「嘘!絶対嘘!」

「嘘じゃねぇよ。」

スカートの裾を必死で押さえて、片手に買ったばかりの香水を持っている千秋を睨みつけた。

「太ももにつけるといいなんて千秋がやりたいだけでしょ!」

「あのなぁ、いくら俺がスケベだからってこんな真っ昼間から、しかもこれから出掛ける人間にやるかよ!」

「信じられない!千秋のエッチ!!

力いっぱい目を見て言い切ると、バツが悪そうに千秋が一瞬視線をそらした。
言い過ぎたかな、と思ったけどすぐに振り返った千秋はいつものようにニッと笑うとこう言った。

「・・・否定はしない。」

それを聞いた瞬間、千秋に掴まれていたスカートの裾を思いっきり引っ張って逃げた。

「やっぱり嘘じゃない!」





綾子と食事に出る前にいつものように手首に香水をつけようとしたら、後ろから千秋に止められた。

「お前晴家と食事に行くんだよな。」

「うん。昨日言ったでしょう?新しく出来たお店に行くって。」

「あぁ、聞いた。だったら手首につけるってのは止めとけ。」

「何で?」

今まで香水をつけるといえば、手首か首元にしかつけた事がないあたしは千秋の口から出た言葉に首をかしげた。

「確かに香水をつけるのに一番無難なのは手首だけどな、食事の時手首から香水の匂いがしたらどんな美味い料理も台無しだろ?」

「あ・・・」

「だからつけるなら別の場所にしろ。」

そこまでは千秋って意外と色々知ってるんだって思って感心したんだけど、その後の一言と行動が一気に不信感を煽った。

「今日は珍しくスカートだから・・・つけるなら、太ももか足首だな。」

そう言ってワンピースのスカートをひょいっと持ち上げてミニスカート状態にすると、まるで何かを吟味するかのように太ももに手を伸ばした千秋。
反射的に千秋の頭を叩いて腕を外させると、スカートを押さえて部屋の奥に逃げ出した。



――― そして現在に至る



「ったく、いいか!」

暫く押し問答した末、あたしの腕を放した千秋は机に置いてあるパソコンに向かうとあるサイトを開いてそれを指差した。

「見ろ!」

警戒を解かず、千秋の行動に注意しながらギリギリパソコンが見える位置に立って画面を覗き込むと、それは香水のつけ方について説明してあるサイトだった。
色々書かれている中、とある一点に目が止まる。

「・・・あ。」

その中に手首に香水をつけると食事の時に折角の香りが無駄になる・・・と言うような事が書いてあった。
更に下に読み進めていくと、香水は下から上に立ち上るように薫っていくので、下の方につけると体全体を包み込むよう薫らせる事が出来るとある。そして太ももにつけると歩くたびに香りがフワッと薫るので、スカートの時に効果が発揮される・・・とも。

「・・・俺の言ってる事は嘘か?」

「ほ、本当でした。」

「お前が初めて香水買った時に調べたといたんだよ。どうせ分かんない、って泣きついてくると思ってな。」

「千秋・・・」

「まぁ泣きつく先は晴家だったみたいだけどな。」

サイトを閉じて座っていた椅子をクルリと回転させて下から覗き込むようにあたしの顔を見つめる。
千秋の折角の好意を無にしてしまった。
そんな思いに胸が締め付けられ、今度は逃げようとせず、キチンと千秋の目を見てから頭を下げた。

