「牛乳くらい一人で買いに行けよ。」
片手に牛乳一本入ったコンビニの袋を持ちながらの後ろを歩く。
「日も暮れかかってるこの時間にあたし一人で買い物に行かせるつもり?」
「・・・まだ6時前だぜ?」
小学生のガキじゃねぇんだからこのくらい別に何でもないだろ。
これで俺より年上だって言うんだなんて、免許証とか見ないとやっぱ信じられねぇよな。
そんな風に考え事しながら歩いていたら、目の前を歩いていたがピタリと足を止めてじっと上を見つめていた。
何かいるのかと思って顔をあげると、黒い影が動いた。
「・・・なんだ?」
夕日が邪魔をしていて影だけしか見えない。
手をかざしての見ている物をもっと良く見ようとしたら、それよりも早くがそれに向かって声をかけた。
「トラ!」
「とら?」
「うん、お友達。」
「友達・・・」
お前の友達は屋根の上で寝てるのか?
しかしが名前を呼んでも暫くは何の気配もない。
「・・・何、呼んだって?」
「だからトラ。」
あっけらかんと言い切るの肩にポンッと手を置いて、一言一句区切って怒鳴りつける。
「何で牛乳持ったままそのトラをここに突っ立って待ってなきゃなんねぇんだよ!!」
「怒らなくてもすぐ来るってば!あ、ほら・・・」
「あぁ?何が来たってんだ!」
苛立たしそうに視線をそちらに向ければ・・・少し痩せ気味の首輪のない猫がいた。
「トラ〜♪」
「にゃぁ〜」
「猫ぉ?」
ふと最初に影を見つけた場所に視線を戻し、もう一度の足元をうろついている猫を見る。
「・・・そいつ、2階の屋根にいたよな。」
「うん。」
「・・・なんで降りてきた?」
「あたしが呼んだから。」
「にゃぁ〜」
猫ってそういう生き物だったか?
これが犬なら何となく分かる。
名前を呼べば飛んでくるだろうし、何度か教えれば人間の顔・・・と言うか気配も覚えるだろう。
けど、それ猫だろ?しかも野良猫だろ!?
「トラ、元気だった?」
「にゃぁ〜・・・」
「こーら、そっち行かない。お姉ちゃん今日は高耶とすぐ帰るからね。」
「・・・にゃぁ」
の立ってる場所から30センチくらい離れた場所を行ったりきたり、時に地面に寝転んで真っ白な腹見せてそれをが撫でてる。
すぐに起き上がったかと思ったら壁に背中やら頭やらこすり付けて・・・けれど一定距離を離れない。
が手を差し出せば甘えるように頭を摺り寄せに来る。
「なぁ。」
「ん〜?」
トラ、と呼ばれた猫の腹と言うか背中と言うか・・・とにかく全身を撫でながら顔だけこっちを向けたに尋ねる。
「お前、エサとかやってるだろ。コイツに。」
「全然。」
「うっそだろ・・・」
エサもやらずに何で野良猫がここまで懐いてんだ!?
