なんだろう・・・やけに身体がだるい。
それに光が顔に当ってるはずなのに・・・目が、開けられない。
それでも何とか重い手を動かして瞼を擦ると、いつものようにヒノエの声が聞こえてきた。
「おはよう、姫君。お目覚めかい?」
「・・・ん、おはよう・・・ヒノ・・・・・・」
「今日も・・・いや、今日は一段と綺麗だね。」
「・・・」
その声に昨夜の全てを思い出して勢い良く目を開けると、最初に目に飛び込んで来たのは・・・ヒノエの満面の笑み。
「おはよう」
「き・・・」
「?」
「きぃやぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!!」
思わず悲鳴をあげて布団から出ようとしたら、珍しくヒノエが慌てた様子で上掛けを手にあたしの身体を包み込んだ。
そしてそれと同時に部屋に駆け込んで来た2つの影。
「さん、どうしました?」
「馬鹿息子がまた何かしたか!?」
「弁慶・・・湛快さん・・・」
いつものようにやって来た二人を見て、ホッと胸を撫で下ろす間もなく、ヒノエがあたしを抱きしめたまま外を指差した。
「悪いね。まだ、睦言の最中だよ。」
「・・・ヒノエ」
「おい、まさか・・・」
「あれ?それともオレとが愛し合っている所を覗き見る趣味でもあるのかい?」
「っっ!!」
頭からつま先まで真っ赤になりそうなあたしとは裏腹に、ヒノエは顔色を変えない。
逆に部屋に駆け込んで来た弁慶達の顔色が、徐々に変わっていく・・・ような気がする。
「・・・後で話があります。」
「オレはないね。」
「はぁ、まさか馬鹿息子がこんなに早く・・・」
「君にも悪い話じゃないと思いますが?」
「今は、姫君の囁き以外何も聞く気がないね。」
「これじゃ今まで我慢してきた意味が・・・」
「「アンタ(あなた)は黙ってろ!(いなさい!)」」
落ち込んだ様子の湛快さんに、ヒノエと弁慶が声を荒げたのを見て思わずビックリしてヒノエの腕から落ちた。
「わっ!」
「・・・」
「ほぉ・・・」
「え?」
ヒノエの腕から落ちた瞬間、包み込んでくれていた上掛けが・・・落ちた。
それに驚く間もなく自分の今の姿が目に飛び込んで、すぐにさっき以上の悲鳴を・・・あげた。
「ヒノエ。さんに免じてここはこれを持って退散してあげます。」
「ちっ・・・」
「おい弁慶。お前兄に向かってこれとは・・・」
「大丈夫ですよ、さん。僕は何も見ていませんから。」
弁慶の声を背に受けながら、恥ずかしさで後から後から零れてくる涙を拭う。
まさか、まさか・・・あたしあのまま寝てたなんてっ!!
あ、でも弁慶が見てないって言うなら本当に見えてないのかも・・・
けれど、あたしの微かな希望は湛快さんのひと言であっという間に打ち崩されてしまった。
「何言ってんだ。あの位置ならしっかり見ただろう、お前。」
「・・・どうやら兄上は僕の説法が受けたいらしい。暫く離れに行きましょうか。」
「母上の為にもその煩悩、すっかり祓ってやってくれると嬉しいね。」
「そうですね。義姉上の為にも、ね。」
「おい、こらっ!ヒノエ!弁慶!」
「では、今は失礼しますよ・・・ヒノエ。」
――― あぁやっぱり見られちゃったんだっ!!
