「ごほごほっ・・・ご、ごめんね。」
の額の布を冷たい水につけ、キツク絞るとそっとのせてやる。
「いや、姫君から目を離したオレが悪い。」
「そんな事・・・げほっ・・・」
辛そうに咳をするの背をさすりながら、舌打ちをする。
「全く、側に控えていたヤツラは何をしてたんだい。」
「・・・ヒノエに・・・見惚れて・・・た。」
「そんな馬鹿な理由で姫君をこんな体にしたのかい?」
「馬鹿じゃ・・・ないよ。だから・・・怒らない、で。」
こんなに辛そうなのに、ヤツラの心配をするなんて・・・本当に姫君は優しいね。
「怒ら・・・ない?」
「あぁ、怒らないよ。姫君のお願いには弱いからね。」
そう言って手を握ってやると、が嬉しそうに頬を緩めた。
そのまま熱の所為で赤みを増した頬を撫でてやる。
「・・・この時期の海は気候と違って意外と冷たいんだよ。」
「うん、冷た・・・かった。」
「全く・・・本当に色んな意味でからは目が離せないよ。」
共に船に乗り、陸へ戻るまでは何事もなかった。
事件が起きたのは、下船する時。
早急にオレの回答が知りたいという連絡が烏から入り、側にいた者にを任せて先に下船した。
船の脇で話をしていた時、水飛沫の音が聞こえ慌てて振り向くと・・・姫君の内掛けだけが波間を漂っていて、肝が冷えた。
すぐに海に飛び込みを引き上げたが、海に慣れていない彼女の体は一気に熱を奪われ体調を崩した・・・ってわけさ。
「さて、そろそろ薬湯を・・・」
そう呟いて薬箱を開けたが、あいにく熱さましの薬草が空になっている。
「ちっ、ついてないね。」
「・・・?」
「いや、姫君は何の心配もいらないよ。桶の水を換えてくるから、いい子で待っていてくれるね。」
「ん」
笑みを浮かべ部屋を出ると、ちょうど正面から今一番会いたくない人物がやってくるのが見えた。
「・・・全く、あんたほど地獄耳な相手をオレは知らないよ。」
「おや?僕の滞在地まで馬を飛ばしてくれた参謀に礼を言うべきではありませんか?」
「・・・あの野郎。」
「ヒノエ、今は悪態をついている場合じゃない事は君が一番理解しているでしょう。」
熱冷ましの薬草が底をつき、今のオレに出来るのはこうして水を換える事だけ。
「薬師として来たんです。彼女に・・・会わせて頂けますね。」
本当はこんなヤツに頼みたくはない・・・が、その腕だけは信用できると言わざるを得ない。
「・・・分かった。」
持っていた桶を通りがかった部下に手渡し、弁慶を連れての元へ戻った。
「さん、具合は如何ですか。」
「あ、あれ・・・弁慶?」
「水を汲みに行ったら、代わりにコイツがいたんでね。」
「・・・思っていたより随分と辛そうですね。」
オレの嫌味などあっさり無視して姫君の側に腰を下ろすと、早速に手を伸ばした。
反射的にその手を止めようとしたが、すぐに熱を測ろうとする行為に気付きもう片方の手で自らの手を押さえる。
――― 病状を診る
ただの医療行為だってのに、オレ以外の野郎が姫君に触れるのは面白くないね。
「・・・」
「僕は薬師なんです。」
「薬師?」
「早い話が、もぐりの医者だよ。」
「ヒノエ、言葉が悪いですよ。」
「あんたが医者ってのは嘘っぽいだろう?」
「あはは・・・っ、げほっげほっっ!」
オレ達の会話を聞いていつものように笑っていた姫君が急に咳き込み、弁慶が僅かに眉をひそめた。
「ヒノエ。申し訳ありませんが、席を外して貰えますか。」
「はぁ?何でだい。」
「彼女の診察をしたいので、余計な音を立てないで欲しいんです。」
「別に立てたりしないさ。」
「・・・邪魔だ、と言っているんですよ。ヒノエ。」
今まで感じられなかった殺気にも似た気配。
真剣に怒りを表しているのが、部屋の空気全体に広がっていく。
「彼女の容態を詳しく知る為です。病に弱っている女性に何かするほど落ちぶれてはいません。」
「・・・」
「容態に合わせて、薬を調合します。」
「・・・分かった。今のにとってはあんたが適任だ・・・任せる。」
「えぇ。」
本当はコイツとを一分一秒でも一緒にしておきたくはない。
けど、薬師としてコイツ以上に腕が立つ男は今、この場にはいない。
オレは気づかれないよう小さく息を吐きながらの枕元に膝をつくと、いつも以上に赤みを増している頬に手を伸ばした。
「」
「ヒノエ・・・」
「診察の間、オレは少し席を外すよ。けど、もしコイツが治療にかこつけて何か妙な事やったら・・・必ずオレに言えよ?」
「しない、と言っているじゃありませんか。」
「薬師としてのあんたは信用してるけど、女に関しては全く信用出来ないんでね。」
「・・・疑い深い人ですね。」
「それはあんたも同じだろ。」
に見えないよう弁慶をひと睨みしてから立ち上がる。
「診察が終わった頃を見計らって、手土産を持ってまた来るよ。」
「うん・・・」
「じゃぁな、弁慶。頼むぜ。」
「えぇ、任せて下さい。それじゃぁさん、いくつか質問しますから答えて下さいね。声を出すのが辛かったら頷くだけでも構いません。」
部屋を出て、次第に遠ざかって行く弁慶の声を聞きながら、これからは薬草もこまめに在庫チェックをしようと心に決めた。
「じゃないと、今日みたいに鳶に油揚げみたいな状況を作りかねないからな。」
そんな事を思いながら、診察を終えた姫君に甘い唐菓子でも見舞いに持っていこうか・・・などと考えて、部屋を後にした。
船に乗りなれていないヒロインは、多分恐らくきっと・・・揺れてる場所から陸へ戻ったら、足元がふらつくかなぁと思って思いついたネタ。
でもって、気候と海の水の温度は違うから体調も崩すよねwと好都合な事を色々詰め込んだ話になっちゃいました(笑)
ちなみにヒノエがいくら薬草を揃えようと、結局管理してるのが弁慶だったりするので適当に数の増減は弄られます(キッパリ)
甥が叔父に敵うはずはありません(私の中で、かもしれませんが(笑))
でも今回はちゃんと弁慶はお医者さんとして看病してくれます。
本人も言ってますが、弱っている女性に何かするような事はありません。
今はまだ、自分の印象を良い物として植えつけている時期ですから♪←物凄い事言ってるよ。