「弁慶!」
「・・・おや、さん。」
いつものようにさんが部屋に飛び込んできたけれど、着替え中という事に気づいたのか慌てて踵を返して背中を向けた。
けれど、すぐに俯きながら部屋へ足を踏み入れた姿を見て首を傾げる。
「一体どうし・・・」
「かくまって!!」
彼女が両手を合わせて頼むという事は追いかけてくる相手は言わずと知れた・・・彼。
全く、どうしてこう無理矢理追いかけたりするんでしょうね。
まぁ僕としては願ってもない機会なので、口に出して止めたりはしませんが。
「こんな格好ですみません・・・じゃぁここへどうぞ。」
緩めかけた帯を軽く締めなおして床を示すと、さんは何の躊躇いもなくその中へ潜り込んで頭から布団を被った。
「・・・さて、と。」
あの様子だとすぐにヒノエがここへやって来るでしょうね。
今日はどう言ってやろうかと考えていると、ふとさんの足が布団から出ているのに気づき・・・頬を緩める。
――― いつも無防備な君に・・・ちょっとだけ、お仕置きをしましょうか
結び直した帯を僅かに緩め胸元だけ肌蹴ると、布団の中に潜り込んでいたさんの身体をそっと抱き寄せた。
「!?」
「悪いようにはしませんから、声を上げないで下さいね。」
そう囁いた瞬間、荒々しく部屋に入り込んできた人の気配を感じ、わざと気だるげな表情で振り返る。
「今朝は随分ゆっくりしていると思ったら、お楽しみの最中とは・・・ね。」
「そう見えるのならば、席を外して貰いたいものですね。」
「普段オレの寝所へ堂々とやって来るあんたの台詞とは思えないね。」
「連日の無理がたたって、体調を崩した僕を見舞いに来てくれたお嬢さんに恥をかかせたくないだけですよ。」
僕が無言で足元を指差すと、真っ白な足が恥ずかしそうに動いている。
「・・・あんたが体調を崩す病って事は、恋の病とでもいうつもりかい?」
「えぇ、そうですよ。ですから、彼女じゃないと僕を癒す事は出来ないんです。」
布団の上から彼女の頬に当たる位置に唇を落とすと、ヒノエは呆れた様子で踵を返した。
「ま、今日はたいした用事もないから好きなだけ休んでいればいいさ。ただここへ・・・」
「さんが来たらヒノエの元へ行くように言えばいい・・・でしょう?」
「・・・相変わらず嫌なヤツだね。あんた。」
「お褒めに預かり光栄ですよ。」
にっこり笑みを浮かべて部屋を出て行くヒノエの背を見つめ、気配が遠ざかったのを確認すると布団をめくった。
「もう大丈夫ですよ。」
「ありが・・・!!」
顔を上げたさんが僕を見た瞬間、両手で顔を覆うとそのまま背中を向けてしまった。
「さん?」
「べ、弁慶!あのっ・・・」
「はい。」
「あの、き、着物・・・」
「着物?あぁ、これですか。最近ヒノエも鋭くなってきたので、少々細工をしてみたんですよ。」
この格好で尚且つ布団に入っている女性の素足を見れば、ヒノエであれば情事の前か最中だと錯覚するでしょう。
いえ、寧ろヒノエだから・・・という方が正しいかもしれませんね。
「ヒノエ行っちゃいました?」
「えぇ。」
ヒノエがいないという声を聞いて、ようやく指の隙間から彼女の瞳を見る事が出来た。
耳まで朱に染め、揺れる瞳は・・・とても魅力的ですね。
そんな魅力的な彼女の姿に、自分が何故このような体勢を取らせたのかを思い出し、顔を覆っていた彼女の両手をそっと手に取る。
その意味が分からない彼女はきょとんとした顔で、いつものように僕の名を呼ぶ。
「弁慶?」
甘い、甘い・・・蜜のような声。
何も知らない真っ白な君に、時折黒い染みをつけたい・・・と思う僕は咎人でしょうか。
