「ねぇ、高耶?」

「んー・・・」

あたしの部屋でさっき買ったばかりのバイクの本を開いていた高耶に、飲み物を差し出しながらさり気なく聞いてみた。

「ファーストキスがレモン味って本当?」










一瞬の沈黙の後、高耶がゆっくりこっちを振り向いた。
そして深呼吸をするかのように大きく息を吸うと・・・それに音を乗せて一気に吐き出した。



「んなワケねーだろっ!!」

キーンと耳鳴りがしそうなほどの高耶の怒鳴り声に一瞬体が固まる。

「って大体なんで今更そんな話なんだよ!!」

「え、いや、その・・・」

「・・・まさかお前、俺以外のヤツとやったんじゃねぇだろうな?あぁ!」

「するワケないでしょっ!!」

高耶の馬鹿な問い掛けには即座に反応する。
あたしがアンタ以外の誰とキスするっていうのよ!

「じゃぁどういう意味だよ。」

バイクの雑誌を放り投げてじろりと睨むような視線であたしを睨みつける高耶。
あ〜・・・これはもう誤魔化せないな。
苦笑しながら頬をカリカリと指でかきながら、あたしは心の中で綾子に謝りながら高耶に軽く説明をした。





「・・・ふぅ〜ん、ねーさんに聞かれた、と。」

「う・・・うん。」

あ〜・・・怒ってる、怒ってるよ高耶。

「でもほら、あんまり喋ってないから・・・」

「十分喋ってるって!こっっの・・・馬鹿っ!!!

「あうっ・・・」

思いっきり耳を引っ張られて、そこへ特大の馬鹿を貰った。
・・・年下のクセに、なんでこんなに強いんだ!っていうよりあたしが高耶に弱いだけだよね。
引っ張られて赤くなった耳を擦りながらいじけていると、大きなため息をついたあと此方の様子を伺うような視線で高耶がこっちを見た。それがやけに気になって首を傾けて様子を伺っていると高耶がポソリと呟いた。

「で・・・ねーさんだけだろうな、喋ったのは。」

「・・・・・・・・・・・・・・・う、ん。」

「なんだよ、その間は。」

その場に・・・千秋までいたって言ったらどうなるんだろう。
たまたまその話をしてる時に千秋が店に入ってきて・・・聞かれたんだよね。
千秋って人の話を引き出すのが上手いから余計な事も喋った気がするし・・・そしたら高耶、また怒るんだろうなぁ。
視線をチラリと高耶へ向けるとさっき以上に険しい顔をした高耶がいる。



や、やばい。
絶対絶対・・・千秋の名前は出しちゃまずい!




本能が危険を知らせるランプを鳴らし続けているので、一生懸命知らない振りを決め込むべく首を左右に振っていると・・・滅多に人の顔を凝視しない高耶が、あたしを見ていた。

「・・・。」

「な、何。」

「俺に嘘、つくんじゃねぇぞ。」

「え?」

頬を両手でしっかり掴まれて、唇が触れそうな距離まで高耶の顔が近づいてくる。

「で、他に誰がいた?」

「うぅ・・・」

ニヤニヤとイタズラをしかけた子供のような笑みを浮かべながらあたしの様子を楽しんでる高耶。
あたしがこーいうのに慣れてないって分かっててやってるんだから意地悪いよっ!

「他にもいたんだろ?」

「いっいな・・・」

「お前が嘘つけないの分かってんだぜ?」

「ついてないもん!」

酸素不足の金魚みたいに口をパクパクさせながら必死に抵抗する。
その様子を見てた高耶は呆れるような顔をした後、あたしの耳元に唇を寄せた。

「・・・隠し事すんなよ。」

耳元でいつもより低めの高耶の声が聞こえた瞬間、あたしの天の岩戸はあっさり開いてしまった。

「ちっ千秋!!」

あ〜・・・どうしてこう逆らえないんだろう。

「千秋・・・だと?」

あたしは心の中で遺影となった千秋の写真に手を合わせた。



――― ごめん、千秋。自分の身は自分で守ってくれ。



「綾子とお茶飲んでる時に、外から千秋が手を振ってて・・・そのまま店に入ってきていっしょにお茶飲んだの。」

「ねーさんが誘ったのか?」

「・・・綾子は嫌がってたけど、千秋が強引に入ってきたって言うのが正しいと思う。」

が誘ったんじゃねぇだろうな?」

「まさかっ!」

高耶と付き合ってるんだからその辺はちゃんとしてるつもり。
高耶がいない場所で他の男の人を自分から誘ってお茶なんかしないよ!!

