男女の色恋に巻き込まれるとロクなもんじゃないって聞いてたけど、こんな厄介な事になるとは思わなかったぜ。

追われてるっていう木の上から落ちた女を匿えば、妙に頭でっかちなお貴族様が追いかけてきた。
その妙に落ち着いた貴族独特の話し方が気に食わなくて、頭っから怒鳴りつけてやったけど・・・時間が経って話せば話すほど、一生懸命説明しようとするこいつが悪い人間とは思えなくなってきた。
貴族の道楽で村娘を追いかけてきた・・・って、わけじゃねぇのかもしれねぇな。
そう思って少し相手の声に耳を傾けたら、意外な真実が見えてきた。

「つまり、お前が約束を破ったから、怒って出て行ったって事か?」

「はい、そうとしか思えません。」

「・・・あー、じゃぁ相手の頭が冷えるの待った方がいいんじゃねぇのか?」

「ですが、次に彼女に会えるのがいつになるか分かりません。それまでこの不安な気持ちを抱えていると、仕事に支障をきたします。」



・・・すげぇ真面目なヤツじゃん。



今まで見てきた奴らは、身分違いをいい事にすぐに女を捨てて関係ないの一点張りだった。
でもこいつはキチンと話も出来るし、アイツの事も考えてる。



もしかして、オレ・・・女の方に騙されたのか?



「・・・お忙しいと思いますが、彼女の行方を知っているのならば、どうか教えて下さい。」

「お、おい・・・頭なんか下げんなよ!」

「しょうがないよ。幸鷹は馬鹿がつくほど真面目だもん。」

動揺しているオレの隣から、耳に優しい・・・けれど、妙に雑な言葉が耳に届いた。

「また仕事抜け出して来ちゃったんだ。」

「お前・・・」

「琥珀殿!」

パッと顔を上げた男の顔が喜びに変わる。
たいして女は・・・って、なんでオレを見てんだよ。

「琥珀殿。私は・・・」

「あ、ごめん。幸鷹、ちょっと待って。すぐ一緒に帰るから。」

「え・・・」

「そこでちゃんと話ししよう。」

ついさっき追われていると言っていた貴族に向かって桜が花開くような笑顔を向ける。
それに見惚れたのか、それともこれがこいつの常套手段なのか分からないが、ゆきたか・・・と呼ばれた貴族は開きかけた口を閉じて1歩下がった。

「ね、名前は?」

「・・・」

「僧兵の人の名前。」

「・・・そんな事より、この場を説明する方が先じゃねぇのか?」

「それもそうだけど、名前がないと話ずらいでしょ?」



なんだ、この女?



「イサトだ。」

「イサト、か。いい名前だね。」

「そんなの関係ない!とっとと説明しろ!事と次第によっちゃ、オレを騙したお前を捕まえる事だって出来るんだぜ。」

錫杖を構えて脅すように向けると、何故か女と・・・そして貴族が小さく笑った。

「何がおかしい!」

「ううん。・・・あーほら、幸鷹が笑うから怒っちゃったじゃない。」

「すみません。」

「・・・はぁ、もういいや。お前と話してるとなんか疲れる。」

錫杖を支えにため息をつくと、女は興味津々といった様子でオレの顔を覗き込んできた。

「真っ赤な髪に、真っ直ぐな瞳・・・うん!海で輝く珊瑚みたい!」

「はぁ!?」

「今日はごめんね。幸鷹に追われてたのは事実で、幸鷹がイサトに説明したのも事実。イサトが幸鷹と話をしてくれたおかげで、その間に自分の気持ちを落ち着ける事が出来た。」

「・・・全然わかんねぇ。」

「えー、でももう一回幸鷹の説明するの面倒くさい。」



――― 面倒っていうか?普通!?



「あ、でも1個訂正。」

指を立ててオレの前に突き出し、その指でオレの額を突いた。

「あたしと幸鷹は恋仲じゃない。」

「ってぇ!」

「じゃーね、イサト。今日は匿ってくれてありがとう!幸鷹〜、お屋敷まで競争しよー!!」

「琥珀殿、馬には乗らないんですか?」

「いい!走る!!」

「では、館についたら何か冷たい物をご馳走させて下さい。仲直りの印に。」

「やったー!」

ガキみたいに満面の笑みを浮かべて、太陽に向かって長い髪をなびかせて走る女。
オレに一礼してから馬に乗って、走る女を追いかける男。

「・・・なんだったんだ、アイツら?」



確か女は男を、ゆきたか、と呼んでいた。
そして男は女を、こはく、って言ってたよな。

・・・ん?こはく・・・こはくって、最近聞いたような。



「・・・あーーっ!!」



――― 思い出した!!



最近この辺りに停泊している船が、海賊翡翠の船で・・・確かその船の舞姫の名前が、琥珀とか言ってた。
船の上で舞う姿しか見せない幻の美女だって勝真が言ってたけど、まさかあれが本当に琥珀なのか?

「あんな・・・ガキみたいなヤツが!?」

そう呟きながらも、至近距離で見つめられた時・・・一瞬胸が高鳴ったのを覚えている。

「あ〜っ、ちくしょう!こんな所で昼寝してたのが悪い!!」

ぐしゃぐしゃと髪を撫でつけ、木陰に置いていた荷物を取りに行く。

「・・・あれ?」

置いていた荷物の上に、小さな赤い物が転がっていた。

「なんだこれ?」

良くわかんねぇけど・・・なんか綺麗だな、これ。
ひとまず誰かの落し物かもしれねぇから、大事に布にくるんでから懐に入れた。










それから暫く経って、町に出たオレの前にアイツが姿を現した。

「やっほー、珊瑚の君。」

「お前っ!」

「この間は名乗るの忘れてごめんね。あたしの名は・・・」

「てめ、琥珀!!」

「あ、知ってるんだ。」

「当たり前だろ!お前はあのひ・・・」

翡翠の船の・・・と、言いかけた瞬間、琥珀が思いっきりオレに抱きついてきた。

「会いたかったよ!」

「っっ!!」





周囲の野次も、同僚の視線よりも・・・
この腕の中にいる柔らかな女に、戸惑いが隠せない。

捕まえなきゃいけねぇのに、捕まえられない。



逆に捕まったのは・・・オレの方か!?





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あれあれ?
おっかしいなぁ?匿って貰うはずが・・・気付いたらイサトとの出会い話に変化しちゃった(笑)
毎度書いている時ってゴールが見えていないので、どうなるか書き終えてみないとどうなるか分からないんですよねぇ。
という訳で、琥珀と幸鷹は随分仲良しになっているみたいです。
そしてひとつ謝らねば・・・イサトが偽者ですみません(汗)
遙か2は本当に縁が薄い関係で、おぼろげにしかキャラがつかめてないんです。
でも取り敢えず、私的に気に入る話になりましたので力技でUPさせて頂きます(別名、管理人権限とも言う)

短冊No.37 りどるさん:一応、お願い受理・・・したつもりですByお星さま