「さん・・・どうしますか?」
「・・・くだ、さい。」
「何を?」
「・・・あたしに、それを・・・」
「では、どうすればいいか・・・分かりますね?」
月明かりの元、彼女は自ら僕の元を訪れた。
そんな事をする理由は、ただひとつ。
――― 愛しい者を助ける為
「本当に君は・・・いけない人ですね。僕が何を望むか、分かっているのでしょう?」
「でも、あたしは・・・弁慶しか、知らない。」
「・・・えぇ、知っています。」
生死の境を彷徨うヒノエを、こちらへ呼び戻せるのは僕だけだと・・・
「君が約束を守ってくれるのなら、どんな手段を使ってでもヒノエは助けてみせます。」
「おね・・・がい・・・」
彼女の薬指から抜き取られた珊瑚の指輪が、音も立てずに床に落ちた。
それを拾い上げ、代わりに袂から取り出した一包を彼女の手に握らせる。
「白湯で溶かして飲ませて下さい。半時もしない内に熱が下がるはずです。」
「・・・」
「自分で飲めないようなら口移しで飲ませなさい。でも、間違っても君が飲まないよう気をつけて。健康な人間には不要の薬ですから。」
小さく頷き、立ち上がった彼女の名を呼ぶ。
「」
けれど、その声に彼女が立ち止まる事はなく、いつもとは逆に・・・ヒノエの寝室へばたばたと急ぎ足で戻っていく。
「いつもは僕の所に逃げ込んで来ていたんですけど、ね。」
でも、今日は・・・違う。
次にあの足音が聞こえた時は、彼女がこの手に落ちる時。
その時は、そう遠くはない。
「きっと君は・・・泣くんだろうな。」
けれどその涙は、何よりも・・・美しい。
いつもは、ヒノエから逃げて、弁慶の元へ駆け込んでいた。
でも、これは・・・逆。
ついに彼の人の手に、落ちるのです。
ヒノエの命と引き換えに・・・弁慶は彼女を手に入れます。
最後に呟いたひと言が、切ないです。
ちなみに呟いている時は、寂しげな表情ですが・・・最後の「何よりも・・・美しい」って言ってる時には、きっと口元笑ってます。
えぇ、そんな人です(おい)