胸が苦しい…
瞳が、熱い…
次から次へと、涙が溢れてくる。
泣きすぎて、呼吸もままならない。
けれど、名を呼ぶ
あの人の名を…
振り返ってくれない、あの人の名前を呼び続ける。
歩き出したあの人を止めようと、涙で濡れた手を伸ばす。
――― …っ!!
けれど、あの人はそのまま闇の中へ消えてしまった。
その場に崩れるように座り込み、瞬きせずに涙を流し続ける。
すると突然、身体が揺さぶられるような感覚に襲われた。
「…ぃ………い……おい、っ!!」
「っ!!!」
目を開けると、暗闇の中に…千秋がいた。
「大丈夫か」
返事をしようと口を開くが、水分が全くないかのように擦れていて声が出ない。
「待ってろ、今、水を…」
そういって起き上がろうとした千秋のシャツを両手で掴む。
「っと…どうした?」
「いかな、で…」
さっきのは夢だった…のだろう。
けれど、今、千秋がそばを離れてしまったら、現実となってしまう気がしてならない。
「…お願い」
「……あぁ、わかったよ」
ぐしゃりと頭を撫でてから、額をこつんと合わせてきた。
「熱があるわけじゃないんだな…随分魘されてたぞ」
「……夢、見たの」
「夢ぇ?」
誰かに聞いたことがある。
悪い夢は、口にしてしまえば現実にならない、と。
でも、さっきの夢は…口にすると、現実になってしまいそうな恐怖が付きまとう。
「ガキみたいに怖い夢でも見たってか?」
「………」
「…って、マジかよ」
「……」
肯定も否定もせず、ゆっくり目を開けて千秋を見つめる。
「千秋…」
「……」
ただ、それだけで、千秋は全てを悟ったかのような顔をして、優しく頬にキスをしてくれた。
「どこにも行かねぇよ」
「…ん」
「どっかに行ったとしたって、必ず最後はお前のとこに帰る。それだけは約束する」
「…絶対?」
「あぁ」
ゆるゆる手を持ち上げて、千秋の頬を両手で包む。
「千秋じゃなきゃ、だめなの…」
「知ってる」
抱きしめてくれていた腕の力が僅かに緩み、そのままベッドへ寝かされる。
「俺も、じゃなきゃ駄目だ」
「知ってる……」
「いーや、お前馬鹿だから忘れてる」
明るく言われて、いつものように反論しようとしたけれど、胸の奥の微かに残る不安を消すのを乞うように、別の言葉を口にした。
「…じゃあ、教えて」
「……」
「あたしじゃなきゃ、駄目だって…あたしがいいって」
「お前…」
「教えてよ…千秋」
「…あぁ」
大きな手が、涙で濡れた頬の跡を拭い…そのまま唇が重なる。
あなたがいる
それが、あたしの今
あなたがもしも消えたなら…
あたしは、どうなる?
千秋なしじゃいられない、が、不安いっぱいみたいな。
高耶とどうしようか悩んだ…が、久々の千秋にしてみた。
2010/06/30