「もう一度"恋"について教えてくれないか」
「…何度目?」
「わからないなら、いつでも聞いていいと言ったのは君だろう?」
「まさかこんなに何度も聞かれるなんて思わなかったんだもん」
先ほど渡したお茶を飲みながら、あきれるような表情で同じ言葉を繰り返す。
「好きな人をみてると笑顔になるし、胸がどきどきする…」
――― 嘘だ
「一緒にいられれば幸せだし、話せればもっとうれしい」
――― 嘘、だ
「そんで、好きな人が笑ってくれるとうれしくて、自分も笑顔になる」
――― 君の言うことは、嘘ばかりだ…
「天宮くん…聞いてる?」
眉間にしわを寄せて顔をのぞき込まれ、鼓動が不規則に跳ねる。
「聞いているよ」
「…そういって、次に会うとまた同じ質問するくせに」
ペットボトルのふたを閉めて、まだ水滴の残るそれを自分の額に当てる。
水滴に光があたり、こぼれたそれが彼女の額をつたうその姿を…綺麗だと思う。
こんな感情を…"彼女"には抱いたことはない。
そう思うのは"君"に対してだけ…
「けど、こんな風に言葉にしても…結局、恋って頭でするものじゃないから、あたしも本当のところわかっていないのかもね」
それならば、僕と恋をしてみないか?
…それは、小日向さんに言った台詞と同じ。
僕が"恋"をしているのは小日向さんのはずなのに、彼女が教えてくれる感情を抱いたことはない。
そして、教えられる感情と真逆の感情を受けるのは…さんだけだ。
――― どちらが本物の恋なのか…
「こないなところでデートなんて妬けるわ」
「蓬生!」
今まで僕をみていた瞳が、一瞬にして別の色に染まる。
「俺は暑い中、鬼部長に連れて行かれたのにひどいわ」
「今日は集中するから来るなって言ったのは、その鬼部長さんですけど?」
「せやったね。…あぁ、天宮くんこの子の相手、ありがとう」
「…いえ、僕の方こそ彼女にはお世話になってばかりで」
わからないなら、教えると
いつでも、聞いていいと
その優しさに、僕はつけ込んでいるのだろうか。
「ちょっと待ってて、捨ててくる」
空になったボトルを捨てに走り出した彼女へ視線を向ければ、それを遮るように大きな影が目の前に入り込んできた。
「の優しさに甘えたらあかんよ」
太陽を背にしている彼の表情は見えないが、あまり愉快な表情はしていなそうだ。
そのままこちらへ顔を寄せたかと思えば、冷たい声であることを告げられた。
「…あの子は、俺のもんや」
「…!」
「蓬生〜、お待たせ」
「ほな、行こか」
――― あの子は、俺のもんや
何事もなかったかのように歩き出す土岐蓬生の後に続くよう、彼女が歩き出す。
彼が声をかければ、嬉しそうに頬を染め返事を返す。
けれど、それを見る僕の胸は…誰かに掴まれているかのように締め付けられる。
君を見て、どきどきすることなどない
胸が痛むばかりで、うれしいことなどひとつもない
頭ではわかっているのに、僕はどうして彼女に声をかけてしまうのか…
遠ざかる彼らから視線を逸らすと同時に、遠くから名前を呼ばれた。
「天宮くーん」
何事かと思い、もう一度視線をそちらへ向けた。
「お茶、ごちそうさま〜!またねー!!」
僕へ笑顔を向けてくれる、君。
痛んでいたはずの胸が、音色を変え、響き始める。
「…あぁ」
僕は、君に"恋"はしていない
君が言う"恋"に当てはまる感情を、受けてはいないからね。
けれど…今、君が僕を見て微笑んでくれた瞬間、僕の口元が自然とゆるんでしまったのは…嘘、ではない。
彼女が教えているのは、片想いの楽しい恋。
でも、天宮くんが感じているのは…片想いの苦しい恋。
だから、天宮くんの感情と彼女の教える恋にズレが生じてるから、嘘となる、と。
…わかりにくくてすいません(苦笑)
私の中では、きっちりしてるんです…←おい
ちなみに蓬生→彼女←天宮って感じです、この話。
2010/08/03