「那岐?」

「…」

「な〜ぎ〜?」

「…うるさいな」

「そんなところでお昼寝してると、日射病になるよ?」

「平気だよ」

庭先の木陰で休んでいる那岐に声をかけたけど、全く聞こえていない様子。

「じゃ、ちょっとだけどいてくれる」

「面倒くさい」

「ちょっとだけだから!」

「僕が起きてからにしろよ」



そんな無茶苦茶な…



いつもの事とはいえ、今日は暑いからどうしてもこれをしたい。
だから、最初にちゃんとどくように声かけたけど…どかないなら、しょうがないよね。

「どうなってもしらないから!!」

そのまま踵を返し、あらかじめ用意していたものに手を伸ばして蛇口を捻る。
そしてそのままシャワー状になっている水を、那岐の方へ向けた。

「えいっ♪」
「うわっ!!」

そんなに勢いはなかったけれど、眠りかけていた那岐には効果絶大。

「あはははは」

「……ガキ」

「何度言っても起きてくれなかった那岐が悪いんだもん」

ぷいっと横を向いて、今度は花壇に水をやる。

「はぁ…のせいでびしょ濡れだよ」

「そんなに勢い良くかけてないでしょう?」

全く大げさだなぁ…とため息をついて振り向こうとした瞬間、肩口から両手が伸びてきて持っていたホースを奪われた。

「え?」

「…暑いなら、一緒に涼しくなろうよ」

「ちょ、な、那岐、待った!!」

「待ったなし」

両手で顔をガードしたまま、これから訪れるだろう悲劇を待っていた…けれど、それは中々やって来ない。
ゆっくり目を開けると、朝…出掛けていった時に見たスーツ、そう…風早の背中があった。

「あ〜…涼しいですねぇ」

「…あんた、何してんのさ」

「いえ、ちょうど家に入ろうとしたらの悲鳴が聞こえたもので、つい…」

「…悲鳴、ね」

「ご、ごめんね!風早!!すぐ、タオル持ってくるから!」

「いいですよ。今日は日差しが強いのですぐ乾きます」

「…ま、あんたは良くてもスーツはまずいんじゃない」

「あぁ、それもそうですね。それじゃあ着替えてきます」

私が那岐に水をかけたりしなければ、風早が水をかけられることもなかったのに。
ちょっとした出来心がこんな事になるなんて思わなかった。

「本当にごめんね、風早」

「大丈夫ですよ。逆にのぼせかけていたので、ちょうどいいです」

「え?」

「少しぐらいだったら、逆に気持ちいいですしね。那岐だって、実は気持ちよかったんでしょう?」

「僕は不快だよ」

「あ、でもすっきりした顔してる」

「でしょう?素直じゃありませんね」

「…不快だって言ってるじゃないか」

「さて、今日の夕飯は何にしましょうか」

「暑いから冷やし中華は?」

「あぁ、いいですね」

「…アホらしい」

「あ、那岐!ホースそのままにしちゃダメ!水が勿体無…っていうか、そのまま寝たらシャツ汚れる!」

「知らないよ」



そんな風に過ぎていく、夏のある日。
当たり前の幸せが、とても大切で…とても、愛しい。





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2008web拍手、名前変換入れて手を加えて再録。
しかも私にしては珍しく龍神の神子をヒロインにして書いてます。

…珍しい(笑)

だが、遙か4は全然やってないので、基本的に漫画しか知識がありません。
だから、3人が一緒に住んでる…ってとこで書いてます。
おぉぅ…コメントも思いつかないってどういうこと!?(苦笑)