眠る君の唇に、そっと自分の唇を重ねる。
ヒノエのいる前では良き叔父で、兄の前ではいつものように弟を演じる。
そして、誰もいない所では・・・君を愛する、ただの男になる。
「・・・ふふ、可愛らしい寝顔ですね。」
頬に残る涙を指で拭い、乱れた髪をそっと撫でる。
「いつも君を泣かせてしまうけれど・・・僕は、幸せです。」
頭領として動くからには、熊野を離れない事はない。
短い時は数日、長い時はひと月に渡る事もある。
その時、隠居した兄は普段と変わらず過ごし、時折さんにちょっかいをかけにくる。
いつものようにやんわりと兄を嗜め、適当にその場をやり過ごす。
水軍の者達はヒノエの留守中、自然と僕に意見を求める事が多いので、何食わぬ顔で返答を返す。
あとは、全くの自由。
君をひとりになんて出来ない。
誰かの所に行こうにも、この世界で君が頼れるのは・・・ヒノエだけ。
けれど、そのヒノエはここにはいない。
どんなに名を呼んでも、手を伸ばしても・・・
その手を取るのも、返事をするのも・・・
「・・・僕だけです。」
露わな肩に口付けを落とし、外套で彼女の身体を包み、そっと抱き上げる。
「さて、明日は一日休んで貰いましょうか。」
用意していた床に彼女の身体を横たえ、白湯に薬を溶かす。
「・・・お休みなさい、愛しい人。」
目覚めれば、これもまた全て夢。
君は何も知らなくていい。
白湯を手に取り、中身を口に含んだまま・・・そっと彼女の顎を掴み、口付ける。
こくりと彼女の喉が鳴ったのを確認してから唇を外し、指先で桜色の唇をなぞる。
「いっその全てを飲み込んで、ひとつになれればいいんですけど・・・」
叶わぬ願いほど、心に強く・・・残る。
・・・・・・のぅこめんと。
でも、ひとつ。
「」と名前を呼び捨てで呼んでいるのは、二人きりの時・・・だけです。