「お願い…起きて…」
息を吸い込んで、何度も何度も触れた唇に吐息を注ぎ込み、すぐに心臓マッサージを行い、再び人工呼吸を行う。
「起きてよ…」
色白な肌は更に青白くなり、温かな笑みを浮かべている頬は真っ青だ。
そしていつも甘い囁きを、甘いキスをくれる唇は…冷たい。
「アスラン!」
唇を合わせ、命を…そそぐ
氷の張った湖で、一人の子供が泣いていた。
転がったボールを拾いに行ったんだろう。
子供を中心にヒビが入った氷を見て、アスランがすぐにそこへ向かった。
「はレスキュー隊に連絡を!」
「分かった!」
あたしが目を離した数分のうちに、状況は…悪化していた。
氷の上にいたはずの少年は、岸辺で声を上げて泣いていたが、そこにアスランの姿はない。
「…アスラン?」
泣いている少年が震える手で湖を指差していた。
その先には…池の真ん中に浮いているピンク色のボールと、真っ白な衣服。
「アスラン!」
その白は、ついさっきあたしがあげた…セーターの ――― 白
湖から引き上げられたアスランの体からは、ついさっきまで感じていた温かさは感じられない。
「…もう少し、早ければ」
「助ける人間が諦めるな!」
あたしはアスランの顎を傾け、即座に人工呼吸を始めた。
――― こんな所で失う訳にはいかない
延命処置が遅いのは頭では分かっている。
周りの氷が薄くて、救助に時間がかかったのが原因だ。
でも、でも…アスランがあたしの声に応えないはずはない!
そんな思いに引きずられるよう人工呼吸と、心臓マッサージを繰り返す。
「キミ、もう彼は…」
「煩い!」
伸ばされた手を払いのけ、乱れた髪も零れる汗も拭わず、アスランと唇を合わせる。
置いていかないで…
約束、したでしょう?
――― あたしを、守るって…
そして、奇跡が ――― 起きた。
まるで雲間から陽射しが差し込むような温かさが、唇に伝わり慌てて心臓に置いていた手を離す。
ひゅっ という小さな音と共にアスランの胸が膨らみ、大きく咳き込みだした。
「…」
後ろでレスキュー隊や通行人が歓声をあげている。
でもあたしの目には…アスランしか、見えない。
鳶色の瞳が、ゆっくり開いて…あたしを、見た。
「ん」
冷え切って自由にならないアスランの代わりにその手を握り、今度は…その無事を喜ぶためのキスをした。
「アスラ…ン…」
声はないけれど、青白い唇が微かに動いた。
――― …ありがとう、と
こちらもサルベージなのです。
種運命頃書いてたヤツだと思われるのですが、昔からキスを書くのは大好きなんだなと思いました(苦笑)
2010/09/28