何だか寝苦しくてゴロゴロしながら隣で静かに横たわってる人間の名前を呼ぶ。
「高耶?」
「・・・んー」
「もう寝た?」
「・・・寝た人間が返事するかよ。」
「あ、そっか。」
でも高耶は寝ててもたまに返事するから信用できないんだよ、とは言わない。
言ったらまたでこピンとかしっぺとかやるんだから。
そんなあたしの気持ちなんか知らない高耶は、眠る前と同じ声で語りかけてくる。
「どうした。」
「んー・・・なんか寝苦しくて寝れないから高耶どうしてるかなぁって。」
枕を腕に抱えて高耶の方を向けば、窓から差し込む月明かりで微かに高耶の端正な顔が見えた。
いつもはきつく見える眼差しも、今は少し眠い所為か僅かに細められている。
微かに動いた手が口元へ添えられた瞬間、小さなあくびが聞こえた。
大人びて見えるけど、やっぱりこんな所は可愛いって思える。
あ〜でもそれを差し引いても・・・やっぱ高耶ってカッコイイなぁ。
「・・・?」
本人はもう少し身長が欲しいとか言ってるけど、今で充分高いしスタイルもいい。
「おい・・・」
それに女のあたしよりよっぽど肌綺麗だし、張りあるし・・・あ、何か悔しくなってきたぞ。
蒸し暑さと嫉妬が重なって、思わず高耶の頬を指でつまんで引っ張った。
「いてっ!何すんだよ!」
「つやつやでいいなぁ・・・」
「はぁ?何ワケわかんねぇ事言ってんだよ。」
ペシッと頬を引っ張っていた手に軽くしっぺをされてそのまま引き剥がされた。
「暑さで脳みそ溶けたんじゃねぇの?」
「・・・溶けてないもん。」
「あ、溶けるほどねぇか。」
「失礼な。すずめの涙ほどはある!」
「・・・も少し増やせ。」
微かに頬を緩ませて笑う高耶の顔を見るのは・・・好き。
満面の笑みも好きだけど、ちょっとした事に頬を緩める高耶の顔は・・・一番好き。
全開の笑顔って面白い事があったら皆の前で見せるって感じがするけど、微笑って・・・気を許した相手にしか見せないって気がするからかな?
「・・・何笑ってんだよ。」
「え?」
高耶に頬をつつかれて、自分が高耶につられて笑っているのに気付いた。
「相変わらず百面相が得意だな、お前。」
「百面相してるわけじゃないよ。」
「暑さでだれてると思えば、急にじっと人の顔覗き込んで、かと思えば手ぇ出してきて・・・しまいには笑う。これが百面相じゃなくてなんだってんだよ。」
「・・・高耶につられただけだもん。」
「へぇ〜・・・そうなんだ。」
あたしの方を向いて片肘を立てるとそこに頭を乗せてニヤニヤとイタズラっぽい笑みを浮かべた高耶を見て眉間に皺を寄せる。
こんな顔してる時の高耶は・・・なんか企んでる。
自然と高耶から距離を開けようと枕を抱えたまま、ずるずる後ろに下がる。
「・・・なんで逃げんだよ。」
「何となく。」
「逃げんなよ。」
「追いかけないでよ。」
とは言えベッドはそんなに広くない。これ以上後ろに下がれば、床に落ちるって所で高耶の手が伸びてきてぐいっと抱き寄せられた。
「ばーか、また落ちる気か?」
「落ちてないもん!」
「って言って前ベッドから派手に落ちたのは誰だよ。」
ビシッといつものようにでこピンされて、ずきずきする額を押さえながらじとぉ〜っとした目で高耶を見る。
「・・・」
「怪我してからじゃおせぇんだよ。大人しく寝ろ。」
「・・・うぅ〜。」
全部事実だし、正論なので何も言い返せない代わりに小さく唸ると、高耶が苦笑しながらぽんぽんとあたしの頭を撫でた。
「・・・クーラー入れてやるから、大人しく寝ろ。」
そう言うとあたしが抱えていた枕を抜き取ってベッドの中央へ置くと、ベッドサイドに置いてあるクーラーのスイッチを入れてくれた。
微かな起動音の後、冷たい風が暑さで逆上せていた体を冷やしてくれる。
「涼しぃ〜・・・」
「一時間だからな。その間に寝ろよ。」
「・・・ケチ。」
「お前がすぐ体冷やすからだろうが。」
「・・・」
年下のクセにどうしてこう面倒見がいいんだろう。
やっぱり美弥ちゃんがいるからかな・・・って、あたし妹と同じ扱い?!
高耶より年上で、美弥ちゃんよりもずーっと長い年数生きてて同じ扱い・・・。
自分の考えに思わずショックを受けてそのまま硬直してたら、高耶があたしの枕にくっつけるように自分の枕を置いた。
「?」
「またお前が落ちないよう見ててやるよ。」
「・・・落ちないよ。」
年下の高耶に妹と同じように面倒を見られるのが嫌で、クーラーで心地良くなった空気に反して高耶に背を向ける。
「年下のクセにそこまで干渉しないで。」
可愛げの無い事を言ってるって分かるけど、妹扱いされるのは彼女としては嫌だよ。
ギュッと唇をかみ締めて背中を丸めていたら、耳元にイタズラっぽい高耶の声が聞こえた。
「・・・ばぁーか。添い寝の口実に決まってんだろ。」
「なっ!」
「ガキの俺に遠慮なんかしてねぇでこっち向けよ。涼しい時間は一時間なんだ・・・とっとと寝ようぜ。」
あたしが何か言うよりも早く高耶の手があたしの肩を掴んで自分の方へ向けた。
そのままあたしに頭の下に腕を滑り込ませると、肩を抱き寄せてしっかり抱えこむ。
「たったっ高耶!」
「何だよ。」
「うっ腕!」
「不満か?」
「いや、そうじゃなくって!」
「・・・たまにはいいだろ?」
ニヤリと綺麗に笑う小悪魔の笑みにあたしが文句を言えるはずが無い。
どうせクーラーのタイマーが切れたら暑くて放り出すに決まってるんだ。
じゃぁそれまで思いっきり甘えてやる!!
開き直って高耶の胸に顔をうずめるようにして、その鼓動を子守唄に目を閉じた。
ねぇ高耶。
これだけ近くで一緒に寝たら、夢の中でも一緒にいられるかな?
蒸し暑い日が続いていますが皆様如何お過ごしでしょうか。
・・・って、そんな所に更に熱く感じるような話をUPするなよ、自分!
とか思いながら、こんな高耶に最近メロメロな自分がいるのも事実(苦笑)
眠れない時、何気なくお話しするのって結構好きです。
蜃気楼はこういう何気ない日常の話を書く事が楽しいみたいですね、今は。
(本編で日常の場面があまり見られなかった反動だろうか(汗))
ちなみにこの『A sultry night』は同ネタで、千秋と直江があります。
危険度・・・げほごほっ・・・じゃなくて・・・いや、危険度か(苦笑)←どっちだよ!
段階としては 高耶→千秋→直江 な気分です。
蒸し暑い夏中にUPしますので、蜃気楼夢に付き合ってくれる貴女!お楽しみに!(笑)
(未だに感想+蜃気楼夢楽しんでくれる人募集中w(笑))