珍しく時間が出来たので、何気なく散歩していると、見知った人影を見つけた。
こちらに気づく様子もなく前を歩く姿を見て、ちょっとしたイタズラ心が湧いた。
――― ヒノエを脅かしてみよう
そう考えて、木々に隠れて近づいていく。
やがて何かを見つけたのか足早に消えていく後姿を追いかけていくと、楽しげな声が聞こえてきた。
「誰だかわかるかい?」
「ヒノエくんでしょう」
「正解。ふふ、さすが神子姫様だね。・・・それとも、オレが来るのが分かっていた?」
「こんな事するの、ヒノエくんしかいないじゃない」
これは、ヒノエと・・・望美先輩?
「ってコトは、やっぱりオレが来るのが分かっていてここで休んでいてくれたんだね?」
「違うってば!」
「ふふ、ムキになる所がますます怪しいね」
「たまたまです!」
「じゃ、そういう事にしておこうか。折角戦女神が刀を置いて休んでいるんだ、お前が眠る場を守る役をオレに与えてくれるかい?」
「え!?寝てるのバレてた!?」
「さぁ、どうかな?」
当たり前のように先輩の手を取って、口元へ引き寄せるヒノエの様子を見て思わずその場から逃げ出す。
鼓動が、やけに早い
胸が・・・苦しい
はぁはぁと肩で息をしながら、今まで感じたことのない胸の痛みに首を傾げる。
「な、なに・・・」
――― 胸が、痛い・・・
「たまには女の子だけでお茶でもしない?」
「はい!」
という事で、朔にも声をかけようと探していると、海辺でしゃがみ込んでいる朔を見つけた。
「さ・・・」
「朔ちゃん、これでどうだい?」
あたしが声をかけるよりも先に、朔の元へやって来たのは・・・ヒノエ。
「まぁ、ありがとう、ヒノエ殿」
「お気に召したかい」
「えぇ、とても」
ヒノエから何かを受け取って微笑む朔。
そんな彼女を見て、眩しそうに瞳を細めたヒノエの手が、朔の髪に伸びる。
「・・・花びら、だね」
「まぁ、いつの間に」
「可憐な姫君に寄り添いたいって気持ちは分かるけど・・・妬けるね」
朔に声を・・・かけなきゃいけないのに、どうして?
どうして、足が・・・動かないの!?
金縛りにあったように動けなくなっていたあたしの足を動かしたのは、別方向から聞こえてきた望美先輩の声。
「あー、そこにいたの朔!」
「まぁ、望美」
「と二人で探してたんだよ」
「何かあったの?」
「ううん、ただ・・・」
駆け出せばすぐに皆と合流できる場所にいたのに、何故か踵を返して逆方向へ走り出す。
見たくない
見たく、ない
望美先輩や、朔を・・・優しい眼差しで見つめる、ヒノエなんて・・・
胸を渦巻く、黒い感情
知らない・・・こんな想い、今まで知らなかった
優しい声も、触れる手も・・・
今まで、当たり前のように与えられていた。
けれどそれは、あたしだけじゃなかった・・・
「嫌・・・・・・嫌だよ・・・」
囁くなら、あたしだけ・・・
あたしだけに、囁いて ―――
「ヒノエ・・・」
ここ数日、ことある事に姫君達の元へ足を運んだ。
その姿を、行動を・・・誰かに見せ付けるかのように・・・
結果、今まで他の誰にも向けた事がないような・・・泣き出しそうな、けれど誘うような艶っぽい眼差しで、オレを見つめるようになった姫君が・・・ひとり。
「そろそろ、かな・・・」
他の野郎と他愛無い話をしている姿を見ている事が、どれだけ辛いか分かったかい?
お前への想いが強ければ強いほど、その熱は胸を焦がし痛みとなる。
「けど、ちょっとイジメすぎたかな。」
の様子がおかしい事に気づいた姫君達にも、釘を刺されたからね。
・・・まぁそれすらも、オレの策のうちってのは気づいてないだろうけど、さ。
望美と朔ちゃんの計らいで、今日は部屋にひとり。
何があっても、邪魔はされない。
オレの心は、とっくに天女に囚われている。
他のどんな魅力的な姫君にも、心揺らす事はない。
だから、ね・・・
お前もオレを、望みなよ
が望めば、オレはいつでも・・・お前だけのものになってやるから、さ
微かに部屋から聞こえるすすり泣きに胸を痛めつつ、そっと声をかける。
「・・・、ちょっといいかい?」
すぐに、その涙を別の物に変えてやるよ。
【ホームワークが終わらない】に自主的参加です。
IN熊野で、八葉合流後の話っすね。
場面展開でページ変えたかったけど、一応1話完結って縛りを自分で作ったので強引につなげてみた(苦笑)
ヒノエばっかりが好きってのもなぁ…と思ったので、逆にしてみた。
というか、逆になるようヒノエが策を講じていたっていう話(笑)
だって、叔父が弁慶なら、ヒノエだってそりゃ策を練るさ…ってね。
本当はもっとこースマートにカッコよくやりたかったんですが、私の脳みそではこれが限界。
好きな人に嫉妬してるってのが少しでも伝われば嬉しいなぁ〜と思います。
主催者として、多少頑張ってみました。
あといくつ頑張っているかチェックしてみるのも一驚です?