っ!」

学園祭で演奏する曲を全体で合わせとる最中、が倒れた。
演奏は止まり、すぐに千秋がを抱き起こす。

「あかん、動かさん方がええ」

「大丈夫だ、頭は打っていない」

「救急車を呼びますか?」

そういえば、今朝会うた時、寒気がする言うとった…ひょっとして風邪こじらせたん?

「いや、車の方がいいだろう…蓬生、いけるか」

「すぐ出すわ」

「部活の方はお任せください」

「あぁ、任せた」

「芹沢くん、頼むわ」

椅子にかけとった上着を手に取り、羽織りながらポケットから車の鍵を取り出す。

「千秋、先行くで」

「あぁ、すぐこいつを連れて行く」



――― もう少し早よ、気づくべきやった…










「ただの風邪だよ」

「…風邪」

「けど、あの子気管支弱いやん」

「君らがいち早く連れてきてくれたからね。大事に至らなかった…ありがとう」

何度か会うたことのある、あの子に似た温かい笑みの医者の言葉に、ようやく安堵の息をついた。

「今日は預かるけれど、明日には家に帰すよ」

「ほんまですか?」

「太い注射一本、我慢できればだが」

「遠慮せずやっちまってくれ」

「千秋、そないいけずなこと言うもんやない」

「はっ!この俺を心配させたんだ。安いもんだろう」

「えーと、ところで…表の車は土岐くん、のものかな」

「はい」

「あの子が目を覚ますまでここにいるつもりなら、車を駐車スペースへ移動させてくれるかな」

「すいません、今すぐ動かします」

あかん…どんだけ気ぃ急いてたねん。
いくら近い言うても、正面につけるんやなかったわ。

「それじゃあ、私も診察へ戻るとするか。帰る時は、受付に声をかけてくれ」

「はい、わかりました」

「お世話になりました」

「それは、こっちの台詞だ…娘をありがとう」

ぱたんと静かに扉を閉めて出て行った後、俺も車を移動させるべく立ち上がった。

「ほな、行ってくるわ」

「あぁ」

何も言わんでも、が目ぇ覚ます時、そばに居ってやりたい気持ちはわかる。
けどまさか…俺が戻った時に、あないなことになってるとは…こん時の俺は、全く予想もしていなかった。





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ヒロインは病院の娘設定なの…年の離れた兄もいるはず(はずって)
本編じゃなく、何故ここで連載風味になったか謎。
ふ.震えた声に続きます。
2010/11/14