「…おかしいなぁ」
「んー?」
腕枕をしてくれている、京楽さんの胸に手をおいて眉間にしわを寄せる。
「…苦手、なんだけど」
「なんのことだい」
「……これ」
といって、京楽さんの逞しい胸元を軽くぽんと叩く。
手のひらに触れる、自分にはない…柔らかな毛の感触。
「あぁ、胸毛」
「というか、全般的に…あーえーうー」
「まぁ、あまり好きだって言う子はいないよね」
苦笑しつつ頭を撫でるために伸ばされた彼の腕には、胸にあるのと同じように逞しいものがある。
「…ご、ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それでもちゃんはボクを選んでくれたんだしね」
鼻歌でも歌いそうな声で抱きしめられると、頬にちくちくした感触があたる。
彼と出会うまでは、好き、じゃない…
というよりも、寧ろ絶対に嫌!!といえるものだった。
でも、彼なら…と、思えてしまう。
こうして抱き寄せられて手で触れると、何故か笑ってしまうから不思議だ。
これが惚れた弱みとかいう奴だろうか。
そんなことを思いつつ、何気なく指でそれに触れていると、楽しげな声が聞こえてきた。
「それにー」
「?」
「ちゃん、案外好きでしょ」
「はい?」
「ボクが触れると、可愛い反応…返してくれるもんね」
口調はさっきから一向に変わらないが、その手はまるで先ほどまでの熱を呼び起こすかのように服をまとっていないあたしの背を這いまわる。
「ちょ、京楽さん!!」
「…ね、もういっかいしようか」
見下ろしていたはずの京楽さんは、あっという間に見上げる体勢に変わっていて…背を撫でていたはずの手は、そのまま胸元に下ろされていた。
その手際のよさに文句のひとつも言いたいけど、いい言葉が浮かばない。
せめてもの抵抗、と、否定の言葉を口にしかけたけれど、それも彼の唇で塞がれてしまう。
「ほら、素直になりなよ」
キスをやめた唇が、喉元へ降りていくと、嫌いだったヒゲが…ちくりと首筋を刺激する。
あばたもえくぼ…
きっと、今のあたしなら、彼がクマのように毛むくじゃらになろうと、ハリセンボンのように針だらけになろうと、それでもきっと好き、なんだろうなと思う。
嫌いですよ…体毛濃い人も、ヒゲも、もじゃもじゃもっ!
どっちかっつーと王子様タイプが好きだよ!
けど、好きなもんは好きって話だよ!
でも、ヒゲある人は剃ったら好感度倍増の自信あり。
2010/07/12