日中、嫌な光景に出くわした。
弁慶に何か言われ、一瞬にして頬を朱に染めた・・・姫君の姿。
その姿はいつもオレの前で見せる姿と変わりないはずなのに、何故か酷く胸が痛む。

ねぇ、姫君。
もしオレが弁慶と同じ言葉を口にしたら、お前はどんな反応を示すのかな?











「ヒノエと一緒に布団に入るのって何だか不思議。」

「姫君の寝顔を見ながら床に入るのも悪くないけど、たまにはこうして語り合いながら休みたいと思ってね。」

「でも話してたら眠れないよ?」

「大丈夫。姫君の温もりがあれば、オレはすぐにでも眠れるから。」

わざと明るくそう言いながら小さな身体を抱きしめれば、くすくすと可愛らしい声をあげながらもその身を預けてくれる。



ね、オレだって男なんだぜ?

冗談だなんて思ってると火傷するって事・・・教えてあげようか?




に見えないよう口元を緩め、抱きしめていた姫君の耳にかかる髪をそっと指で払い唇を落とす。

「ん・・・」

耳に触れた僅かな温もりに違和感を感じたのか、が両手をオレの胸について顔をあげた。

「ヒノエ、今何かした?」

「いや、何も。あぁそうだ、。」

「何?」

「眠る前に少し、話をしてもいいかい?」

「うん?」

「もし眠くなったら寝てしまって構わないからね。」

「難しい話?」

「さぁ、どうかな。でもお前に関係ない話ではないよ。」

「あたしに関係あるなら眠らないよ。ちゃんと話聞く。」

「じゃ、目を閉じて・・・オレの声だけに耳を傾けていて。」

「・・・うん。」

オレの言葉を信じ、素直に目を閉じて耳を傾ける姫君を見ていると自然と笑みが零れる。



全く、本当に素直で可愛い姫君だね。

本気で・・・口説きたくなるよ。






姫君に貸している腕を動かさないよう気をつけながら上体を起こし、神経を集中させているであろうの耳元へ、昼間聞こえてきたあの言葉を・・・そっと囁く。

「髪に何かついているね。・・・あぁ、何処から紛れたのか桜の花びらか。きっとお前があまりに可憐だから、桜すらお前に従う気になったんだろうね。」

ついてもいない花びらを取る仕草で、の髪をひと房手に取り口付ける。

「お前は本当に魅力的な姫君だね。今まで沢山の姫君達にお目にかかったけれど、お前ほどオレの心をひきつけた姫君は・・・初めてだよ。」

優しく声を落としていたオレの台詞に何か思い当たる事があったのか、が目を開けて不思議そうにオレを見た。

「ヒノ・・・」

そんなと目があった瞬間、あいつお得意の台詞をオレの声でに告げてやった。

「ふふ・・・お前は本当にいけない姫君だね。」

「っっっ!!」

「お前を見守り続けるつもりだったオレに、こんな気持ちを抱かせるなんて・・・」

あ・・・あの・・・、ヒノ・・・
エ・・・

力なく震える手がオレの身体を押し返そうとしている。



けど、まだ離してやらないよ。

最後まで聞かせないと、あいつの言霊はお前から消えないだろう?




片手を頬に添え、オレから目を逸らせないよう固定したまま・・・唇が触れそうな距離で甘く囁く。

「可憐な天女にオレの心は奪われた・・・って言ったら、お前はどう反応してくれるかな?」

そう囁いてからゆっくり姫君を抱いていた体を離すと、微かな灯りで見えるの顔が・・・昼間とは比べ物にならないくらい真っ赤に染まっていた。

「・・・。」

起き上がって名前を呼ぶと、横たえたままの身体がビクリと震えた。

「・・・顔、見せて。」

「・・・」

オレの言葉を否定するかのように、両手で顔を覆ったまま首を横に振る仕草が・・・オレを煽る。



ね、同じ言葉でもあいつとオレは違うだろう?
お前が頬を朱に染めているのは・・・昼間のあいつの台詞を思い出したから?

それとも、オレの口から零れた言葉だから?



――― ね、いい子だから・・・教えて・・・











無言のまま立ち上がり部屋の隅にあった灯りを消すと、月明かりを頼りに床へ戻る。

「灯りを消したから恥ずかしくないだろう。ほら、何も見えない。」

「・・・ほ、ホント?」

「あぁ。」

暗闇にひとつの小さな影が浮かんだ瞬間、オレは手を伸ばしてその身体を自分の方へ抱き寄せた。

「きゃっ!」

「・・・つかまえた。」

「やだっ、見えないって言ったのに!!」

「見えちゃいないよ。」

「嘘っ!!」

「嘘じゃないさ。だからほら・・・」

暗闇の中、目の前の人物の輪郭を浮き上がらせようと僅かに手を動かして、その姿を探る。

「・・・ヒノエ?」

「しぃ・・・」



お前の姿が見えないのは本当だよ。

けど、オレにはお前の姿が全く見えない・・・なんて事はないのさ。
愛しい姫君の姿は、目を閉じていても脳裏にしっかり浮かび上がっているからね。



けれど想像だけじゃ物足りない。

この手に、その姿を感じたい。




の髪、頬、肩・・・腰。



手を滑らせて闇夜に姫君の姿を浮かび上がらせ、両手での頬を包み込む。
その瞬間、月明かりが部屋に差込み・・・オレを見つめるの姿が、くっきりオレの目に飛び込んできた。



もう、押さえられない・・・










・・・好きだよ。

「え?」

「お前が・・・好きだよ。」

「・・・」

「お前には何度も想いを伝えてきたつもりだけれど・・・いつも誤魔化されていたね。」

「・・・」

「・・・オレは、本気だよ。他の姫君達に愛を囁くのは容易いけれど、本気で惚れた女には・・・これしか言えない。」

「・・・」

「愛してる。」

「・・・そ。」

「嘘じゃない。」

柔らかな髪の上から額に口づけを落とし、そのまま抱きしめる。

「・・・愛してる」





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このお題でいっ・・・ちばん最初に躓いたのが、これです。
何度書き直したか分からないっ!!
本当は口説いて口説いて口説き倒そうと思ったんだけど、その台詞が私には浮かばなかった(苦笑)
だから、他の姫君の前では何でも言えるけど、本命の人の前ではただひと言しか言えなくなっちゃうくらいいっぱいいっぱいのヒノエにしてみた。
最初は余裕あるんですよ?弁慶の台詞奪うくらいですから(笑)
ま、この話はヒノエに弁慶の「いけない人ですね」を言わせたかったので強引に作った・・・と言えなくもありません(キッパリ)

ちなみに弁慶の台詞は・・・こんなもんです。

動かないで下さい・・・あぁ、桜、ですね。
きっと君が余りに可憐なので、枝から舞い降りて来たのでしょう。
ふふ・・・桜すら従わせるなんて、まるで天女のようですね。

君は本当に可愛いらしいお嬢さんですね。
今まで沢山の方と出会いましたが・・・君ほど心を奪われる女性にあったのは初めてです。

・・・君は、本当にいけない人だ。
君を見守るつもりだった僕に、こんな気持ちを抱かせるなんて・・・
天女に心奪われた、と言ったら・・・君はどう思うかな?


・・・さすがヒノエの叔父だ。同じ台詞なのに危険度が高・・・げほごほ・・・