今日は久し振りに人に会うのだと出掛けて、帰って来た時には酷くスッキリした顔をしていた反面…酷く疲れているように見えた。
案の定、一緒に食事を取っている最中から、幼子のようにうとうとし始める始末。
食後、彼女にお茶を差し出し、一口飲んでから声をかける。
「…」
「ん〜…」
「眠るならベッドに行って下さい」
「寝てないもん、起きてるもーん」
そう言いながらも、既に机に額をつけてしっかり眠る体勢を整えている。
「仕方がありませんね」
有無を言わさず小さな体を抱き上げる。
「…」
けれど、普段ならあるはずの抵抗や恥じらいから来る拒絶がない。
まさかもう眠ってしまった?
そう思って様子を伺っていると、彼女の手が僕の首に自ら手を回ししがみついてきた。
「?」
「あのね〜、べんけー」
寝惚けているせいで呂律の回らない可愛らしい口調。
「んっと…ねぇ〜」
「はい」
けれど、中々次の言葉が出て来ない。
拙い言葉に相槌をうちながら、寝室へ向かいベッドに彼女を下ろすが、今だ僕の首に回された手が外れる事はない。
「ほら、ベッドにつきましたよ」
「ん〜」
「このままじゃ眠れないでしょう?手を離して下さい」
「やぁーだー」
普段ならすぐに恥らって振り払うのに、意識が途切れかけている時の方が素直だなんて…困ったお嬢さんですね。
それでも疲れている彼女に、これ以上無理をさせるわけにはいかない。
抱きしめられたままの体勢で、後頭部に手をやり…そのまま柔らかな枕へ横たわらせる。
そして耳にかかる髪を払いのけ、そっと唇を寄せた。
「…いけない人ですね、君は」
「!?」
「僕が僕を抑えていられるうちに、離して下さい。それとも…この先を望みますか?」
わざと声を落として囁けば、あっという間に恋人の呪縛が解かれた。
「そんなにすぐに離されるのも残念かな」
「べんけ〜っ!」
「…おやすみなさい、続きは君が元気な時に…ね」
微笑みながら額に口付けを落とし、その場を去ろうとすると、何かが服の裾を引っ張った。
振り返ると、裾を掴んでいたのは…愛しい人の可愛らしい手。
そんな仕草すら愛らしくて、膝をついて彼女の手を取る。
「あの…ね…」
「はい」
まるで誘っているように蕩けた瞳で眠気と戦いながら彼女が口にした言葉は…少なからず僕を驚かせた。
「好き…」
「…?」
「ずっと、ね…言いたかった…の」
「…」
「弁慶に…会え、て…、一緒、いられ、て……嬉…し・・」
最後の言葉は、彼女の唇の動きだけとなり、音にはならなかった。
けれど、その優しい気持ちはしっかり僕の心に…届き、刻まれた。
「…ありがとうございます」
繋いだ手の甲に感謝の気持ちを込めて口付けを落とす。
そしてゆっくり手を離すと、枕元の明りを…消した。
「これ以上君に魅惑されたら、僕はどうなるのかな」
そんな事を呟きながら愛しい彼女の隣に身体を滑らせ、その身を抱き寄せる。
目覚めたら、君にもきちんと伝えなければいけませんね。
僕も、君のことが好きだと…
そして、愛している…と。
2007年の誕生日作品を校正し直して、サルベージ。
どんなに疲れていようと、気持ちを伝えたいと思ったら…伝えたい。
思うだけじゃなく、言葉にするのも大事だよね。
2010/09/28