「あれ…」
ペンケースを探って、消しゴムを探すが見あたらない。
あいにく予備の消しゴムなんて持っていないし、運が悪いことに、蓬生たちは夜のドライブに出掛けてしまった。
「うーん…ハラショーに行かないとダメかな」
「どうかしたのか、」
「あ、火積くん」
「なんか困ったことでもあったのか…」
「大したことじゃないんだけど、消しゴムがなくて」
「………はぁ?」
あ…やっぱりそういう反応になるよね。
苦笑しつつ、解きかけていたノートを閉じて伸びをする。
「大丈夫。今から買いに行ってくるし」
「…俺のでよけりゃ、使ってくれ」
「え」
「もう遅い…あんたみたいなお嬢さんが、出歩いていい時間じゃねぇ」
ちなみに時計の針は、22時をさしている。
遅いといわれれば遅いかもしれないけど、ハラショーまでなら問題ない気もする。
でも、火積くんの気持ちが嬉しかったので、彼が差し出してくれた消しゴムを素直に受け取ることにした。
「どうもありがとう」
「…いや……その、新品じゃなくて、悪いな」
「新品がほしいわけじゃないよ。でも、火積くんのおかげでこの問題、解けそう」
もう一度ノートを開いた、解きかけていた方程式に向き直る。
さっきまで引っかかってたけど、多分これで解けるはず。
シャーペンの芯をカチカチと出して、手を動かそうとした瞬間、火積くんの指がある一点を示した。
「なぁ…」
「ん?」
「ここ…プラスとマイナス間違えてないか?」
「え……あ、やだ…本当だ」
彼が示してくれたのは、あたしが消しゴムを必要としていたところだった。
「あははは…これを直すのに、必要だったんだ」
消しゴムを指でつまんで苦笑いすると、火積くんがほんの少しだけど…笑った。
「あんた、意外とおっちょこちょいなんだな」
「意外とって…」
「に任せる…って、神南の部長さんが良く言うだろ。そいつを聞いてたからか、随分しっかりしてんだと思って見てた」
「見てた?」
「…あ、いや……なんでもねぇ。それより、早く解いちまったほうがいい。時間かけると、折角解きかけた問題がまた解けなくなっちまう」
「あ、そうだね」
確かに、ついさっきまで絡まった糸を必死でほぐしていた問題が、今は難なく解ける。
まるで消しゴムが、固まってしまったあたしの頭の中を綺麗にしてくれたみたい。
本当は借りた消しゴムに男子校ならではの落書きでもしようと思った。
それで慌てる火積…犯人は勿論、新。
勿論あとで新は殴られる…お約束。
2010/06/15