分からないけど、どうやらあたしが悟浄に話しかけたのがまずかったらしい。

「おいおい落ち着けよ・・・」

「悟浄がちゃんと本当の事言ってくれれば黙るわよ。」

「このオンナは誰?悟浄のナニ!?」


「だぁから落ち着けって・・・」

「ねぇ、貴女・・・悟浄の何?」

そんな中、緑のチャイナドレスを着たお姉さんが悟浄から離れてあたしの方へやってきた。
ちょっと睨むようなその視線に思わず足がすくむ。
だって・・・今までこっちに来てこんな風に女の人に睨まれた事なんて・・・ない。

「ねぇ・・・何なの?」

「あのっ・・・ご、ごめんなさい。」

取り敢えず怒っているような気がしたのでペコリと頭を下げたら思いっきり肩を掴まれてそのまま壁に押し付けられた。

「おいっ!」

「悟浄はダーメ。」

「そうそう、動いちゃダメよ?動くならあたし達を振り払わなきゃ・・・」


悟浄の動きを止めるかのように黒と青のチャイナドレスを着た人が悟浄に絡みつく。

「出来ないわよね?女に優しい悟浄にはv」

悟浄に向ける表情とあたしに見せる表情は・・・全然違う。
再びあたしを見た彼女達の表情は・・・酷く冷たい。

「貴女みたいなお子様がどうして悟浄と一緒にいるのか、説明してくれる?」



ど、どうしよう・・・何言われてるのかわかんない。



困った顔で悟浄の方を見れば、青のチャイナドレスを着た人が何か言おうとしている悟浄の口を手でふさいでいる。



・・・ど、どうしよう。



「喋れないワケじゃないでしょ?」

「ご、
ごめん・・・なさい。

別に自分が謝る必要なんてないけれど、雰囲気に飲まれてしまったあたしの口からは謝罪の言葉しか出てこない。
自然と俯き加減になるあたしの顎に、細く白い・・・指がかかった。

「ね、馬鹿にしてるの?」

「・・・?」

どうやったらこの人に言葉が通じないとわかって貰えるんだろう。
さっきまで垣間見えた冷たい視線が、今は苛立ちで睨むような視線に変わってる。
その後ろでは悟浄が両脇を押さえているお姉さんと何か話をしている姿が見える。

「ちゃんとこっち見なさい!!」

「・・・っっ!」

視線が自分から反れたのが気に食わなかったのか、お姉さんの手があたしの顎をグイッと掴んだ。
少し長めの爪が・・・頬に刺さる。
手に力が入った瞬間、チクリという僅かな痛みを感じて思わず眉を寄せる。



待って・・・何か頬を伝ってる気がするんだけど、もしかして・・・血?



自分の置かれている状況を冷静に判断する自分と、目の前のお姉さんの苦痛に歪んだ表情から目が離せない自分。

「アンタみたいなガキが!なんの取り得も無いアンタがどうして悟浄と一緒にいるのかって聞いてるのよ!」

荒げられた声を聞いて、何かが胸に響いた。

「アンタ、一体悟浄のナニ!?」



――― この人、悟浄が好きなんだ。



だから見た事もない人間が悟浄の側で当たり前のように一緒に歩いてるのが嫌だったんだ。
・・・あたしも知らない人が皆と一緒にいるのを見たら、こんな風になるんだろうな。
誰だって好意を寄せてる相手が自分以外を見てるのは、いい気分じゃないよね。

「・・・」

「・・・いい加減にして!!」

「え?」

そんな風に自分の考えに閉じこもっていたのがいけなかったのか、案外短気なお姉さんは顎を掴んでいた手を離すと、今度はその手を勢い良くあたしに向かって振り上げた。

・・・これはしょうがない、かな。

それでも皆の、悟浄の側から離れたくない。
そう覚悟を決めて目を閉じた瞬間、パシーンと乾いた音が響いた。

「・・・?」

音の割に・・・痛くないな。
衝撃に備えて閉じていた目を開けると、さっきまで無かった大きな背中があたしとお姉さんの前に・・・立ちはだかっていた。
それが誰の背中なのか、なんて・・・言わなくても分かる。
あたしの頬に当るはずだった手は、悟浄の手に掴まれてあたしにまでは届かなかった・・・ううん、正しくは悟浄の体に阻まれて届かなかったって言うのが正しい。

「やりすぎだろうが・・・美冷みれい。」

「・・・悟浄」

美冷、と呼ばれた人の表情は悟浄の背中に庇われているあたしには見えない。
でも・・・なんとも言えない声で、悟浄の名前を呼んでいると言う事だけは分かる。

「お前らも・・・折角の一張羅汚すまでオレ押さえる必要なんざねェだろうが。」



一張羅を汚す???



その言葉が気になって、ひょこっと悟浄の背中を避けるように顔を覗かせると、地面にペタンと座り込んでいる黒と青のチャイナドレスのお姉さんがいた。
・・・悟浄が、綺麗なお姉さん振り払ったの!?

