「蓬生!」
「ええ子にしとるようやね」
「あはは、千秋に釘さされた」
「それくらいせんと、あんたはまた無茶するからや」
「耳が痛い」
苦笑しつつ、練習の様子を眺めているの目が僅かに赤いことに気付き、口角を上げる。
「なんや、ウサギちゃんやね」
「え゛」
「隠しても無駄や、泣いたやろ」
親指で目元を拭ってやれば、見る間に頬が朱に染まる。
「ば、ばればれ?」
「いや…近くで見んとわからんよ」
「千秋が、ね」
「あんたが頑張っとるとこ、見とる…て?」
一言一句ではないが、似たような意味合いのことを言われたのは、彼女の表情を見てわかった。
「うん!」
「見とらんようで、見とるんよ…誰でも、な」
「でも改めて言われると…なんか、嬉しいね」
蕩けそうな笑顔を見て、俺の胸まで温かくなってくる。
やっぱりはこうでないと、な。
「千秋の言葉ひとつで、そない可愛らしい顔見せるなんて卑怯や」
「そ、そういうんじゃないってば」
「ほな、俺なりに誉めよか」
耳元へ顔を近づけ、昨日教科書を読んだ時よりも数段甘さを増した声を落とす。
「…あんたみたいな頑張り屋さん、好きやで」
「ふぎっ!!」
「けったいな声出さんどき。千秋に怒られ…」
みなまで言葉を紡ぐ前に、視界に仁王立ちする人物の影が映った。
「お前ら…見学、の意味…まさか、知らないわけじゃねぇよな」
「し、知ってます!」
「知っとうよ」
「だったら、他のヤツラの集中力を切らすようなマネしてんじゃねぇ!!」
「あれあれ、怒られた。のせいや」
「はぁ!?あたし?蓬生のせいでしょ?」
「ちゃうよ、が声を上げんかったら、バレへんかったのに」
「……芹沢」
「はい」
「今日のデザートはなんだ」
「さんの快気祝いも含めて、堂島ロールをご用意しました」
「え?」
の目が、俺から芹沢くんへと映る。
その横顔は、好物の餌を今か今かと待つ…犬のよう。
「いいか、。蓬生にちょっかい出されて反応したら…デザートはなしだ」
「は!?」
「へぇ、それちょっと面白いやん」
「それから蓬生」
「なん?」
「これから演奏をはじめる。乱れた音を全て、チェックしろ」
「…全部、て…」
「全部だ。それくらい、お前ならわけないだろう」
出来ないことはない、が…そんなことをしながら、へちょっかいを出すのは少々骨が折れる。
「…なんや、高い買い物した気分や」
「はっ、俺様に手をあげておいて、そう簡単に逃げられると思うなよ」
「え?なに?なにそれ?」
「さん、自ら副部長へ近づいては、デザートが…」
「あああっ」
「今のは見なかったことにしてやる。いいか、はじめるぞ!」
「はいはい」
「はーい!」
俺らの関係は、友達…とはちゃう
友達以上…恋人未満
男女の場合は恋人未満、いう言葉が使えるけど
男同士の場合は、どうなんやろ?
親友、てのもなんやこそばゆい
せやったら、戦友…のが、ええ
大事なお姫様を守りながら…一緒におれたら、十分や
色々あったけれども、いつもの三人に戻りました…ということで。
堂島ロールは、私が今一番食べたいロールケーキです。
長々お付き合いくださいましてありがとうございました。
2010/11/16