「直江さん、香水って普通何処につけるものなんですか?」
「え?」
思わぬ問い掛けの手に持っていたコーヒーカップを斜めに傾け、その中身が危うくスーツに零れそうになった。
戸惑いを気付かれぬよう、カップをそっとテーブルに戻す。
「直江さんに選んで貰ったのはいいんですけど、あたし香水ってつけた事なくて・・・」
香水を手にとって問いかけているの瞳は真剣そのもの。
けれどその問いを・・・私に聞くんですか?
選んで渡した香水は、貴女を私色に染めたい・・・と言う想いを込めたもの
それに気付かないのも構わない、と思った。
いずれちゃんとその意味を教えればいい、と。
けれどまさか香水のつけ方も知らないとは・・・
「あ、分かった!空気中にばら撒いてその中に入る?」
「・・・そういったつけ方もありますが、香りが拡散して長時間持ちませんよ。」
思わず出たらしい答に自然と笑みが零れる。
香水のつけ方を知らないとはいえ、最初に『香りのトンネル』を思いつくとは思いませんでしたよ。
「じゃぁ・・・洋服につける?」
「ハンカチにしみこませてバッグに入れておくとよい香が楽しめるのでそういった使い方もあります。」
「へぇ・・・」
次から次へと色々な方法を口にするに、丁寧に答を返していく。
まるで謎解きの答を聞いているかのように微笑む彼女の手に、私の心臓とも思える香水が握られている。
真っ赤なハート型のビン
・・・私の心も、心臓も
目に見える物、見えない物
・・・全てはあなたの物
「そうですね・・・今の時期は汗をかきにくい部分につけるといいかもしれませんね。」
「え?どうして?」
「折角つけた香水が汗で流れてしまうからです。」
「あぁ・・・なるほど。」
「他に脈打つ場所につけると、脈打つたびに香りが拡散する・・・とも言います。」
「・・・結構難しいんだね。じゃぁ汗をかきにくい部分で、脈がある所につければいいんだ。」
分かった、と言う風に手を叩くと早速どこへつけようか思案しだしたの隣へ移動して腰を下ろす。
「・・・いい場所を教えてあげましょうか?」
「ホント?」
余程つける場所が思いつかないのか、いつもの様に笑みを浮べて声をかければ、が何の疑いも持たず嬉しそうに振り向いた。
笑顔のまま短い髪がかかる耳にそっと指を伸ばし、指先でその後ろを軽く撫でる。
「・・・ここですよ。」
「!?」
びくっと体を震わせて一気に頬を染めたは、触れた部分をガードするかのように手で押さえて私をキッと睨みつけた。
「なっなに!?」
「香水をつける良い場所を教えてあげただけじゃないですか。」
「・・・」
朱に染まった頬、驚いて潤んだ瞳・・・全く、貴女はどれだけ俺に我慢を強いらせれば気が済むんですか。
少し腰を浮かせると軽くなったソファーが小さく音を立てた。
それがシンと静まり返った部屋にやけに響く。
の体が俺の纏う空気の変化に気付いたのか、僅かに彼女の体に緊張が走った。
それを解すかのように今、出来る限りの柔らかな笑みを浮かべて更に距離を縮める。
「・・・他にも教えて欲しい?」
そっと肩を押しての背を二人掛けのソファーに押し当てて瞳を覗き込めば、今にも泣き出しそうな顔をして思い切り首を横に振られた。
「いっっ今の場所だけでいい!!」
「本当に?」
「ホントウに!!」
必死の形相、と言う言葉が当てはまるような表情に少しだけ心が冷える。
けれどそれ以上に自分を支配している熱い思いが全身にみなぎっている。
小さく息を吐いて気持ちを落ち着けると、苦笑しながら初めて香水をつけるに注意を促した。
「・・・そのままつけても構わないが、顔にかからないよう気をつけろ。」
「・・・う、うん。」
肩を押さえていた手を離して体を起こせば、あからさまに安心した表情でが体を起こしてテーブルに置いてあったボトルに手を伸ばした。
「い、行きます。」
別段何処かへ出掛けるわけでもないのに声をかけ、尚且つもう片方の手は気合を入れるかのようにぎゅっと握られている。