「だ、だって・・・この子が何も言わないから!」

「・・・言わないんじゃなくて、上手く喋れねェんだよ。」

「え?」

悟浄の横から前を見ていたあたしの肩を突然掴んでグイッと引き寄せると、その腕の中にしっかり抱え込みながら悟浄があたしの頭を撫で出した。

「ごっっ悟浄!?」

「ちっとワケありでな・・・俺らの言葉、喋れねェんだ。」

「・・・でも、悟浄とは喋ってるじゃない。」

「あぁ、オレだけじゃない。八戒とも喋れる。」

「・・・」

あの・・・悟浄、シリアスな台詞をしゃべってる所申し訳ないんですが・・・美冷さんと呼ばれたお姉さんと、その後ろにいるお姉さま方の視線・・・痛いです。
そんなあたしの心の声なんて一切聞こえていない悟浄は、淡々と自分とあたしの関係を話している。

「・・・でもっっ!悟浄綺麗なオンナが一番だって!」

「そ、そうよ!自分といるのは一番綺麗なオンナだっていつも言ってたわ!」

「私達よりもその子が綺麗、だなんていうの?」


あううっ、痛い・・・さっきは美冷さんの視線だけだったのに、今は全員の視線が痛い。
一体悟浄何言ったの!?
首を後ろに仰け反らせるようにして悟浄の顔を見ようとしたら・・・でっかいため息が頭上から聞えた。
そしてポンポンと慰めるかのようにあたしの頭を撫でる、大きな手。

「・・・も少し待ってな。」

「???」

あたしの体を反転させて、ギュッと抱き込まれて周りの音が聞こえなくなった。
悟浄に抱きしめられてると言う事実と、腕の中の温もりに動揺して・・・クラクラと眩暈がしそう。
それに、こっこんな事したらお姉さん達に逆効果じゃないの!?
そう思ってジタバタ暴れ始めたけど、珍しく悟浄の腕の力は緩まない。

























どれくらジタバタしていただろう・・・腕の力が緩んだ瞬間、あたしは水から上がった魚のように大きく息を吸い込んだ。

「ぷはぁっっ!」

「うっわ、髪ぐちゃぐちゃだな。」

はははっと笑いながら、悟浄に抱きしめられていた所為で乱れた髪を撫でられる。



・・・ま、マジで息できない位苦しかった。



ぜぃぜぃと肩で息をしながら顔を上げると、さっきまでいたお姉さんの姿は何処にも見えなかった。

「・・・悟浄?」

くるっと振り返ってお姉さん達がどうしたのか聞こうと思ったら、悟浄の指があたしの頬を軽く撫でた。

「っ!」

それがちょうど美冷さんの爪が当った頬に触れた。
そこを指で拭うと、何も言わずに絆創膏を貼ってくれた。
あたしの頬から引いた悟浄の指は、微かに赤く染まってる。



あぁ、やっぱり血が出てたんだ。



「ワリィな・・・ヘンな事に巻き込んじまって。」

「ううん・・・平気だけど、どしたのその絆創膏?」

八戒なら絆創膏を持っててもなんの不思議もないけど、悟浄がそんな物を持ち歩いてるなんて間違っても思えない。

「・・・ごめん、だってさ。」

「ほぇ?」

「美冷がごめん、だって。」

その言葉が何だかやけに重く感じられて、思わず声を無くす。
あれだけ思いを込めて叫んでいたのに、それになにも返せなかった。



それなのに・・・ごめんって・・・。

考え込むように俯くと、やけに明るい悟浄の声が聞こえた。

「さーってと、そろそろ買出しし直して帰るか。」

「買い直す?って今買ったばっかだよ?」

「正しくは一部買い直し・・・カナ。」

・・・あ ――――――っ!!

悟浄がお姉さん達を振り払った時に落としてしまったのか、折角買った荷物の一部が・・・使い物にならない状態になっている。
このまま帰ったらお母さん、じゃなくて八戒に怒られるのは目に見える。
一瞬背筋が寒くなって悟浄の方へチラリと視線を向ける。

「お金、足りる?」

「・・・多分。」

何とも言えない顔をした悟浄が荷崩れした荷物を器用に片手で持つと、空いている方の手をあたしの方へ差し出した。

「ま、何とかなるっしょ。とっとと済ませて帰ろうぜ・・・家に。」

「・・・うん!」

その手を取るのを躊躇わなかったのか、と言うと嘘になるけど・・・離したくなかった。



誰に何と思われてても・・・あたしはここに、いたい。
みんなの側に・・・そして、悟浄の――― 側に。





オマケを読む



ただ悟浄に庇われたいと言うネタだったのに、こんなにどシリアスに!(笑)
美冷はちょっといい人だね(笑)あたしは好きだよw
ちなみに悟浄は町の賭場からはじかれてません。美冷が上手い事やってくれてます。
んで、この美冷が悟浄の女友達ベスト1かな、多分。
本当に悟浄を知ろうとしてくれて、悟浄の事を考えてくれて・・・でもからかって遊ぶのも多分この人(笑)
緑色のチャイナ服着てるあたりで性格があの人に似ている事はバレバレだね(苦笑)
緑は・・・色んな意味で最強なんですよ、私の中で(爆笑)
多分、今後、うたた寝桃源郷で顔を出すかもしれない美冷さんをヨロシクw(笑)
※ この話では斜体の文字が桃源郷言葉(笑)普通の言葉が日本語となっておりますので、あしからずm(_ _)m