「ったく、冗談じゃないね。」

近道に鬱葱と生えている草木を掻き分けながら、目的の場所へと足を進める。
オレの館・・・正しくは熊野水軍の本拠地とも言える館のすぐ側に、離れの館がある。
そこにいるのは隠居したオレの親父。

「人が熊野を離れる度毎に花を手折りやがって・・・」

花とは言わずと知れたの事。
確かにひとりだけ館に残していくのは可哀相だと思うが、どうしても連れて行く事は出来ない。

「・・・出来るなら片時も離したくないんだけどね。」

そう呟きながら、更に足を急がせる。










「おいっ!馬鹿親父っ!!」

「おぉ、どうした馬鹿息子。」



――― この親にしてこの子あり



を何処へやった!」

「今日は見てねぇなぁ?」

嘘つくんじゃねぇ!てめぇが姫君を館から連れ去ったのを見たヤツがいるんだよ。」

「連れ去ったなんて言い草はよせ。俺はさんと茶を飲む約束を果たしに行っただけだ。」

「オレのいない所でやるのがいやらしいって言ってんだよ!!」

「頭領ともあろう者が度量が小せぇなぁ。いつものお前はどうした?」

ニヤニヤ笑いながら親父に言われ、思わず唇を噛む。

「どんな相手でも隙を見せるな、と言わなかったか?」

「・・・」

「まだまだお前はお気に入りのおもちゃを取られて泣くガキのままか?」

「・・・」

「それじゃぁお嬢さんもいつか呆れて出て行っちまうだろうなぁ?」

プチリと音がして、頭の中で何かが切れた。

「勝手な事言ってんじゃねぇ!!」

「・・・?」

「てめぇの判断で決めるんじゃねぇ!の口から言われた事なら聞いてやるさ。けどな、あんたが勝手にの事を決めるな!」

はぁはぁと肩で息をしながら親父を睨みつけると、驚いた顔をしていた親父が急に頬を緩ませて笑い出した。

「はははははっ!」

「・・・何がおかしい。」

「くっくっくっ・・・いや、俺の息子もまだまだやんちゃなガキだったんだなって思っただけだ。」

「誰がガキだって!」

「お姫さんはさっきまでここで茶を飲んでたが、弁慶のヤツが薬草を取りに行くのを手伝って欲しいと那智大社へ連れて行ったよ。」

「弁慶が!?」



あっの野郎!
オレの留守中を狙って薬草の補充に来てるって話は本当だったのかい。




すぐに戸を開けて近くにいたヤツに声をかける。

「おい!馬を用意しろ!すぐだ!!」

「は、はいっ!!」

部屋を出る前に一度だけ親父の方を振り向き、小さく息を飲んでからこう言った。

「いくらあんたと言えども、これ以上勝手にを連れ出すような事をしたら容赦しないよ。」

「ほぉ、どう容赦しないって言うんだ?」

「若い頃に戻って、もう一度補陀洛渡海なんてどうだい。」

「・・・遠慮しとくよ。」

「いい返事だね。」

「頭領、馬の用意が出来やした!」

馬を連れてきた男に礼を言い、そのまま馬にまたがると姫君が向かったという那智大社へ向かう。



全く、隣だけじゃなく遠方のヤツまでやってくるなんて参ったね。
一体姫君の魅力に参っている男はどれだけ出てくるのか、想像もつかないよ。





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多分、恐らくこの話のヒノエは結構年相応かもしれないなぁと思ってます。
特に湛快さんに噛み付くトコなんか、いつもの落ち着きがなくなってていいカンジじゃないかなぁ〜と。
ま、それが湛快さんが笑い出した理由なんですけどね。
頭領の座を譲って妙に大人びた子供になったなぁと思ってたけど、こんなトコはまだまだガキだな、と(笑)
でもってヒロインを連れ出したのは聞いてのとおり、弁慶です。
一応最初は湛快さんがヒロインを引きとめたんでしょうけど、兄とはいえども弁慶には敵いません(うちのサイトは弁慶がある意味最強で最凶です(笑))
強さを表すと・・・ヒロイン>弁慶>湛快>ヒノエとなりますかね。
これが八葉全員だとどうなるか分かりません。