「髪をまとめている簪、綺麗ですね」
「ボクも気に入ってるんだ」
「でも、それどうなってるんです?」
簪はふつう髪をまとめてとめるものだけど、ちょっと形が違うみたい。
「これはねェ、留めてるだけなんだよ」
そういうと京楽さんは、傘を床に起き、簪をはずして手のひらに乗せて見せてくれた。
「へぇ、こうなってたんですか」
「つけてみるかい?」
「いいんですか?」
普段京楽さんがつけてるのをつけられるのが嬉しくて、髪をまとめてたゴムをはずす。
手櫛で簡単に整えてから、片手に簪を持って留めようとしたけれど、なかなかうまくいかない。
「…あり?」
「んー、慣れないと難しいかな」
「そ、そうみたい…です」
変なことをして壊してしまっては大変だ…と思い、ちょっと残念に思いながら、髪をまとめていた手をはずした。
「あたしには無理みたいなので、お返しします。こうして手にとって見れただけでも満足ですし」
「それじゃあつまらないでしょ。後ろ、向いてごらん」
「え?」
「ボクがつけてあげるよ」
「え、えええええ」
京楽さんに髪をいじられるのはなんだか照れくさいというか、こんなばさばさ頭に触れさせるのは申し訳ないというか。
けれど、にこにこ笑顔の京楽さんが簪を手に待っている。
「………お、お願いします」
わずか1分で負けてしまったあたしは、素直に背を向けた。
髪の毛に神経はないはずなのに、京楽さんが触れた瞬間、肩がふるえる。
「ちゃんの髪はふわふわだねぇ」
「そんなことない、ですよ」
ただ、返事を返すだけなのに声が震える。
声、ふるえるな!!
これ以上おかしなことにならないよう、ぐっと唇をかみしめていると、背後から苦笑い混じりの声が聞こえた。
「参ったねぇ、どうも」
なにがあったのか、と振り向くよりも先に、背後からしっかり抱きしめられる。
「きょ、京楽、さん???」
「ちゃんに触れたら、髪だけじゃ足りなくなっちゃったよ」
「足りなくって…」
軽く混乱した状態で、とりあえず声の主の方へ顔を向ける。
そこにいたのは、普段はまとめている髪をおろして、じっとこちらを見つめる…大好きな、彼の瞳。
「…触れても、いいか」
好きな人に、そういわれて嬉しくないわけはない。
「はい…京楽さん」
「…その顔は反則でしょ」
軽々と抱き上げたあたしの顔を覗き込みながら、困った顔をする京楽さん。
「そんな顔にさせてるのは、京楽さんですよ?」
「…じゃ、もっとちゃんのイイ顔見せて貰おうかな」
柔らかなベッドにおろされた瞬間、京楽さんがつけてくれた簪が、小さな音を立てた。
触れてもいいか、は着ボイス参照…あの大塚さんは卑怯。
2010/06/26