「…なんでこうなってんだろ」
ちゃぷん…と手のひらでお湯をすくってため息をつく…と、そこへ、あの人の声が響いた。
「おい、」
「うぁはいっ!!」
ばしゃっと大きな音を立てて、高耶の声に答える。
「着替え、俺ので悪いが置いとくぞ」
「ど、どうもありがとう」
そう、あたしは今…何故か高耶の家のお風呂に入ってる。
「ついでにメシも食ってけよ。お前がいると、美弥も喜ぶ」
「いいの?」
「あぁ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」
って、何普通に会話してるのあたし!
ドアの向こうに高耶いるのに!
あたし、裸なのにっ!!
一気に動揺して、ばしゃばしゃと暴れていると、不安そうな声が聞こえた。
「お前…まさか風呂で溺れてねぇよな」
「そ、そんなわけない!」
「ははっ、だよな。んじゃ、肩までつかって、ちゃーんと100まで数えたら上がって来いよな」
「100までって、子供か!」
「歩いて水溜りにはまった上、トラックに水かけられる大人なんて知らねぇよ」
――― 高耶に言われたままの出来事に遭遇した大人は、こうしてお風呂に入ってます
「んじゃ、俺ちょっくらコインランドリー行って来るから、留守番頼む」
「え!?いいよ、あたし後で自分で行くし」
「ばーか、野郎の服で外に出るわけにいかねぇだろ」
…それも、そうか。
「じゃ、行ってくる」
そういうと、ぱたんと音がして足音が遠ざかり、遠くでドアの閉まる音が聞こえた。
「…はぁ〜」
改めて身体の力を抜いて湯船につかる。
さっきまでは気づかなかったけど、置かれているシャンプーが普段自分の使っている物と違っていることや、いっちょ前に髭剃りなんかが置いてあって思わず笑いそうになる。
「使ってるのかな…」
ヒゲを剃る高耶なんて、なんか想像出来ないや。
そんなことを考えながら、ゆっくり数字を数え始める。
「…いーち、にー…さーん」
お風呂借りたお礼に、夕食の手伝いをしよう。
もし、時間があれば…なにかデザートでも作ってあげたいな。
妹思いの、優しいお兄ちゃんに…
これ、沢山の人が浮かびました。
…が、世話焼き高耶に白刃の矢が、すこーんと当った。
2010/06/18