恥ずかしくて恥ずかしくて今すぐ何処かに逃げ出したいのに、布団越しに抱きしめられた腕がそれを許してくれなかった。
静かになった部屋に、あたしのすすり泣く声だけが微かに響く。
「・・・すまなかったね。」
「ひっく・・・」
「オレがもっとしっかり抱いていれば良かった。」
「っく・・・ふぇ〜・・・」
「ね、ほら・・・顔見せて。」
そんな風に優しく言われても、昨夜の恥ずかしさとさっきの恥ずかしさ・・・それに加え、泣き顔なんて見せたくない。
小さく首を横に振ると、布団の隙間から伸びてきた手が被っていた布団を勢い良く払った。
「・・・」
「・・・どうせ泣くなら、昨夜みたいに可愛い声で鳴いて欲しいね。」
「っ!!!」
驚きのあまり泣くのを忘れ、手を振り上げてヒノエを叩こうとするとあっさりその手を取られ抱きしめられた。
「おっと・・・朝からそんなに魅力的な姿を見せられると、さすがのオレも我慢出来ないよ?」
「じゃ、じゃぁ服頂戴っ!!」
抱きしめられながらヒノエの目を両手で必死に隠す。
「さて、どうしようかな?」
「もぉ!ヒノエーっっ!!」
「ふふ、これ以上姫君のご機嫌を損ねる訳にはいかないかな。」
ポンポンッと頭を撫でられ、ゆっくり抱きしめてくれていた腕が解かれ、代わりにヒノエが羽織っていた衣を肩にかけられた。
取り敢えずそれを慌ててかき集め胸元でしっかり握り締めていると、戻ってきたヒノエが真っ白な衣を頭からかけてくれた。
「・・・ヒノエ、いつものと違うよ?」
「あぁ、これは特別な衣だからね。」
「特別?」
頭に乗せてくれた衣に手を伸ばして触れてみると、確かに今まで触れた事のないような手触りだ。
例えるなら・・・シルクのように柔らかな感じ。
「これはね、オレが花嫁にする女に贈る為に用意していた布なんだ。」
「・・・お嫁、さん?」
「あぁ。」
瞬きすら忘れるくらい驚いているあたしを見て、今まで見た事がない・・・少し照れたような顔で、ヒノエがあたしの手を取った。
「・・・昨夜、何度も言ったけれど、もう一度言うよ。」
「・・・」
「愛してる。オレの花嫁としてここにいろよ。」
夢、だと思っていた。
初めての事に戸惑って、泣いて何も出来なくて
それでもヒノエが苦しそうな顔をした時、一生懸命手を伸ばして汗を拭った。
その時、聞こえた言葉と同じものが・・・今、目の前で紡がれている。
「お前が元の世界に帰る時が来るかも知れない。でも、オレはお前を離したりしない。どんな事をしても、お前と一緒に・・・いたい。」
「ヒノエ・・・」
涙ですぐ側にいるはずのヒノエの顔が見えない。
だけど、手を伸ばせば、昨夜と同じようにヒノエがしっかりと手を繋いでくれる。
「だから・・・オレの・・・」
「・・・ん」
言葉にならないけれど、精一杯の想いを込めて頷く。
あたしもヒノエと一緒にいたい。
暖かな熊野の地で、温かな皆と一緒に暮らしたい。
「あたし、も・・・ヒノエを・・・」
「・・・うん」
「あ・・・愛し・・・」
「・・・」
「・・・あ、愛・・・」
「・・・・・・」
「あ・・・」
心では何度も何度も 愛してる って言っているのに、どうしても言葉が出ない。
ヒノエは何度も言ってくれてるのに、あたしは照れて言えないなんて言えないっ!!
一生懸命呼吸を整えて頑張っていると、耐え切れないといった様にヒノエが吹き出した。
「ぷっ・・・あははははっ!姫君にはまだ愛の囁きは早かったかな?」
「そ、そんな事・・・」
「ないって言えるかい?」
「・・・うぅ・・・」
ごめんなさい。
まだ、あたしは・・・ヒノエに愛を告げられない未熟者です。
頭を垂れてヒノエの言葉を半ば肯定すると、チュッと軽い音を立てて頬に柔らかなものが触れた。
「いいよ。焦らなくても時間はあるさ。」
「・・・うん。」
「これから姫君が愛してるって言いたくて仕方が無いくらい、愛してやるからさ。」
「ほぇ!?」
座ってヒノエの顔を見ていたはずが、気付けばヒノエ越しに天井を眺める事になっている。
「え?な、何?」
「さて、人払いも済んだし、ちょうど床もあるし。姫君の刺激的な姿に酔っちまったオレを、もう一度その胸に溺れさせてくれるかい?」
――― そ、それはどういう意味?
「・・・今度は光の中で、抱かせて欲しいね。」
「ちょ、え・・・」
「しぃー・・・待ったはナシだよ。」
昨夜と同じように唇に指を押し当てて黙るように言われて、どうすればいいか分からず困っていると、穏やかな笑みを浮かべたヒノエがいつものように耳元で甘く囁いた。
「周りなんて気にせず・・・ね、オレの虜になりなよ。」
その声に体中の力が抜けたけど、なんとか返事をしようと最後の力を振り絞った。
「・・・もぉ、とっくに虜です。」
「ふふ、嬉しいね。」
遙かなる時空の中で、あたしは愛する人を・・・見つけました
わーいわーいお題終了!!
オチに叔父と父上も出せたし満足満足★
という訳で、オトナなヒノエで10のお題終了です。
長々とお付合いくださいまして、ありがとうございます。
お題が大人っぽいのに内容が「・・・」で期待外れですみません(苦笑)
これでも結構頑張ったんですよぉ。
一番最後にお嫁さんに贈る為の布を引っ張り出してきたヒノエに、自分でも驚きました。そんなもん用意してたのかよっ!!(笑)
え〜・・・・・・ここまでかよっ!とか、生温い(え?)とか・・・ご意見ご感想お待ちしてます。