「友雅さん!ほら、もう梅が咲き始めましたよ!」
嬉しそうに庭先の梅を指し示す、その者の名をという。
神子殿と同じように異世界から現れ、神子の補佐をするため藤姫の館にその身を預けている。
日常着となった朱色の袴を翻し、その細く白い手を梅の木に伸ばして振り返る。
「もうすぐ春なんですねぇ〜」
穏やかな口調は年齢そのもの、といった感じだが、普段はまるで神子殿と同じくらい幼い少女のような表情をする。
そんな君に興味を・・・いや、好意を抱き始めたのは、いつからだったかな。
「そう言えば最近日も伸びたし、暖かくなってきましたよね。」
元々興味はあったのだよ。
異世界から現れた神子殿と同じように、ね。
ただ静かなだけの姫ではなく、自らの意思で行動する女性。
芯が強そうに見えて、傷つきやすい心を持った女性。
他愛無い事で喜び、怒り、哀しみ・・・笑う・・・自分に素直な、女性。
今まで私の周りにはいない姫君に興味を抱くのは、当たり前といってもいいかもしれない。
けれどそんな君を、この手に抱きたいと・・・他の者に触れさせたくないと、今は思っているのだよ。
――― 私にそんな熱い情熱を注ぎ込んだ・・・姫
「友雅さん?」
「・・・どうしたのかな、姫君。」
「どうしたのか、はこっちの台詞です。具合でも悪いんですか?」
「何故、そう思うのかな?」
ゆっくり私の元へ近づいてくる彼女の瞳が、まっすぐ私を見つめている。
「ん〜・・・なんか、ボーっとしているように見えたから。」
「それはまた酷いね、私が見ているのはたった一人だけなのに。」
「・・・そ、そんなのに誤魔化されませんからっ!」
頬を染めてその場に立ち止まってしまった姫君の元へ向かうべく、腰を上げる。
「おや、何故誤魔化していると思うんだい?」
「だ、だって・・・今ここにいるのは・・・」
「君だけだね。」
「・・・だから、違・・・」
「違わないよ。」
手を伸ばし、そっと彼女の手を取るとその手の甲に唇を落とす。
「私が見ているのは、殿・・・あなただけだ。」
「!!!」
――― あぁ、そうだ・・・この表情だ
恥じらいながらも、どこか期待を込めた眼差し。
その眼差しが・・・私の心に火をつけたんだ。
「例えどんな可憐な花がその実をつけようと、殿以上に可憐な花は他にはないからね。」
「え、えぇ!?」
「・・・出来るなら、この腕の中で可憐に咲いて貰いたいよ。」
にっこり微笑みながらそう囁けば、耳まで真っ赤になった殿が私の手を振り払って駆け出してしまった。
その後ろ姿が見えなくなるまで見つめ、その足で先程まで彼女が眺めていた梅の木へ近づき、同じように手を差し伸べる。
「君が花開く方が先のようだね。」
小さな赤い蕾が、どこか頬を染めた彼女に似ていて自然と笑みが零れる。
やれやれ、いつになれば彼女は私の手を取るのを躊躇わなくなるのか。
「・・・まだまだ春は遠そうだね。」
これまた書いたのが昨年の春先・・・だったかな?
本当はギリギリ4月頭だったからUPしても良かったんだけど、何となく冷たい空気の時期にUPしたかったので一年間熟成・・・もとい!手元で温めておきました。
でもそんなにうたた寝遙かの話書いてないのに、いつの間にやら友雅さんが好意を持ってくれてるのにビックリ(笑)
何処までもご都合主義名自分の話に苦笑しつつも、この話の雰囲気がとってもお気に入りなのでした。