「あたし・・・帰らなきゃ。」

「帰るって何処にだい?」

「・・・あたしの、世界に。」

「姫君の世界・・・っ!」

「今までありがとう、ヒノエ。ヒノエの事、絶対忘れない。」

腕の中の姫君の輪郭が、まるで空気に溶けるように薄くなっていく。

「待てよ!・・・姫君!」

「ヒノエ・・・」

ポロポロと真珠のように綺麗な涙を流しながらオレの名を呼ぶへ必死に手を伸ばす。

!オレは・・・」



――― お前を・・・































「・・・っ!!」

はっと気づいて目を開ければ、そこはいつもと同じ寝所。

「・・・夢?」

それにしちゃやけに現実感のある夢だったな。
額から滲み出ている汗を手の甲で拭ってから、慌てて隣へ視線を向ける。

「・・・いた。」

そこにはいつもと同じように、オレの衣を掴んで眠る・・・の姿。

「全く、たかが夢でここまでオレの肝を冷やさせたのは姫君が最初かもしれないね。」

膝に乗せた手が僅かに震えているのに気づき、知らず知らずのうちに力を入れて握り締めた。

「・・・本当に、嫌な夢だよ。」



突然現れた小鳥。
物珍しさにこの手の中に閉じ込めた。
誰の目にも触れぬよう、誰の手にも触れぬよう
海の底にある海神の宝のように扱うつもり・・・だった。




「他の女を思う気持ちとは、違う。」

火遊びを続けていた罰だろうか。
この胸を埋め尽くすような愛しさをお前に感じるのは。



手に触れたい、口付けたい・・・抱いてしまいたい。



けれど、微笑むお前を見ていたら・・・この手は空を掴むだけ。
お前の顔から笑顔が消えて、二度とオレを見なくなったらと思うと・・・お前に触れる事すら出来ない。

「ふふ、随分と臆病になっちまったもんだ。」

この気持ちが何なのか・・・それが分かるまでは、お前をオレから離したりしない。

「例え、運命ってヤツがお前を連れて行こうとしても・・・オレはお前を、帰さない。」

袖の衣を掴んでいた指を起さないよう注意しながら一本一本引き剥がし、オレの胸元の衣の合わせ目を握らせる。

「・・・どこにもやらない。」

きゅっと胸元を握り締めたのを確認すると、その身体をそっと抱き寄せ目を閉じる。



さぁ、もう一度同じ夢を見せてみろ。
今度は別れの言葉よりも先に、オレがこの手にお前を抱いてみせる!





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お題最後でございます。
ちなみに私の一番のお気に入りですw
逃したくなくて、この手に入れてしまいたいのに何も出来ないヒノエ。
行動に出るのはラクだけど、その後を思うと何も出来ないヒノエ。
・・・そんなヒノエが大好きだっ!!
色々遙か3ネタを書いていて、ふとゲームをやり直したら・・・どうも自分の書くヒノエがちょっと違う気がしてきました(苦笑)
でもこれが私的に好きなヒノエらしいので、申し訳ないですがこのまま突っ走ります。
ま、今更方向転換も出来ないしね。
っていうか、熊野に弁慶が普通にいるだけで既に論外な書き方してるよね。
という訳で、ヒノエお題終了です。
あー・・・沢山頭領書けて満足w
今後も熊野頭領待ってるわ!と言う姫君がいましたら、是非ご一報下さい(笑)