「ごめんなさい、嘘つきなんて言って。」

「別に。気にしてないって。」

「・・・嘘、気にしてる。」

だって目が笑ってないもん。
小声で呟くと、千秋は小さくため息をついてから髪を手でガシガシとかきだした。

「お前って普段鈍いくせにこんなトコだけ鋭いのな。」

「だって千秋の事だもん。」

そう、千秋の事だから他の何よりも気になるし、気付きたいって思う。
普通の人が目に付く事よりも、誰も気付かない、本人すら気付かない小さな変化も見逃したくない。



誰よりも大好きで大切な・・・千秋だから。



そう思って表情の変化をじっと見つめていたら、椅子に座ったまま千秋に手招きされたので目の前に立った。

「・・・も少しこっち。」

「?」

千秋の膝に阻まれてこれ以上近づけないってくらい側まで近づくと、千秋があたしの胸元に甘えるように額を押し付けた。

「ちっ千秋!?」

「お前に嘘つきって言われる事よりも、
が側にいない事の方が・・・ツライわ。

耳を澄まさないと良く聞こえないような小さな声。
千秋がこんな風な声で話すのなんて初めての事で、思わず聞き返してしまう。

「え?何?」

「・・・なんでもねぇ。」

聞いても教えてくれない。
珍しく沈んだ様子の千秋が心配になって、そっと頭を抱えるように抱きしめる。










暫くそんな風に抱き合っていると、大人しくしていた千秋があたしの腰をしっかり掴んで顔をあげた。
その顔からはついさっき垣間見えた沈んだ表情なんて全然ない。
寧ろ一緒にイタズラをする時のように楽しそうに笑っている、ように見える。

「さ〜てっと、嘘つき呼ばわりされた仕返し・・・そろそろさせて貰おうか。」

「え゛!?」

逃げようにもすっかり気を許していたあたしの体は千秋に抱え込まれて動く事が出来ない。

「ちょっ千秋!?」

あまりの豹変振りについていけず、おろおろしていると千秋の手には何時の間にかあたしが愛用している香水が握られていた。

「晴家とメシってのも実は・・・気に食わないんでね。」

「嘘!?」

「マジ。」

驚いた瞬間、スカートが触れていたはずの太ももが一瞬空気に晒されて、何かが吹き付けられたかと思うとすぐに甘い香りが自分を包み込むように広がっていった。

「・・・」

「ほら、つけてやったぞ。」

イタズラ成功、とでもいう顔をして香水のふたを閉めて机に置くと、そのまま椅子から立ち上がりギュッとあたしの体を抱きしめた。

「ちょ・・・」

「へぇ・・・やっぱいつもとちょっと感じ違うな。」

「ち、千秋・・・今・・・」

「これくらいなら食事でも邪魔になんねぇだろ。」

「・・・スカート・・・って言うか、足に・・・」

「帰り、迎えに行くからな。食事が終わったら連絡しろよ。」

チュッと音を立てて額にキスされると、そのまま机に置いてあったバッグと一緒に部屋から追い出された。

「間違っても晴家の香水なんて移されてくんなよ!!」

部屋の中から聞こえた千秋の声もどこか遠くで聞こえるように思える。





結局綾子との待ち合わせ場所に行ってもあたしの意識は上の空で、ポロリと千秋にされた事を口にしたら・・・綾子が物凄い形相で千秋の家に向かって行った。
あたしが覚えてるのは、綾子がバイクに乗る前に叫んだ一言だけ。



「あたしのになんてことするのよーっ!!」



あたしはあたしの物なんだけどな・・・

なんてとぼけた事を思いながら、スカートの上からそっと太ももに触れる。
歩くたびに薫る香水の匂いが、千秋に触れられた事を思い出させてあたしの頬を赤らめさせた。





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お庭で香水のつけ方について話題が出たので、それをネタに書いてみました。
一番最初に書いたのは、言わずもがなアノヒトです(苦笑)
それがかなりヤバイ話になったので、千秋を書いたらどうなるかと思ったら・・・明るいスケベで終わりました(笑)
いやぁ〜さり気にヤキモチ妬いて、面倒見のいい千秋が書けて満足ですw
綾子にヤキモチ妬いてどうすんだかね(笑)それに綾子も千秋に怒ってどうするのよ(苦笑)
あぁもう、上杉夜叉衆が可愛く思えてしょうがないですw(約1名除く!)
小説内に書いてある香水のつけ方は、一応調べたので香水をつける時の参考にしてください。
あー情報を全て鵜呑みにしないようにね?気になったらネットでも調べて見ましょうw
そうすると、また一歩綾子のようなイイオンナに近づけますよw(私は無理でしたが(苦笑))

ちなみに、この後千秋のアパートにヒロインが帰ったらアパートは無くなってました。
無くなった、と言うか崩壊した・・・と言うのが正しいかな。
はい、そうです。あなたの想像通り、千秋と綾子が喧嘩した結果です(笑)