「誘ってないよ!」

「・・・お前はそんなヤツじゃねぇよな。」

頬を包んでいた手が、今度は優しく頭を撫でてくれる。



・・・このギャップに、あたしは弱い。



感情に任せて動く子供のような性格なのに、時折り高耶はこんな風に優しくなる。
撫でてくれる手が気持ちよくて、ついつい目を閉じて頬を緩めていると・・・柔らかな物が口に触れて思わず目を開けた。










目の前にあるのは・・・滅多に見られない瞳を閉じた高耶の姿。

「・・・」

数回瞬きをして驚きのあまり目を閉じるのを忘れていたら、高耶の長い睫が微かに揺れて・・・綺麗な瞳がまっすぐあたしを見た。まるであたしの心の奥底を覗き込もうとするかのように真っ直ぐな視線。
目を反らす事も閉じる事も出来ず、ただただ高耶の目に映る自分を見ていた。



時間にして数秒の事が数分にも感じられて・・・ようやく高耶の顔が離れた瞬間、顔が一気に赤くなる。

「!!!」

「キスの最中に目ぇ、開けるヤツがあるか・・・ばーか。」

「たっったかっ高耶!?」

「いつもしてる事だろ?」

ビシッとおでこを叩かれたけど、今はその痛みよりもキスされた事への動揺の方が大きい。
だーかーらー!あたしは高耶のそういう行動パターンに慣れてないんだってば!!
今更だけど赤く染まった頬とキスされた口元を隠すように両手で顔を覆ったら、高耶が楽しそうに声を上げて笑い出した。

「あはははっっお前、ガキみてぇ!」

「うっ煩い!」

「ホント、可愛いよなぁ〜お前♪」

頭を撫でたり叩いたりぐしゃぐしゃと髪を乱したり・・・そんな事する高耶の方が子供じゃん!!
恥ずかしさと照れくささを誤魔化すように、うぅぅ〜っとまるで犬が唸るみたいな声を上げながらじっと睨んでいたら、高耶は更に声を上げて笑い出した。

「ガキの次は犬かよ!?あはははっっ」

「がうっ!」

「あー、よしよし♪吠えんじゃねぇよ。」

ぎゅっと抱きしめられ、宥めるように頭を撫でられると・・・もうどうでも良くなった。
高耶が楽しそうに笑ってくれたし、滅多に見れない高耶の顔も見れたし。
そう思ってドキドキする心臓を落ち着かせながら高耶の胸に擦り寄った。
いつもより少し早めに聞こえる高耶の心音、その音に耳を傾けていたら少しだけ気持ちが落ち着いた。





けれど耳元にポソリと呟かれた高耶のひと言が、またあたしの心臓を飛び上がらせる。

「で、何回目かわかんねぇキスの味は・・・どーだった?」

「!!!」

「な、どーだった?」

「き、聞くなっ馬鹿ぁーっっ!!



しっかりと抱きしめられた腕の中で、高耶の腕を叩きながら暴れる。
それを笑いながら押さえ込む高耶の顔は何だかとても楽しそうで・・・勿論あたしも高耶とじゃれあえるのが楽しくて暫く二人で無意味にはしゃいでいた。





高耶とのキスは、初めての時も今も変わらない
――― 砂糖のように甘い、
キス





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100のお題からこっそり移行させましたが、コメントは殆ど弄ってません。

サブタイトルはバカップル?(笑)
元々「ファーストキスはレモン味」を高耶に聞くって言うネタだったんですが、いじってたらいつの間にか・・・目を開けて相手を凝視すると言うとんでもないキスの話になりました(遠い目)
メモの時点ではもー少し大人しかった、はず、なんだけどなぁ(苦笑)
でもこんな風に何も悩まず自分が相手を手玉にとって?無邪気にやりたい放題やる高耶が書きたかったんです。

それにしても綾子ねぇさんと千秋に、なにを喋ったんでしょうこの人(笑)
あたしとしてはそっちの方が気になります。
で・・・千秋の名前が出ているのは完璧あたしの趣味です。
そんなに絡ませたいのかっ!(笑)←このまま続けば確実に千秋も出てくるな、蜃気楼夢小説(笑)