熊野水軍の船に囲まれて、小さな小舟がひとつ真ん中に浮いている。
その小舟に乗っているのはヒノエと…あたしの二人だけ。
「まさかが泳げないとはね…」
「お、泳げないわけじゃ…」
「あーはいはい、足がつかない所では泳げない、だろ?」
「…そう」
「ま、今はそんな事気にせず早く海に入りなって」
ポンッと肩を叩かれて太陽でキラキラ輝く水面を指差された。
勿論、大型の船が周りに浮いてるくらいだからあたしの足なんてつくはずは…ない。
「…」
底の見えない海の青さに体を硬直させているあたしの耳に、周りの船から沢山の頼もしい声が降り注がれた。
「姐さん!大丈夫っす!」
「怖い事はないっす!」
「今日の海は穏やかですぜ!」
――― 足がつく場所なら、喜んで入ってます
「おれ達がしっかり姐さんを守るっすよ!」
「バーカ、お前らがオレの姫君に手ぇ出すんじゃねぇよ」
「誰も我らが水軍の女神に手を出すバカはいませんぜ!」
「頭領の女に手を出す馬鹿はここにゃいませんよ」
「そりゃそうだ」
ヒノエと水軍の皆は楽しそうに笑ってるけど、今のあたしにそれを笑う余裕はない。
船に乗るならば、いつ何が起きるかわからない。
それならばどんな場所でも、ちゃんと泳げなければいけない。
そうでなければ、ヒノエや皆の足手まといになってしまう。
それだけは、嫌
いつでも、どんな時でも一緒にいたい
――― だけど…
恐怖からくる震えを何とか押さえようと、自分の体をギュッと抱きしめる。
皆が…ヒノエがいてくれるんだから…絶対大丈夫!
目を閉じたまま上体を海の方へ傾けた瞬間、柔らかな布が頭に乗せられた。
そして布ごと体を抱き寄せられ、耳元に届いたのはヒノエの甘い囁き。
「…そんな顔して入ったら、せっかくの姫君の美貌も海神様には見えないぜ」
「ヒノエ?」
「別に今すぐ泳げるようにならなきゃいけない訳じゃない。明日、明後日…いや、一生泳げなくったってオレは構わないぜ」
「でも…」
「このオレが一緒にいる限り、お前を海神様の元へ送るなんて馬鹿なマネ…させないよ」
「…」
柔らかな桃色の内掛けがそっと視界から消え、次に目に飛び込んできたのは太陽を背に笑っているヒノエの顔。
「そうだろう!野郎ども!!」
拳を上げればそれに応えるように皆の声があがる。
なんて優しい、温かな人達。
自然と視界が揺らぎ、それを隠すように手の甲で目元を擦り…顔を上げた。
「皆!大好きっ!!」
叫んだ瞬間、皆の声が一層大きくなった。
その歓声に混ぜて、そっとヒノエの耳元に囁く。
――― でも、イチバン好きなのはヒノエ…貴方だよ
もういつ書いたんだか、わからないような作品のサルベージ(苦笑)
ヒロインが若干性格違ったので、その辺ちょっと直しました。
もうすっかり水軍の一員になる気満々ですね。
私はプールは好きですが、海は苦手です。
あの底が見えないのと、あと奥行きがないのが怖くて駄目です。
綺麗な海で底がしっかり見えるってんなら、泳げるから大丈夫ですが…それでも恐怖のがでかいですね。
原因は幼い頃に見た、有名なサメの映画のせいだと思います(笑)
トラウマって結構残るもんですよ〜?皆様もご注意あれ!!