海上を走るオレの船に、突如舞い降りた羽色の変わった・・・小さな小鳥。
艶やかな黒髪に、朱色の魅惑的な唇。
今まで見た事がないほどの・・・魅力的な姫君。
「ふふっ、何だか楽しい事になりそうだね。」
岸に着くと、すぐにオレは姫君の体を抱き上げ部屋へと向かった。
道中、色んなヤツラが声をかけてきたが、そんなもの後回しに決まってるだろう?
「おいおい、無粋なマネはよせよ。」
周囲のヤツラにひと声かけ道を開けさせると、姫君の睫毛がかすかに震えた。
「おっと、まだお目覚めの時刻には早いかな。」
ここじゃまだオレ以外の男がいるからね。
姫君のその瞳に最初に映る権利は、勿論オレにしかないんだからもう少し待ってくれよ。
少し足を速めて部屋に入ると、姫君の小さな体を寝所へ横たわらせる。
乱れる髪をそっと整えてやると同時に、ゆっくりと目が開いた。
へぇ・・・これは予想以上だね。
つぶらな瞳はまるで海深くに隠されていた黒曜石のように光り、不安と戸惑いで揺れる所為でその輝きを何倍にも増しているようだ。
「・・・ここ、は?」
「ここは熊野水軍の館、って所かな。」
零れ落ちる声は、まるで雛が初めて鳴くかのようなか細い声。
「くまの・・・すいぐん?」
「そうだよ、姫君。」
きょとんとした表情は何処か男の保護欲をくすぐる。
あぁ、この姫はこの腕の中でどんな風に花開くのか・・・そんな無粋な事さえ考えさせる。
もっと良くその表情が見たくて手を伸ばせば、恐怖からか肩をすくませて目を閉じた。
だけど知っているかい、姫君?その仕草が男心をくすぐるって事を・・・さ。
「ふふ、可愛いね。怯えているのかい。」
「・・・」
「大丈夫、別に何も悪いことはしないさ。」
「・・・ほ、本当?」
「あぁ、熊野の男は姫君に対して手荒な事はしない。」
笑みを浮かべてそう言えば、目に見えて姫君の肩の力が抜ける。
「姫君の名は、何て言うんだい?」
「あたしは。高校1年、です。」
「・・・」
「学校の渡り廊下を渡ろうとしたら、急に溢れてきた水に流されて・・・」
やれやれ折角こんなに可愛いのに、ちょっとばかり頭が弱いのか。
だがそれもこの容姿に似合ってると言えばそれまで、だな。
話に乗ったフリをして、彼女の話に耳を傾ける。
「へぇ〜・・・じゃぁ姫君は1人でここに来たのかい?」
「・・・他にも人がいたから、1人じゃないと思うんですけど。」
「じゃぁ連れが現れるまでここにいればいい。」
「え?」
そう簡単に逃がしはしないさ。
折角見つけた純白の小鳥を、何もせず返すなんて事・・・熊野水軍の頭であるこのオレがするわけないだろう?
「落ち着いたらオレの仲間にも周囲を探させるよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いや、それぐらい当たり前さ。愛らしい姫君の願いを叶えるのは、男の役目だからね。」
そっと手を取りその手の甲に口付けると、耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。
「ふふ、可愛いね・・・」
「そ、そんな・・・」
「オレの名はヒノエ。大所帯で部屋の空きが少ないから、暫くはオレと同室になるが構わないだろう?」
大所帯ってのは正解だけど、生憎部屋は死ぬほど空いてるんだ。
こんな珍しい姫君をわざわざ自分から遠ざける馬鹿な男じゃないんでね。
「勿論、姫君を怯えさせるような事はしないと誓うよ。」
握った手に力を入れまっすぐ瞳を見つめると、頬を朱に染めながらも小さく姫君は頷いた。
――― この手に落ちた、小鳥
「じゃぁ身の回りの物を用意するから、暫くここで休んでいてくれるね。」
「はい。」
「いい子だね・・・。」
耳元に言霊でもある名を呟いてやると、が息を飲む音が聞こえた。
あまりの幼い反応に口元が緩むが、それを隠すよう口元に手を当てて柔らかな笑みを作る。
「それじゃぁゆっくり休んでなよ。」
柔らかな手を離すのは少し勿体無いけど、まぁ時間はこれからいくらでもある。
笑顔で部屋を出ると、側に控えていた見張りの者にキツク言い渡す。
「オレの許可無く小鳥を誰にも近づけるな。」
「はっ!!」
「さきの戦闘の被害は?」
「はっ、負傷者が数名でましたが、船体には全く問題ありません。」
「だろうな。」
長い廊下を歩きながら、姫君を乗せていた船へチラリと視線を向ける。
「・・・女神が舞い降りた船に、被害なんて出るわけないさ。」
そう呟きながら、次から次へと告げられる報告を歩きながら聞き、指示を出していく。
――― さぁ、退屈な日々にオサラバ出来そうだぜ
あはははは〜・・・まぁたこんな物書き始めちゃいましたよ(苦笑)
色んな物が中途半端になっている状態で新しい事しちゃダメだって思ってても、書きたかったんですよ。
という訳で、遙か3のスタート地点は1年前の熊野です。
今後あり得ない設定を押し通し、弁慶を無理矢理絡めます(笑)
この叔父甥コンビが好きなので、どうしてもこうするしかなかったんですよ!
でも、書き始めて暫くすると他の八葉と絡めたくなって仕方がない(苦笑)
・・・なんかジレンマに陥っている気がする(笑)
まぁこちらの前置きがある程度落ち着いたらお題をUPしたいと思っていますので、気が向いたらお付き合い下さいm(_ _)m