「んっ…」
思わず洩れそうになった声を、必死で飲み込む。
「ふふ…どないしたん?」
ドアに押し付けたまま、半ば強引に唇を塞いだ蓬生は、楽しそうに瞳を細めてる。
「…わかってて、やってるでしょ」
「さぁ、どうやろ」
蓬生とキスをするのが嫌なんじゃない。
ただ、場所が問題なだけ。
「こ、ここじゃやだっ」
だから、素直にそれを告げるが、返事は同じ。
「…なんで?」
「なんでって…」
ドアの向こうは、廊下。
しかも自分の部屋は、上下に行き来する階段のそばだから、耳を澄ませば階下にいる人たちの声も聞こえてくる。
そう…菩提樹寮は年期に比例して、壁だけではなく、ドアも…薄い。
いくら千秋でも、ドアや壁までは一晩で交換出来なかったみたい。
「あんたのええ声、聞きたいわ」
「だ、だから…ここじゃ、やだって」
両手のひらを重ねたまま押さえつけられている手に力を入れようとしても、びくともしない。
「どこでもええやん…」
「馬鹿蓬生っ!!」
動けないのなら、せめてもの反撃と称して身体を捻るが、逆に今度は身体ごとドアに押し付けられた。
「…キスだけ、ね?」
「ぅ…」
「それ以外は、今は我慢するわ…」
「……ぜ、絶対…?」
「絶対…」
「約束?」
「約束」
メガネの奥で揺れる瞳を見て、握り締めていた手の力を緩める。
「キスだけだからね」
「…キス、だけや」
意識全部を蓬生に向けたら、周りなんて見えなくなる。
だから、ほんの少し…ほんの少しだけ、ドアの向こうを注意しながら、今度は素直に蓬生のキスを受け止めた。
甘える蓬生が好きですけど、なにか?
Sさん!早速ネタ使わせていただきました☆
2010/06/18