たまたま入った酒場にいた、ただの女のひとり
別に、容姿が優れてたわけでもねぇ…
どこにでもいる、たんなる女

――― それが、何故…こんなにも気にかかる




「…どうしたんです、三蔵」

「ナニ?イイ女に見惚れでもしたか?」

「悟浄じゃあるまいし…」

「あァ?なんか言ったか?こっのバカ猿!!」

「いだっ!」

「ほらほら、二人とも。あまり騒ぐと三蔵に怒られますよ」

普段なら、ぎゃーぎゃー騒ぐ馬鹿どもをこの辺りでぶっ叩いて、とっとと宿へ帰るところだ。
ここ最近は野宿も続き、まともな宿で眠れるのは久しぶりだ。

だが、それらを天秤にかけたとしても…この場を、動く気にはならない。
瞬きする間すらも惜しんで、カウンターに座っている女を見る。










「…………さ、さんぞぉ?」

「おーい……」

悟空が三蔵の名を呼んでも、悟浄が三蔵の目の前で手を振っても…彼の反応は無い。
頼んだ酒は、盃に何度か注いでいる様子は見ているが、その中身は半分は残っているだろう。

「っつーか、これは…マジでアレか?」

「アレ、かもしれませんね」

「アレ?アレってなんだよ?」

大きく首を傾げ、悟浄と八戒に尋ねる悟空であったが、何やら目配せをした後、悟浄は悟空の手を取り、八戒は支払いを席で済ませた後、店員になにやら告げてから立ち上がった。

「さて、ではよい子は宿で休みましょうか」

「そーだな」

「えー?三蔵は!?」

「三蔵は…今日は、外泊です」

「外泊…ってことは、三蔵だけ泊まり?」

「いやぁ〜ついに三蔵サマがチェリーちゃん脱出かァ?」

「悟浄、三蔵が聞いていたら怒りますよ?」

「今のアイツなら、大丈夫だって」

「ずりぃ!三蔵だけまだ店で食うんなら、オレも残る!」

悟浄の手を振り払って三蔵の元へ戻ろうとする悟空の肩を、八戒がポンッと叩いた。

「悟空?」

「な、…なに?」

若干怯えるように八戒と目を合わせるが、次の瞬間、彼の頭の中から三蔵の存在があるものへと置き換えられた。

「あそこの屋台にある肉まん、あるだけ買ってあげます」

「マジ!?」

「えぇ」

「やったー!!」

そのまま屋台に向けて走り出した悟空を見て、八戒と悟浄が思わず顔を見合わせる。

「三蔵は肉まんに負けた…というところでしょうか」

「これこそ、あとで三蔵サマにアイツ殺されるんじゃねェの?」

「八戒〜、悟浄ー!早く早くー!」

「今行くっつーの!」

悟空が今にも肉まんに手を伸ばしそうなのを見て、悟浄が慌ててそちらへ駆け出した。
八戒は再び店内へと視線を戻すが、未だ三蔵は一点を見たまま動く気配は無い。

「…この時だけでも、思うままに…」

ぽつりと呟く声は町の喧騒にかき消され、彼の名を呼ぶ声によって、続く言葉は音になることもなかった。










どれくらい見つめていたのかわからない。
けれど、女が支払いを済ませて立ち上がり、出口のあるこちらへ歩いてくる。
縮まらなかった距離が、徐々に縮まり、今まで垣間見えていた女の顔が、はっきりと紫暗の瞳に映った。

そのまま、自らの横を通り過ぎようとした瞬間…女が人にぶつかり、僅かにこちらへよろめいた。

「…ごめんなさい」

よろけた身体が、机に置いていた手に触れた瞬間、まるで電流を浴びたように指先から痺れた。

けれど、それが与えるのは痛みや嫌悪ではない。
寧ろ…心を、身体を熱くするモノ。

「あの…?」

困惑する声に気づき、女の視線の先を見れば、いつの間にか白い手をしっかり掴んでいた。

「…すまん」

そう口にしながらも、その手を離すことが出来ない自分に困惑する。



離してしまえば、ここで終わる。
離せない、離したくない。

この感情が、なんなのか…
知リタイ



ごくりと大げさに唾を飲み込み、軽く舌打ちをしながら、今度は正面から女と視線を合わせた。

「まだ、時間はあるか」

「…はい?」

どこぞのエロ河童のような安っぽい台詞を、口にするとは思わなかった。
けれど、今の自分には…この女を引き止めるために出てくる台詞は、これぐらいしかない。

「…よかったら、酒に…付き合ってくれ」

脳裏で腹を抱えて笑っているヤツラの姿が浮かんだ。
だが、それらを吹き飛ばすような返事が耳に届き、逸らしかけた視線を戻した。

「私で、よければ…」

微かに頬を染めて微笑んだ女は、どこにでもいるただの女に変わりは無い。
だが、その瞳に映る俺の顔は…今まで見たことがねぇくらい、だらしなく緩んでいやがった。

それだけで、コイツが…俺にとって、特別な女なんだと自覚するのには十分だった。





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お星様だと思われる。
いいのかーこれで!?
数年ぶりの最遊記がおかしいよ(苦笑)

主にありえないよ!三蔵様!!



……と、叫んだ後で、フォローという名の呟きをする。
三蔵様が一目惚れというお星様へのお願いでした。
三蔵様が一目惚れ!?とかそこでもう私の頭が寧ろスパーク★
その結果がこちらでございます…名前変換無くてすいません。
寧ろ、これを続ければなんか甘くなったり名前も出てきたりするんですが…

最高僧、はじめて恋に落ちる(キラン☆)

的な状況だけで、今の自分には精一杯でございました。
中途半端なお星様でしたが、少し、少しでも、おぉ!?とか思って貰えれば嬉しいですm(_ _)m
2010/07/31