部屋から、出る事が出来ない。
・・・違う、弁慶に会うのが、怖い。
いつも、どんな時も笑顔で・・・側にいてくれた人。
寂しい時には抱きしめてくれて、ヒノエの留守には皆が弁慶を頼った。
勿論、あたしも例外ではない。
――― 愛しています
あの声が、耳から離れない。
毎日、毎晩聞いていたヒノエの声より、重く、低く、響く声。
「・・・ヒノエ」
早く帰って来て。
早く、いつものように囁いて。
愛してるって、好きだって・・・
オレのものだって言って
ぎゅっと自分の身体を抱きしめて震えていると、ふと外に人の気配を感じた。
誰か・・・なんて、声を聞かなくても分かる。
ヒノエがいない今、あたしのいる部屋へ来れる人は・・・一人しかいない。
「さん、おはようございます。」
「・・・」
「朝餉の時間になっても起きて来ないので、皆が心配していますよ。」
いつもと変わらない、柔らかな笑みを浮かべて近づいてくる。
でも、あたしは以前のように笑顔で挨拶が出来ない。
「具合でも悪いんですか?」
「いい、え。」
「もし具合が悪いのなら、薬を煎じましょうか?」
「いいえっ!!」
きっぱり言って、立ち上がる。
「大丈夫です。すぐに行きます。」
「そうですか。では、お待ちしています。」
寂しそうな顔で立ち去る弁慶の身体からは、普段ヒノエがまとっている香が香っている。
君が好きな香りでしょう?
あたしが好きなのは、ヒノエがまとった香なのに
君のためなら、なんでもしますよ
・・・嘘
だから教えて下さい。
どれだけ君を愛せば、僕のものになりますか?
「・・・ヒノエ」
前が霞んで、見えないよ。
早くこの手を掴んで、抱きしめて。
あたしは・・・ここに、いる。
書いてる時は自然と弁慶の台詞が出てきたので疑問に思わなかったんだけど、今読み直したら疑問が・・・これ、絶対ヒロインに好かれるために、つけてる訳じゃないよなぁ?
何故、ヒノエが普段まとっている香を身につけたか分からない。
書き手に疑問すら持たせるなんて・・・さすが軍師武蔵坊弁慶様だ。
・・・う〜でも多分、陥れるための策のひとつ・・・なんだろうなぁ、香も。