「本当はエサあげたいんだけどね。運悪くいつも何も持ってない時にくるの。」
「・・・」
「近所の人が時々エサあげてるみたいなんだけど、あたしは一度もあげた事ないんだ。」
「にゃぁ〜」
「あー、ゴメンゴメン。はいはい、なぁに?」
まるで子供に声をかけられた母親のように、話の途中では猫のいる道路の脇に座り込み、相変わらず擦り寄ってくる猫の背中を撫でる。
「・・・はぁ〜珍しい猫だな。」
隣に腰を下ろして近づいてきた猫の背中を、と同じように撫でてやろうと手を伸ばす・・・と、鋭い爪が俺の手の甲を引っかいた。
「いてっ!」
「大丈夫?高耶?」
「っつ〜・・・」
三本の細い線が手の甲にうっすら浮び、そこから血が滲み出す。
「こら、トラ!何で高耶引っかくの?」
「にゃーっ!!」
まるで何かに抗議するかのように牙をむいて俺を威嚇する。
何だ?なんで初対面・・・っつーか野良猫にそんな風に威嚇されなきゃなんねぇんだよ。
「取り敢えず帰って手当てしよう、高耶。トラ、またね。」
猫に手を振りながら、引っかかれていない方の手を掴むとが歩き出した。
つられるように歩き出した俺の後ろから、足音のない気配が近づいてくる。
「消毒液、あったかな。」
「おい。」
「ん?」
「・・・ついて来てるぞ。」
「え?」
「にゃぁ〜」
まるでが猫の首に紐をつけて散歩させているかのように、トラが横に並んでついて来た。
――― 猫の散歩か、これは。
「トーラ、今日はダメ。お兄ちゃん怪我したから手当てしなきゃいけないの。」
「おい、猫に何言ってんだよ。」
「あ、バカにしたな。トラは賢いからちゃんと分かるんだよ?」
「はぁ!?」
「一緒に散歩したり、途中まで見送ってくれたり、お出迎えしてくれたりもするんだから。」
「・・・お前、熱でもあんのか?」
「ないもん!見てれば分かるよ!!」
そう言うとは腰を落としてトラの頭をポンポンと叩き、俺達が帰ろうとする方向と逆の方向を指差した。
「また明日、会ったら遊んだげるから今日はここまで。」
「・・・にゃぁー」
おいおい、猫の鳴き声・・・低音に変わったぞ?不満・・・なのか?
それを宥めるかのようにもう一度頭を撫でてやると、その手にトラが擦り寄った。
「今日は帰りなさい。」
「にゃぁ〜」
・・・なんで俺が睨まれるんだ。
「ね、いい子だから・・・」
まるで小さなガキに言い聞かせるよう声をかけ、立ち上がるとはトラに手を振りながら歩き出した。
すると不思議な事にさっきまで隣に並んで歩いていた猫が、立ち止まってじっとこっちを見ている。
「・・・へぇ〜」
「じゃぁね、トラ!」
「にゃぁ〜」
それを最後にトラはくるりと背を向け、最初にいた屋根のある家とは反対側の家の車庫に向かってゆっくり歩き出した。
「賢いでしょw」
家に帰ってトラに引っかかれた傷口を手当しながらが満足そうに微笑む。
「・・・まぁな。」
「最近ね、家に帰る時いっつも待っててくれて何処にいても顔みせてくれるんだよ。」
手当てを終えた後もが猫について喋るのをやめようともしないので、入れてもらったコーヒーを飲みながら半分上の空で話を聞く。
あのトラっていう猫が賢いっつーのは認めてもいい。
けど・・・何で俺を引っかくんだ!!
後日、他の奴らに話を聞けば・・・どうやら全員そのトラとは面識があるらしい。
けれどその中で引っかかれたのは俺だけ、と言うのが分かった瞬間・・・何だか嫌な予感がした。
あの猫、まさか俺だけ敵視してんじゃねぇだろうな!
虎 対 トラ の戦いはまだ始まったばかり・・・
近所の野良猫と私の惚気話です(笑)
エサもやってませんし、何もしてませんが・・・いつも実家の方へ行く度に、何処からとも無く現れます。
さすがに2階の屋根の上からやって来た時には驚きましたよ(苦笑)
上の方から声がするなぁと思って見上げたら、屋根の上で昼寝してて、手を振ったら・・・すたたたたっと下に駆け下りてきたんですよ!
勿論、ゴロリと横たわった体を思いっきり撫で回してあげました(笑)
お散歩行動?も事実です。一緒に並んで歩いてくれます(笑)
2つ3つ角を曲がる所までは一緒に歩いたりしますね。
で、道路が近くなると危険なのでもと来た道を指差して「帰れ」と言って私が歩き出すと、暫くその場で見送ってくれてあとは適当に元の道へ帰っていきます。
泣き声が変わるのも事実(苦笑)
時間が無くて遊んであげられず、ちょっと構ってから帰ろうとすると「にゃ〜」と言う高い声が「にゃぁー」と言う低音に変わります。
・・・不満、何でしょうね(苦笑)
とまぁそんな可愛い近所の野良猫「トラ」と「虎」の話でした(笑)
トラは勿論高耶の事を「敵」とみなして引っかいたり威嚇したりしてますw
↑ちなみにこれが携帯で撮った愛しいトラです(笑)↑