「あっれ〜、八木沢部長何してるんですか?」
「手紙を書いているんだよ」
口に入れていた棒付の飴を手に持つと、彼は酷く不思議そうな顔で首を傾げた。
「手紙?」
「そうだよ」
「なんでメールじゃないんですか?」
彼の疑問は酷く当たり前のことかもしれない。
「メールの方が早いし、写真もすぐ送れるし…あ、あと、この間ちゃんとこう言ったのにーっ!っていう証拠にもなるじゃないですか」
「…証拠って、水嶋、なにかあったのかい?」
「いえ、別に。ただ昨日みた刑事ドラマでそんなやり取りがあったなーって」
「だから証拠になるって言ったんだね」
「はい!部長は見ました?あれ、犯人は…」
どうやら昨日見たドラマの話をしてくれるようだ。
手紙を書こうとしていた手を止めて、水嶋の話を聞こうとしたけれど、それよりも先に彼を止める手があった。
「こぉ〜らぁ〜…水嶋ぁ〜」
「うわっ、火積先輩!?」
「てめぇ…部長の邪魔すんじゃ、ねぇっ!!」
火積が取ろうとしている行動を止めるよりも先に、いつものように彼の拳は水嶋の頭に到達してしまった。
「Ai!!いっ、たぁい〜」
「こいつぁ俺が向こうに連れていくんで、続き…やって下さい」
「火積」
「大事なもん、なんでしょう?」
――― 大事なもの
そう言われて、僕の視線は自然と書きかけていた手紙へ向いていた。
「うん…そうだね。どうもありがとう、火積」
「じゃ、失礼します」
「ちょ、火積先輩!オレ、猫じゃないんだから襟掴まないで下さいよ〜」
「うるせぇ…てめぇはもう少し空気を読めっ!!」
そんな二人のやり取りを見送りながら、再びペンを手に取る。
機械で綴られる文字ではなく
自らの手で綴る文字を、彼女へ届けたい
そう思ったら、急に手紙が書きたくなった。
他愛無い日常を綴り、最後は…毎日でも伝えたい言葉で締める。
――― さんが、大好きです
この想い、伝わりますか?
八木沢部長は古風だと思う。
下手すると、なんか縦書きの和紙とかの手紙が来てもおかしくないと思う。
2010/06/17