「イノリくん!そっちそっち!」

「詩紋、ちゃんと構えてろよ!!」

「う、うん!!」

今日はイノリくんと、詩紋くんの3人で川に来ています。
と言っても、遊びに来たんじゃなくて、夏の暑さで倒れちゃったあかねちゃんのために、お魚を取りに来たんだけど…

きゃーっ!向かって来たーっ!!

何故だか川下の詩紋くんの方に追い立てていた魚が、鮭の川のぼりよろしく自分の方へ向かってきた。
見るのも食べるのも平気だけど、なんか向かって来られると急に怖くなるのは何故でしょう。

「おいっ、落ち着けよ!」

ちゃん、足元滑るから気をつけて…」

二人が注意してくれたんだけど、動揺していたあたしは石についていた藻でつるりとすべり…



ばっしゃーーーんっっ



…見事、転倒してしまいました。
それを見て笑うかのように魚は大きく跳ねて、詩紋くんが構えていた囲いを飛び越え逃げていった。

「……ご、ごめんなさい」

折角罠を仕掛けてくれたイノリくんや詩紋くんの苦労を無駄にしてしまった。
びしょ濡れになりながら川に座り込んでしょんぼり項垂れていると、耐えられない…というような大きな笑い声が聞こえた。

「あははははは!!」

「イノリ…くん、ダメだよ…そんな、笑っちゃ…」

「そういう詩紋だって笑ってるだろ!」

「???」

訳もわからず首を傾げていると、ひと通り笑い終えた二人が手を差し伸べてくれた。

「ほら、掴まれよ」

「もう一回、頑張ろう」

「…うん!!」

その手を掴んだ瞬間、ふとした悪戯心がわいてきて…ちょっと、本当にちょっとだけ力を入れて引っ張ってみた。

「げっ」
「うわぁっ!」



ばっちゃ〜〜〜んっ!!



さっきよりも大きな音と水しぶきをあげて、二人があたしと同じように川に膝をついた。

「てっめー!!」

「ごめんごめんっ!」

まさかこんなに簡単に引っ張れるとは思ってなかったんだもん。

…って、二人どれだけ体重軽いんだろう。

そんな事考えていたら、思いっきり顔に水をかけられた。

「ぶっ!!」

「ほら、お前もやり返せよ詩紋!」

「えー…でも……わっ!!

「すっ転んだら、どんだけ濡れても同じだろ」

イノリくんが楽しそうに笑いながら詩紋くんにも水をかけている。

「つ、冷たいよイノリくんっ」

「気持ちいだろ?…うわっ!!

「詩紋くん、加勢するよ!!」

「な…最初にやったのはだろ!!」

「ふ、二人ともあんまり騒ぐとお魚が逃げちゃうよ」

詩紋くんの注意が聞こえないくらい、勢い良く水を掛け合う。
終いには、遠巻きに見ていた子供たちも混ざっての水かけ大会になった。



ちなみに本来の目的である、あかねちゃんへのお見舞いのお魚は…イノリくんの馴染みの猟師さんに分けて貰う事になりました。





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2008web拍手、名前変換入れて手を加えて再録。
将来有望株の朱雀組と一緒に水遊び…もとい、魚獲り。
…獲れてないとか、そーいうのは置いといて。
この二人と一緒にいると、なんか…心が洗われます。
一生懸命で、純粋で、いっぱい色々考えて…忘れてたものを思い出させてくれるような感じ。
…って、私は一体どんだけ年齢プラスしてるんだ…orz
いやいやっ!心だけはいつでも神子年齢っ!
ちなみに暑さで倒れたあかねちゃんへのお見舞いで、いちばん効果があったのは…泰明さんの怖い話でした(笑)
多分、天真辺りが暑いからとか言って怖い話をさせたんだけど、泰明さん的には怖い話したつもりなし。
その晩、天真とイノリと詩紋は一緒の部屋で寝たに違いない(笑)