「君は少し男というものに危機感を抱いた方がいいですよ。」
「え?」
片手で彼女の両手を頭上で押さえ込み、笑みを浮かべたまま空いているもう片方の手を彼女の帯へ伸ばす。
「君のように魅力的なお嬢さんが、こんな風に床へ入って来たら・・・普通の男であれば、即座に手を出してしまいます。」
「て、手を出す?」
意味合いは分かっているのだろうけれど、それを認識したくない・・・という顔だ。
それを知っていて僕は、わざと口元を緩めて彼女の耳元へそっと声を落とす。
「抱いてしまう、という意味です。」
「!!」
途端に硬直する身体。
朱に染まった顔が、今度は一瞬にして青ざめる。
――― お仕置きが過ぎました、か
やりすぎた事を反省しつつ拘束していた手を緩めると、彼女は緩みかけた帯を手で押さえたまま壁際へ逃げてしまった。
「・・・」
「普通の男であれば、ですよ。」
「・・・」
「怖がらせてしまったのならば謝ります。でもさんはもう少し自分の魅力、というものを自覚した方がいいと思って・・・警告したんです。」
「・・・警告?」
「えぇ、飛び込んだ部屋にいるのが僕ならば問題ありません。僕は嫌がる女性に何かするような趣味はありませんからね。ですが、もしも相手が他の男であれば・・・さんの身の安全は保障しかねます。」
――― 君は、それだけ魅力的な女性なんですから
僕の言葉の意味を一生懸命考えているさんですが、今の格好分かっているんでしょうか。
緩みかけた帯の所為で胸元はいつも以上に開いているし、それに無理矢理壁際へ寄った所為で、裾が乱れて太もも近くまで足が見えてしまっているという事態に。
「・・・」
困りましたね。
このままじゃ、折角僕の信用を取り戻しかけているのに・・・それを無駄にしかねない。
「さん。」
「・・・は、はい?」
「着崩れた格好も魅力的ですが、少し目の毒ですね。」
「え・・・きゃっ!!」
「僕は背を向けてますから、ゆっくり整えて下さい。」
くすくす笑いながら、背中を向ければ、微かに聞こえる衣擦れの音。
お仕置きだと言ってあのまま彼女を抱いてしまう事は容易いけれど、それでは彼女の全ては手に入らない。
僕が欲しいのは、恐怖に怯える君の表情じゃないんです。
僕が望んでいるのは・・・
一度書いたコメントを誤って上書きして消してしまいました(苦笑)
えーっと、お題に沿っているかどうか一番不安な話がこれ、です。
だってお仕置きって・・・何時、誰が、何処で、どんな風に!?と考えて脳裏に浮かんだのは、危ない方向でした(笑)
そんなの書けるかっ!とちゃぶ台を引っくり返して、出来たのがコレ。
ちなみに着物の前が肌蹴てるのは好きです(おい)
って言うか、鎖骨が見えるのは好きです(笑)←誰か止めましょう。
だからこの話で弁慶が無駄に着物を肌蹴させているのは、私の趣味です!
・・・更に結んでいた髪も解いていたら、私そのままぶっ倒れちゃうかもしれません(笑)
話がずれたぞ・・・えーっと一応弁慶は相手の気持ちをちゃんと汲み取ってくれます。
だから無理に何かするつもりは、今の所ないみたいです。
ちゃんと自分の事を見てくれて、心も自分の方を向いた・・・と思った時には丁寧に合掌した後美味しく頂いてくれると思います。
言葉の意味が分からない可愛らしいお嬢さんは、もう少し大人になったら意味が分かるからサラッと流しちゃってねw
でも弁慶が本気を出したら、あっという間に策に溺れてその腕の中に捕らわれる気がするのは私の気のせいでしょうか?(汗)
・・・それもいいかも、と思った私は末期症状です(苦笑)