「…悟空、まだ食べれる?」
口にドーナツを頬張っている悟空が大きく頷いたのを確認して、悟空が書いてくれた注文のメモを店員さんに見せて新しいドーナツをお願いする。
「えっと、それとあれと…あとあっちの…そう、それ!!」
言葉が通じないので身振り手振りで欲しいドーナツを指差す。
数個選んで何度か頷くと、それをプレートに乗せてくれている店員さんがクスクス笑っていた。
――― やっぱり笑うよね
それを意味するのは財布の中に詰まっている同店のレシートの山。
会計を済ませると、おつりと同時に小さなカードを差し出された。
『今度こそ当たるといいですね。』
言っている意味は相変わらず分からないけど、頑張れって気持ちだけは伝わってくる。
あたしは苦笑しながらペコリと頭を下げると、一生懸命ドーナツを食べてくれているであろう悟空の元へ戻った。
席に戻ると、目をキラキラ輝かせる悟空がいただけで、席を立つ前までにあった大量のドーナツは姿を消していた。
「うわぁっ!美味そう!!」
「悟空、もしかしてさっきのドーナツ…」
「ん?全部食ったよ?…もしかしての食べたいドーナツ、あった?」
申し訳なさそうな顔をした悟空に音が聞こえそうなほど首を振って否定する。
「ううん、違う!沢山あったのにどうしたのかなぁと思っただけだから。」
「美味かったから全部食った!ねぇ、これも食っていいの?」
再び山のように詰まれたドーナツを見て、目を輝かせる悟空。
でもやっぱり…ちょっと辛そう。
悟空の前にあった紙コップが空になっているのに気づき、新しい水を貰って戻ると悟空に声をかける。
「ごめんね、悟空。何だか無理矢理付き合わせちゃって…」
「え?何で???俺ドーナツ好きだし、逆にこんなに沢山に買って貰っていいのかなぁって思ってんだけど…?」
別の部分で悟空に心配かけちゃってたんだ!!
あたしは慌ててこのお金の出所…と言うか所在を悟空に知らせた。
「このお金は八戒からお小遣いとしてあたしが貰ってる分だから気にしないで!」
「なら俺まだ食えるよ!」
にこっと笑顔を向けられて思わずあたしの頬も緩む。
何でこんな事態になっているのかと言うと、きっかけはドーナツ屋さんの店先に飾られていた手帳。
ドーナツを買って貰ったカードに『☆』マークが出れば貰えるというありがちな景品。
一緒に買い物に出かけた悟空にお願いして、店に入って…もうどれくらいたったんだろう?
はずれのカードは沢山溜まったのに、☆マークは一枚も出ない。
何度もレジと悟空の間を往復しているあたしを見て、今じゃ店員さんも応援してくれてるらしい。
――― 応援するよりも、☆のカードが欲しい
なんて思っても銀部分を削るタイプのカードなので、店の人もどれが当たりか分からないよね。
まさに『運試し』状態。
こんな時、八戒がいればすぐに『☆』マークが出るのかなって思ったけど、たまには自分の手で幸運を引き寄せてみたい!!
そんな訳で頑張ってるんだけど、実は一番頑張ってるのはどう考えても…目の前であたし以上にドーナツを食べてくれてる悟空なんだよね。
「あと…そっちの、あ!チョコ…それ下さい!」
再び身振り手振りで注文をすると、ずっとあたしにカードを渡してくれてた店員さんがドーナツと一緒に飲み物を二つ乗せてくれた。
「これ、頼んでませんよ?」
『頑張る君達にサービス。』
――― …え?な、何!?
分からなくて遠くに座っている悟空の方へ視線を投げかけたら、店員さんがトレーを持っていけという仕草をみせた。
もしかして、これ…くれるって事???
分からないけど、取り敢えず店員さんの顔を見てあたしが唯一使える言葉を口にしてみた。
「…謝々。」
すると店員さんがにっこり笑ってオッケーを示すよう、指で丸を作ってくれた。
そんな優しさが空になった財布に染み込んで、最後に一枚貰ったカードと店員さんの奢りで貰った烏龍茶を手に席に戻った。
「…」
席に戻ると、そこにいたのは…疲れた顔をして机に突っ伏した悟空。
「ごめんね、悟空。」
「…え?あっ!なっ、何!?うわぁっ美味そう!!」
――― もうこれで、最後にしよう
チョコドーナツを口にくわえ、両手にドーナツを持って笑っている悟空の姿を見ながら、最後の一枚であるカードの銀色部分をコインで削る。
ゆっくり端から削っていくと待ち望んだ…ある物が、姿を現した。
「…」
「…ふぃお?」
「…た。」
「ふぇ?」
「出たっ!!ほら、見てっ!!☆マーク!!」
「嘘っ!?マジ!?」
「うん!ほらっ!ほらほらっ当たりぃ〜っっ!!!」
当たりを示す☆マークが出たカードを悟空に見せると、両手にドーナツを持ったまま悟空がバンザイをした。
「やったじゃん!!」
「うん!嬉しいぃ〜♪悟空のおかげだよっ、ありがとう!」
「ううん。俺は大好きなドーナツいっぱい食えただけで嬉しいよ!それにさ、俺…」
「それに?」
続く言葉が気になって何気なく聞き返したら、何故か悟空の顔が真っ赤になって動きが止まってしまった。
「えっと…」
「それに、何?」
「え?お、俺何か言った?」
「うん、何か続きあったんじゃない?」
「気、気のせいだって!!あーほらほら、!店員さんが景品用意して待ってっから早く交換してきた方がいいんじゃん?」
悟空に言われて振り返れば、ドーナツ屋の店員さんがあたしの絶叫を聞きつけたのか、手を叩きながら景品の手帳をカウンターに用意して待っていてくれている。
「あとで俺にも景品みせてな!」
「勿論だよ!ちょっと待っててね、悟空♪」
今までの重い足取りではなく、スキップに近い足取りで店員さんの元へ向かう。
「…が側にいたから、いつもよりドーナツ美味かったんだ。」
ポツリと呟いた悟空の声は、景品に浮かれていたあたしの耳に届く事はなかった。
けれど、それから暫くの間、悟空がドーナツ屋さんの前を避けて通るという話を三蔵から聞いた時には、お詫びに何か甘く無い物を送ろうと心に誓ったのだった。
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以前ゼロサム…で、お菓子を食べてる三蔵一行のテレカの全ブレがありまして。
その中の、ドーナツを食べている悟空を見ながら書いた話。
三蔵が書きあがれば全制覇だったんですが、最後の最後まで書けませんでした…残念(苦笑)
それにしても悟空が苦しむほどってどんだけ食べたんでしょう?ドーナツ。
というか、どんだけお小遣い八戒に貰ってるんでしょう?
…それにそのお小遣いって、もしかしたらもともとは悟浄が賭場で稼いだお金だったりするのかな?
甘いお話のはずなのに、裏を考えると色々凄いなぁと思ったりします(笑)