「弁慶、お茶如何ですか?」

「ありがとうございます、さん。ちょうど喉が渇いていた所です。」

手に取りかけた薬草を元へ戻し、粉末状になった薬が風に煽られないよう器に入れ蓋をする。

「湛快さんから美味しいお茶の葉を貰ったんですよ。」

「兄から、ですか?」

「はい。頂き物らしいんですけど、自分は淹れるのが下手だから代わりに淹れて欲しいってお願いされて、そのお礼に残りを分けて貰ったんです。」

可愛らしい笑みを浮かべ、兄から貰った茶葉で淹れたというお茶を僕の前に置いた。

「弁慶は熱いお茶が好きでしたよね。」

「僕の好みを覚えていて下さったんですか?」

「え?あ、はい。」

「・・・気にかけて貰えて嬉しいですよ。」

他の異性には見せないような笑みを浮かべ、さんが淹れてくれたお茶をひとくち飲む。

「とても美味しいです。」

「良かった。折角のいいお茶の葉を駄目にしちゃったらどうしようと思ってたんですよ。」

さんが淹れたお茶なら兄も大満足だったでしょう。」

「はい、湛快さんも美味しい美味しいって何杯もお替りしてくれたんです。」

その時の状況を嬉しそうに話す彼女を優しく見つめながら、心の中で実兄に向かって悪態をつく。



全く、結婚してヒノエという子供までもうけておきながら、未だに手癖が悪いですね。
まぁ僕の兄ですし、血の繋がりも一応ありますから趣味がいいのだけは認めましょう。
でも、に手を出すのは・・・いただけませんね。
あのヒノエですら手を出す事を躊躇っているこの純潔さがあの人には分からないんでしょうか?


・・・いえ、分かっているからこそこうして、世話焼きの父親として印象付けているんですね。



「ちょっと濃い目ですけど、ヒノエに貰った唐菓子が・・・」

「・・・さん?」

「ごめんなさい!唐菓子を湛快さんの所に忘れてきちゃったので、今すぐ取ってきます。」

君が目の前にいてくれれば、それで十分ですよ・・・と、僕が声をかけるよりも早く、彼女は席を立って部屋を出て行ってしまった。

「ふふ、いざという時は行動力があるんですね。」

けれど彼女は慌てると足元が疎かになる。

「・・・ご一緒すべきでしたね。」

もしも外で彼女がよろけたら、手を伸ばすのは僕以外の人間になってしまう。
兄の事なんかに思考を走らせているべきではなかった事を悔い、まだ熱い茶を飲んで気持ちを落ち着ける。

「館にはヒノエ、離れには兄・・・僕は外から通う身。この状況は僕には不利ですね。」





最初はヒノエが大切そうに抱えている小鳥に興味を持った。
あのヒノエが手を出さずに側に置いている事自体興味深い。
少しずつヒノエの目を盗み、彼が海へ出ている時を狙って薬の補充の為ここへやって来る。



――― 彼女に、会う為に・・・





「会う時間が少なすぎますね。」

そう考えた時、薬箱の中に入れていた白い包みに手を伸ばす。

「僕には必要ない物と思っていたんですけど・・・」

男女の仲を密にする時に利用する物、と言えば聞こえはいいですけど、それも使い方によりますからね。

「これに頼る人の気持ちも、少し分かるような気がします。」

「弁慶具合でも悪いの?」

突然声をかけられて振り向くと、そこには額に汗を滲ませながら赤い椀の上に菓子を乗せたさんが立っていた。

「・・・驚いたな。さん、結構足が早いんですね。」

「違うんです。湛快さんが忘れ物に気付いて途中まで持ってきてくれてたので、早く戻れたんです。足は・・・遅いです。」

はにかむように俯く彼女の姿を見るだけで、自然と頬が緩む。

「成程。」

「あの、それで弁慶薬持ってるけど、どこか悪い・・・の?」

椀を僕の前においてしゃがむと、さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。



いけない人ですね、君は
ヒノエだけではなく、兄まで魅了して・・・
その上、この僕もその眩しい瞳で捕らえるつもりですか?




けれど僕は、あの二人のように優しくはありませんから・・・容易く捕らわれたりはしませんよ。

「薬とは言ってもこれは体調の悪い時に呑む物じゃないんです。」

「?」

「ふふ、分かりませんか?」

「えっと、栄養剤みたいな物?」

やはり君はその眩しい瞳と同じように、心も澄んでいるんですね。
それならば、今の君にこれはまだ使えません。



――― 今の君には・・・ね



気づかれないよう口元を緩め、開きかけた包みを元に戻して箱へしまう。

「弁慶?」

「まだ君には必要ない物ですよ。」

「?」

「そうですね。もう少し僕と仲良くなったら、詳しい効果を教えてあげます。」

「・・・そう言われると何だか気になります。」

「じゃぁ僕と仲良くして頂けますか?」

そう言って手を差し出せば、小さく頷いて同じように手を差し出してくれる。
その素直さが、とても眩しいですよ。
きっと君のいた時代では計略を練ったり、他人を貶める為に策を練るような事はないんでしょうね。

「あなたに、僕の事を色々教えてあげますよ。」










君が大好きな、優しい笑みを浮かべ。
君が安心する、この声音で・・・

いつか君に、僕という媚薬をあげる





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何だか連想ゲームをやっている気分になります(笑)
弁慶で「び」と言えば?
多分、皆様同じ単語が脳裏を過ぎると思いますが、作中で弁慶が手に持っている粉は「媚薬」でございます(苦笑)
意味が分からない可愛らしいお嬢さんは辞書をひいてみましょうねw
意味が2つあったら、大人な意味の方をここでは利用してますので、よろしくお願いします。
という訳で、まだヒロインにそれを使おうとは思ってないみたいです、まだ・・・ね。
でも最後の台詞が・・・遙かを書いてて一番動揺した台詞かもしれません!!
何これ!?どうしてこんな台詞浮かんだの!?
って言うか、是非是非宮田ボイスで囁いて貰いたいです!(笑)←オカシイから。
気を抜いた瞬間、この人は危険です。あっという間に食べられますよ(本気)
ちなみに湛快さんは弁慶の兄でヒノエの父です。
いずれどっかの小話でフラリと出てくると思いますので、お楽しみにw
ではでは、黒蜜度(面白い変換(笑))高めの弁慶のお題・・・暫くお付き合い下さいませw

「こんな話を読むなんて・・・いけない人ですね」←遊んでます(笑)