あの人の姿が見えない。
薬草を摘みに行くと言って家を出たのはほんの数分前。
それなのに…彼の姿が見えないだけで、こんなにも不安になってしまう。

「…っ!」

かつては龍神の神子と八葉に同行し、共に怨霊を浄化させていたというのに…ただ、あの人の姿がないだけで、こんなにも臆病な人間になってしまう。





いつも薬草を摘みに行く山へ向かい、大きな声であの人の名を呼ぶ。

「弁慶!」

皆に気付かれないように戦を抜け出し、自分だけが苦しむ策を裏で行っていた弁慶。
その背を何度追ったか…分からない。
もしかしたら、弁慶はまた私に何も言わず何処かへ行ってしまったんじゃないか。



それが ――― 今の私の不安



「弁慶っ!!」

心からあの人の…大切な人の名を呼べば、背後の茂みがガサガサと音を立てた。
反射的に振り向くと、そこにいたのは…

「どうしたんです、何かあったんですか?」

「弁慶!」

薬草の入ったカゴを持っているのも構わず弁慶に飛びつくと、驚きながらも私の体を受け止めてくれた。
何も言わずぎゅっと弁慶の体を抱きしめると、頭上から小さな溜め息と共に優しい声が聞こえた。

「僕の愛しい人は随分と寂しがり屋さんなんですね」

「…」

「何度も言ってるじゃないですか。もう二度と、君を置いて行かない…と」

「うん…」

「そんなに僕が信じられませんか?」

俯いていた私の頬に手を沿え、そのまま視線を合わせるように腰を折る。
その目はいつもと変わらぬ穏やかな色を携え、愛に溢れている。

だけど…

「…」

「おや?随分と信用を無くしているようですね、僕は」

「だって、その口でいつも嘘つくじゃない」

「…好奇心旺盛なお姫様が僕の前に現れるまでは、でしょう?」

「…」

「戦が終わり、源氏をぬけたあの日に僕は君に誓いました。もう二度と、君を置いて何処にも行かない。君に…に、嘘はつかない」

頬に添えられていた手が後頭部に回り、そのまま弁慶の胸に抱き寄せられる。

「聞こえますか?僕の鼓動」

「…うん」

「この口から零れる言の葉が信じられないなら、僕の鼓動を聞いて下さい」

「弁慶…」

「だからもう、そんな顔しないで下さい…ね?」

優しく微笑みながらゆっくり近づいてきた唇が頬を掠めた。

「…帰りましょうか」

「はい」





もう二度と運命を上書きする事はない。
だから今、この手を…しっかり繋いでいよう。

――― 貴方と共に歩む道を進む為に





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…なんつーか、迷走シリーズとか
サルベージシリーズとか名づけたくなって来ますな(苦笑)
だってこれ、明らかに…無印遙か3やってた時に書いてるよ。
ヒロインがむっちゃ迷走してる…どこへ置けばいいか暫く悩んだのは言うまでもない。
勿体無いにも程があるだろうなぁ…と思いますが、勢いで公開しちゃいます(笑)