「ねぇねぇ、ちゃん。ちょーっとだけ寄り道していかない?」
「寄り道?」
「そ!折角君に会えたのに、このまま帰るなんてやだよ!だから、ね?」
おねがい…と、背の高い新くんが、あたしの顔を覗きこむようにしてお願いしてきた。
時計を確認すると、まだ夕飯の時間には少し時間がある。
「うん、いいよ」
「VIBA!じゃ、行こう!」
返事をするや否や、ぐいっと手を掴まれてそのまま走り出す。
身長が違えば歩幅も違う。
更にいえば、運動能力も違うから、走り出した彼についていくのは一苦労。
「ちょ、まっ……新くんっ!」
「もー、ほらほら〜早くしないと間に合わないよぉ〜?」
間に合わないってなにさ!?
とか思ったりもしたけれど、そんなことを口にする余裕はなかった。
「…はぁ、はぁ…っ…」
息を切らせながら到着した砂浜にしゃがみ込む。
「大丈夫?」
「………」
駄目、とも、大丈夫…とも返事が出来ず、それでも彼の方へ顔を動かし僅かに微笑めば、心配そうな顔がパッと明るくなった。
「あのね、あれを見せたかったんだ!」
そういって彼が示した先にあったのは、海へと沈みかけている夕陽。
「綺麗…」
「でしょー?ここからだと、綺麗に見えるってこの間気づいたんだ!」
ここ最近、暑い日が続いていて、太陽を見ても眉間に皺を寄せることが多かった。
でも今、目の前で沈んでいく太陽を見ると…自然と頬が緩む。
暫くの間言葉も無く、二人並んでその景色を眺める。
その沈黙を先に破ったのは ――― 新くんだった。
「これも…さ、想い出になるかな」
「え?」
新くんにしては珍しい、波音にかき消されるぐらいの小さな声に、思わず聞き返す。
波風で乱れる髪を押さえながら、すぐそばにいるはずの彼の方へ視線を向ければ、前を向いたまま俯いた新くんの表情は…ほんの少し、淋しそうに見えた。
「もうすぐ、夏も…終わっちゃうね」
夏が終わる…
それは、菩提樹寮から…あたしたちが元の生活の場所へ帰る、ということ。
「…そう、だね」
「でも、さ…こうして君と一緒に、こーんな綺麗な夕陽とか浜辺で見れて、オレ…すっごくうれしい」
言葉と違って、声にはいつもの覇気がない。
それが、妙に胸を締め付ける。
「あ、あはは…ごめんね。なんか、折角寄り道したのに、こんなしんみりしちゃって」
笑いながら顔をあげてこちらを見た新くんの顔は、今にも泣き出してしまいそうに歪んでいた。
「……オレ、ちゃんと離れたくないや」
泣き出す手前の表情で、そんな風にいわれたら…言葉を口にするよりも先に、身体が動いた。
大きな身体の彼を抱きしめて、自分も同じ気持ちだと抱きしめることで伝えた。
それに気づいてくれた彼が、同じように抱きしめ返し…夕陽が沈む浜辺で、あたしたち二人は暫く声もなく抱きしめあっていた。
…なんでこんな切なくなったのか、謎。
元気いっぱいな新くんで行こうとしたんだけど、夕陽見てたらそうなった(なんだそれ)
2010/07/23