「火遊びも程々にして下さいね。」
「あんたに言われたくないね。」
「おや、僕がいつ火遊びをしたと言うんです。」
「あれ?オレに色々教えたのはあんたじゃなかったかい?」
シンと静まり返った部屋に響くのは、海の優しい音色だけ・・・
手元に残っていた茶を飲み干すと、目の前に座っていた男は表情変える事無くあっさり言い切った。
「可愛い甥に教えを請われたら、断れませんからね。」
「けっ・・・」
「おや、違いましたか?」
「・・・さぁね。」
片足を立てた上に肘を置き、温くなった茶をひとくち口に含む。
「それで、僕はいつまでここで君と話していなければいけないんですか。」
「がオレの所へ戻るまで、かな。」
「やれやれ、火遊びの次は他人の恋路の邪魔ですか。」
「邪魔してんのは、あんたの方だろう。」
「僕は邪魔をしているつもりはありませんよ。君がいつものような火遊びで彼女を傷つけないよう、守っているだけです。」
ガキの頃から、いつもこの笑顔に騙されていた。
君のため、といってやらかした数々の出来事はこの身体が嫌ってほど覚えている。
だからこそ・・・油断ならねぇ。
「別に今は火遊びしてないぜ。」
「・・・今だけ、でしょう。」
「あんたほど派手に火遊びした気もないしな。」
「僕はもうそんな馬鹿な真似していませんよ。」
妙な緊張で空気が張り詰めた中、パタパタと軽やかな足音が部屋に近づいてくるのに気づいた。
瞬時に怒気を散らし視線を上げると、オレが顔を上げたと同時に障子が開き、息を切らしたが部屋に入ってきた。
「お待たせしてごめんなさい!」
「いい女は準備に時間がかかるものだからね。」
「ヒノエの言うとおりですよ。」
「でも・・・」
「姫君のその愛らしい姿が見れるのなら、オレはいくらでも待つさ。」
ウィンクしながら手を伸ばせば、が頬を染めながらもオレの手を取ろうと近づいてくる。
が身につけているのはオレが贈った着物と、弁慶が持ってきた簪。
まるで狙ったように同時にに贈り物をし、どちらを先に身につけるかで睨み合った結果・・・姫君が両方身につけて、その装いをオレ達に見せるって事になったわけさ。
「まるでお前のために仕立てられたような衣だな。似合ってるぜ。」
「・・・あ、ありがとう。」
「僕が差し上げた簪が、その着物の美しさを更に引き立てていますね。勿論、貴女の愛らしさには敵いませんが。」
「あ、ありが・・・とう。」
オレの言葉を受け、それを使って更に相手に自分を印象づける。
やり口が汚ぇのは昔からだよな。
だけど、オレも昔と違ってガキじゃないんでね。
「あぁそうだ。残念だけどコイツ、この後用事があってすぐ帰るらしいぜ。」
「え?」
「・・・」
「約束した船は既に用意してあるぜ。早く帰ってお守りしなきゃなんねぇヤツがいるんだろう?」
「・・・ヒノエ、君って人は。」
「主にヨロシクな。」
ニヤニヤ笑いながら掴んでいたの手に力を入れて、胸元へ抱き寄せる。
「早く行かねぇと船が流されちまうかもしれないぜ?」
「はぁ・・・分かりました。今日の所は君の策に乗せられてあげます。」
「策?」
弁慶の言葉に何かを感じ取ったが首を傾げたので、すかさず耳元へ声を落とす。
「仕事の話だよ。」
納得したが腕の中で体勢を整えている間に、弁慶を睨みつける。
「じゃぁな。」
「・・・次はこうは行きませんからね。」
「次があるかなんて分かりゃしないぜ。」
「全く、いつからこんなに可愛くなくなってしまったんでしょうね。」
「きっとあんたが面倒見始めた時からだぜ。」
珍しく厳しい顔つきをした弁慶を見て、内心勝ったとばかりに頬を緩めた。
「では、船はお借りします。それに合わせて先ほどお渡しした密書の回答は近日中にお願いします。あと熊野の烏を暫くお借りしますから。」
「はぁ?」
「この場を去る駄賃にしては安いでしょう?」
にっこりと笑みを浮かべ、こちらの回答を聞く前に弁慶は部屋から姿を消した。
「・・・やられた。」
「え?」
「いや、何でもないよ。」
恐らく弁慶は船に乗る前に烏に何事か言い渡し、自分のいいように使うつもりだろう。
それにあの密書・・・随分長い口上が書かれてたって事は、暗号文って事なんだろ?
「ちょっと高い代金だった、か。」
「この着物、そんなに高いの?」
「・・・いや。」
おっと、姫君が腕の中にいるのに仕事の事なんて考えるのは勿体ないね。
「これはそんな大した値はしないよ。」
「こんなに綺麗なのに?」
「姫君がこうして側にいてくれる事に比べれば、金銀財宝の山だって安いものさ。」
「・・・嘘。」
その拗ねたような照れたような口調が、表情が・・・たまらなく愛しい。
こんな風にオレに思わせる女は、お前だけだね。
お前に出会うまでは、その場限りの楽しみや快楽に溺れていたよ。
危険な火遊びほど、楽しいものは無いってね。
その快感を忘れたわけじゃないけれど、火遊びのようにオレの心を燃え上がらせているのは・・・お前だよ、。
「ふふ、姫君のその眩しい瞳で問われちゃ嘘はつけないね。確かにが着ている着物は高価な物だよ。」
「・・・どのくらい?」
「そうだね。小さな船が一隻買えるくらいかな。」
「そんなに高いの!?」
「そう、だから・・・」
驚いて飛び上がりかけた身体を抱きしめる腕に力を込めて、首筋へ顔を埋めながらそっと囁く。
「あまり暴れると、せっかくの高価な着物が汚れてしまうよ。」
「・・・!」
逃がしはしないよ、オレの小鳥。
「さぁ、おいで・・・」
炎の中その身を躍らせる朱雀よりも熱く、お前を蕩けさせてやるよ。
脳内ヒノエ祭の時に見つけたお題で頑張って書きました。
いやぁもう頭領書くのが楽しくて楽しくて・・・更に弁慶を絡めるとその倍楽しくて楽しくてっ!!(笑)
とはいえ、ヒノエの口から出る台詞が読み返すと・・・楽しみ以上に恥ずかしさでいっぱいになるのは何故でしょう。
特に最後の・・・
『炎の中その身を躍らせる朱雀よりも熱く、お前を蕩けさせてやるよ。』
私、一体何を考えていたんでしょうか?!(汗)
確かこれ、話を書いててふと思いついた言葉なんですよ。
でも考えてみれば、更に深読みしてみれば・・・ヤバイ方向へ行きませんか!?
ちなみにこのヒノエのお題、全てそのまんまの事をしてません。
期待してる人がいたらゴメンネ?私、実はひねくれ者みたいです(笑)
これだけは言っとかないとね。
えー当サイトのヒノエは白ですよぉ〜(笑)
大人な台詞をじゃんじゃん吐きますが、実際は何もしませんよぉ〜・・・って事で!
次、行ってみましょう!!