それを吹きかける事の意味を知らない真っ白な・・・ウサギ。
早く、早くそれを身に纏って・・・
「・・・うわっ!」
顔から離して吹きかけたはずが、やはり慣れていない所為か頬にかかってしまったらしい。
ぎゅっと目を閉じたからさっきまでは感じられなかった甘い華やかな香りが感じられる。
俺の心を抑える鍵を外す・・・甘い、甘い蜜の香り
そして眠っていた野生が、目を覚ます。
「注意しろって言われたのに、顔にかかっちゃった・・・」
慌てて拭おうと手に持っていたボトルを置いて、顔を拭おうとしたの手を掴む。
「直江さん?」
「・・・拭いてあげる。」
「え?」
俺の言葉を確認するかのように薄目を開けて顔をあげた瞬間、の頬に唇をそっと押し当て吹きかけられた香水を舌で拭う。
本来であれば苦いはずの香水が、まるで砂糖水を舐めているかのように ――― 甘い。
「なっ・・・直・・・・・・」
「・・・黙って・・・」
ゆっくりゆっくりと頬を舐め上げると視界にパクパクとまるで空気を求める魚のように口を動かしているが見えた。
酸素を求めている口元が、俺を求めているように見えて・・・頬を拭うだけにしようと思っていた唇は、そのまま香りが集中している耳元へと移動した。
静かな部屋に僅かに響く水音
小さな体はまるで糸の切れた人形のようにソファーに横たわり、掴んだ手の先はぎゅっと握られたまま。
そして、まるで初めて与えられたお菓子を食べる子供のように、に唇を寄せている・・・自分。
その甘い蜜のような香りに、抑えが利かない。
どれだけの時間そうしていただろう。
ようやくが誤って吹きかけてしまった香水を全て拭い終わると、俺は彼女を拘束していた腕を緩めた。
全身の力が抜けたはソファーに背を預けたまま、ピクリともしない。
「・・・」
肩を、腕を拘束していた手を今度は彼女の背に回してそっとその体を抱き寄せる。襟元から僅かに除く部分が朱色に染まり、耳が真っ赤になっている所を見ると何故か笑みがこぼれてしまいそうになる。
――― まだ、キスもしていないのに
「・・・ひとつ、言い忘れていた事がある。」
意識はあるだろうが、まだ自分の意思に反して体が動かないであろう彼女に言い聞かせるよう語りだす。
「香水をつける場所は相手に触れて欲しい場所、と言う説がある事を言い忘れていた。」
「・・・?」
「だから俺の前で香水をつける、と言うのは・・・そう言う意味だ。」
脱力しきった彼女の顎に指をかけて上を向かせ、先程まで空気を求めていた唇にキスを落とす。
さぁ・・・次はどこに、キスして欲しい?
ゴメンなさい!ごめんなさい!御免なさい!ご免なさい!ゴメンナサイ!!
絶対私、これ書いてる時おかしかったんです!!!
え〜・・・愛のしるし、で直江さんが言った言葉の意味をお庭でチラリと解説している時に出たネタを使わせて頂いたんですが、さすが直江さん・・・とでも言いましょうか。
精一杯止めたつもりだったのに、こんな事になってしまいました(汗)
周囲に人、いませんね!?
可愛らしい真っ白なウサギさんはこれ読んでませんね!?
読んでたとしても内容に関してはお口にチャックして、お父さんお母さんには内緒ですよ!?
(ひょっとして凄く動揺してる?(笑))
だからこの話に関しては私は何も申しません。
こんなのも書けるのか・・・と微笑んだそこの貴方!リクエストしても無理ですよぉ〜(苦笑)
自分でもかーなり驚いてますから、これ(笑)
危険な男、直江信綱に翻弄されたいお嬢様・・・どうぞお楽しみ下さいませ。
私は逃げます!(脱兎)←最近コメント書き逃げてばかりな気がしてきた(苦笑)
ちなみにこの話を書くために香水を吹きかけて舐めてみたお馬鹿さんは私です(笑)
小さい頃、イチゴ味とかの歯磨き粉を食べてみたのと同じ感覚でやりました(爆笑)
結果・・・苦いです(キッパリ)暫く犬のように舌を出したままウロウロしてました(苦笑)
香水は、つける物であって口にするモンじゃありません!(直江は・・・まぁ、甘く感じたんでしょうね(汗))