「…ふぅ、暑い」

後ろ髪を持ち上げながら、首筋を手持ちの扇子で扇ぐ。

「千秋もクーラーぐらい入れてくれればいいのに…」

扇ぎながら文句を言っていたら、首筋にひやりとしたものが当てられ反射的に声をあげる。

「うひゃあっ!」

ハッ、随分な驚きようだな」

「なんや、もう少し艶っぽい声あげればええのに…残念」

「千秋、蓬生…」

首筋を手で押さえながら振り向けば、千秋の手に不似合いな物があった。

「…………なに、それ

「練習を終えて帰る途中で売っててな」

「あーいうの、たまに食べたならん?」

千秋の手にあるのは、アイスキャンディー。
コンビニにあるものじゃなくて、よく、公園とかで自転車に乗ったおじさんがクーラーボックスにいれて売ってたりするあれだ。

「ま、お前はクーラーの方がいいみたいだからな。ハラショーにでも行け」

「えええー!?」

「ふふっ…いけずやねぇ、千秋。が何食べるか散々悩んで、全部買おう言うた人の台詞とは思えんわ」

「黙れ、蓬生」

そんな二人のやり取りを聞いて、思わず千秋に飛びつく。

「ありがとう、千秋!大好き!!」

「っ…おい」

「なんや、千秋ばっかずるいわ。な…アイスキャンディー買うて帰ろ提案した俺のことは?」

にこにこ笑顔で自分を指差す蓬生を見て、千秋に絡めていた腕を緩めて今度は隣にいた彼の首へ手を回す。

「蓬生も大好き!ありがとう!」

「ふふ、どういたしまして」

「で、どれにするんだ。さっさと食わねぇと溶けるぞ」

千秋の声に蓬生から手を離すと、ビニール袋をがさがさ探り、中からバニラを取り出す。

「これ食べていい?」

「あぁ」

「千秋はなににするん」

「アイスより麦茶だな」

「了解…ほな、残りは冷凍庫にいれとくわ」

「じゃああたし麦茶持って来てあげるよ」

アイスの袋を開けかけて立ち上がれば、蓬生にぽんっと頭を撫でられる。

「そないなことしとったら、ほんまに溶けてまうよ」

「折角俺様が買って来たんだ。気にせず食え」

「…えーと、それじゃあ遠慮なく」

大人しく座りなおして袋を破くと、霜のついているアイスをぺろりと舐めた。

「ん〜…冷たくて美味しい」

ついさっきまで暑くて仕方なかったのに、冷たいアイスを食べていると、この暑さすら心地よく感じてしまうのが不思議だ。

「あぅ…でも、室温高いから…と、溶けるの早い」

舐めたところから溶けだしてくバニラを舌で辿るが、舐めた端から溶け出していく。
面倒になって、ぱくりと口にほおばった瞬間、隣から何かを吹きだす音が聞こえた。

げほっ…ごほっ…

そこには、いつの間にか麦茶を飲んでいた千秋が、思いっきりむせていた。

「なんや千秋。こうなるんわかってて買うたんとちゃうん?」

「アホ……予想外や」

「まだまだやねぇ…な、。こっちのも味見せぇへん?」

こちらに背を向け、むせてる千秋を余所に、蓬生が食べていたアイスキャンディーを差し出してきた。

「これなに?」

「小豆」

「じゃあ、あたしのバニラと交換する?」

「俺にはバニラ甘すぎるわ。せやから、そっちはあんたが食べ」

「そっか…じゃ、ひとくち貰いまーす」

バニラも美味しかったから他の味も食べてみたいと思っていたので丁度いい。
しかも普段、自分が好んで食べるものじゃない和風味なので、喜び勇んで身を乗り出す。
差し出されたアイスにあと少し…というところで、ふい…っと蓬生の手が微かに上に上げられた。

「あぅ」

「ほらほら、こっちやで」

「うぅ…いじわる」

「あんたの可愛い顔が近くで見たいだけや…ほら、おいで」

隣にいた千秋の膝に手をついて、蓬生の持ってるアイスを狙う。

「ふふ…可愛ええな」

ぺろっとアイスを舐めると、バニラとは違う味が口に広がる。

「あ、これも美味しい」

「も少しあげよか」

「うん!」

舐めるだけじゃ足りなくて、ぱくりと口にくわえて齧ろうとした瞬間…首根っこを引っつかまれて、アイスから引き離された。

「…うぁ?」

アホ蓬生!!やりすぎや!」

「ふふ、千秋…顔真っ赤やね。俺はただ、にアイスを分けてあげただけやん」

「お前がやると、シャレにならねぇ」

首根っこを掴まれたまま、ふと自分の手が冷たい事に気付いて視線を落とせば、アイスが溶けてぽたりぽたりと垂れていた。

「わっ、ご、ごめん千秋!」

反射的に手についたアイスを舌で舐めたが、既に時遅く…ぽたりと落ちたアイスが千秋のズボンを汚していた。
慌ててすぐそばにあったティッシュで、それを拭く。

「本当にごめん!あとでちゃんと洗濯するから…」

あぁ、やっぱり蓬生のアイスを味見させて貰う前に、自分の食べちゃえばよかった。
こういうの、なんていうんだっけ…後悔先に立たず…だっけ?

そんなことを考えながら、せっせと千秋のズボンを拭いていたあたしの頭上では、二人がなにやら内緒話をしていたみたいだけど、その内容は全く耳に届いていなかった。



「なんや…これがいっちゃんエロい気するわ」

「…今後、こいつにアイスキャンディーは…禁止だ、蓬生」

「了解…あー、なんやもやもやするわ」

「全部お前のせいやろ」

「ちゃうよ、どっちか言うと…のせいや」

「…それもそうだな」




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…アイスキャンディーといえば、お約束だろう。
蓬生、小豆はあかんよ…ってか、あんたが持って、それはあかん。
千秋のズボンに落ちたのは、バニラです…それもあかん(笑)
すいません…暑さで脳みそおかしいんです。
1.甘酸っぱいにも、これの別バージョン?らしきものがあります。
2010/07/23