「わっ!!」

「・・・良かった。」

「弁慶・・・?」

さんの姿が・・・なかったものですから。」

「ごめんなさい。湛快さんに呼ばれて、少し席を外したんです。」

誰かに呼ばれて席を外す・・・それくらいの事、今まで何度もあった。
けれど、彼女と時を共に過ごすにしたがって、さんの姿が側にない事を不安に思い始めた。
背後から小さな体をしっかり抱きしめ、耳元へ顔を寄せて囁く。

「僕をこんなに心配させるなんて・・・いけない人ですね。」

「え、えぇ?」

「心配していない、と思いましたか?」

「・・・だって、館の中だし。」

「そう、館の中です。」

そう呟きながら、彼女の体を反転させると自分の胸に彼女を抱き寄せる。

さんの事なら、いつも・・・いつでも心配していますよ。」

「?」

「君は・・・他の国から来た女性ひとだから。」





ある日突然ヒノエの船に現れた天女。
彼女の名前だけは僕らに通じたけれど、それ以外彼女が口にする言葉はまるで異国の物語を聞いているようでならない。






「君がいつ・・・僕の前から消えてしまうと思うと、心配でたまりません。」

「弁慶・・・」

「ほら、その表情も儚げで・・・今にも消えてしまいそうです。」

頬に手を添えると、その温もりが彼女の存在を伝えてくれる。
まだ、彼女がここに・・・僕の側にいてくれる事を示してくれている。

「・・・さん。ひとつだけ約束してくれませんか?」

「約束?」

「君が元の世界に帰る日が来たら、僕に挨拶に来てくれる・・・と。」

もしかしたら君は来た時と同じように、ある日突然僕の前から姿を消してしまうのかもしれない。
でも、優しい君の事だから、僕がこう言えば必ず挨拶に来てくれるでしょう?

「突然帰ったりしませんよ。」

「そう言いきれますか?さんが此方へ来たのは・・・事前に分かっていた事でしたか?」

「・・・違い、ます。」

「口約束で構いません。これからどうなるかは僕にもまだ分かりませんから。」



ただの約束・・・でも、この口約束が優しい貴女を縛る鎖になる。



「分かりました。あたしが帰る時は必ず弁慶に挨拶をしてから帰ります。・・・これでいい?」

「えぇ、充分です。ありがとうございます。」

君が好きだと言ってくれた笑みを浮かべて礼を言う。



君が僕の元へ別れの挨拶を告げに来る事が分かっていれば、幾らでも手はうてる。
ただで君を元の世界へ返したりはしない。
出来る事なら、別れの挨拶を告げに来たその時・・・君をこの腕に捕らえてしまいたい。



「まだ帰れるかどうかも分からないのにおかしいですね。」

「大丈夫ですよ。僕も様々な文献を調べてお手伝いしますから。」

「ありがとう、弁慶!!」

その眩しい笑顔を、僕は・・・失くしたくない。





本当に君は・・・いけない人ですね。
僕にここまで様々な事を考えさせ、見えない未来を心配させるのは・・・、君ただひとりです。





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お題、最後でございます。
無事お題全て読みきれたお嬢さんはいらっしゃるのでしょうか?
寧ろそっちの方が心配です・・・怯えてる方がいなければいい(汗)
この話の前半だけなら白い弁慶なのに!
なのに、どうして・・・最後でこんな風になるかなぁ(苦笑)
でもごめん、私はこんな策略家な弁慶が大好きです(キッパリ)
遙か3の弁慶の最後の告白を断ると、この話のような弁慶が見れるじゃないですか。
あれがどうも印象強くて(しかもあの策略を練ってる表情が一番綺麗で好きなんですw次点はいけない人ですね、の正面の顔(笑))それが土台となってうちの弁慶は出来上がっているみたいです。
・・・早く他の八葉と合流させたくなったのは、これを書き上げた頃からです(苦笑)
でも自分の中の弁慶を表にどーんと出せたので大満足w
今後もこの黒弁慶を待っています!と言ってくれる方を大募集!(笑)

「可愛らしいお嬢さん、是非また僕と共に・・・楽しいひと時を過ごしましょうね」←遊んでます。