いつもは金やんと楽しく話をしたり、お茶を飲んだりする音楽準備室。
だけど、今日は、違う。



「やれやれ、いったいどうしたもんかねえ…」


そんなこと言いながら、金やんはほおづえついて、ちょっと困ったように微笑みながら、あたしを見てる。

困ったように見える、じゃなくて本当に困ってるのかもしれない。



「なあ、。なんだってお前さん、そんなにふくれっ面してるんだ、ん?」


椅子から立ち上がって、あたしの頭をぽんぽんってしてくれる金やん。
これが大好きでつい、頬が緩みそうになるけど、でも…


「黙ってちゃわからんだろう、言いたいことあるなら言ってみろや。な?」


優しく顔をのぞき込んで、ずっと頭をぽんぽんってしてくれる金やん。
そんなことされたら、言うしかなくなっちゃうじゃん。


それに、本当は膨れても仕方ないこと…
わかってるんだけど…



「だって、さっき…」

「ん?」

「校門のところで金やん、鼻の下のばしてた!」

「校門のところ…?……ああ、あれか。」




いつもは森の広場にいるんだけど、時々正門あたりまでお散歩したりするウメさんたち。

金やんと一緒に遊んでいたら、そこに声をかけてきた人がいた。


「すみません、学長室はどちらでしょうか…」


声だけでもわかるって感じのすっごい美人!
それも、かなりナイスバデーの色っぽいお姉さんで…


そのお姉さんが艶っぽい目線を金やんに送りながらしなだれかかるようにしていたら。

「あら、こんなところにゴミが…」

なんていいながら、金やんの肩に手を置いて微笑みかけていたりしたら。




それに、金やんがにこやかに答えていたりしたら!!!!



頬袋がはじけそうになるほど、膨らんでも、仕方ないんじゃなかろうかっ!

鼻の下のばしてたってあたしの言葉で、全てを察したように
それ以上聞かない金やんの態度が、また頬のふくらみを大きくしたような気がする。

鼻の下なんて伸ばしてない、とか言い訳すらしないわけ!?



「ま、いい目の保養ってヤツではあるよな」

言い訳して欲しいわけじゃないけど、そんなこと、もっと聞きたくなーい!!!!

「か、金やんのスケベー!」

「なんだお前さん、今頃気付いたのか?」


いや、それはどうだろう…
なんて今考えることじゃない、あたし!


金やんにいつも言いくるめられてるけど、今日は頑張れ、あたし!!


「だいたい、男なんてのはな、みんなスケベなもんだ。」



けろりとあっさりと、言ってのけるのって大人の余裕ってヤツですかーー!?



「か、か、金やんの…」

「ん?今度はなんだ?」

「金やんのばかーーーーーー!!!!!」


もう、何がなんだかわからなくなってきて、思いっきり叫ぶ。




「あーまあ、それも間違っちゃいないな」


あたしとは正反対のいつもの間延びしたような声がすぐ近くでして、あたしはいつの間にか金やんに抱きすくめられてた。


「校内でこんなことして、見つかったらコトだよなあ…」

「わ、わかってるなら、か、かなや…」

ここにはあんまり人は来ないけど、でも、まるっきり来ないワケじゃない。
慌てて、金やんの腕の中から離れようともがいたけど、なおもぎゅっと抱きしめられた。


「だが、それより今は、お前さんにそんな顔させてるほうが嫌なもんでな」


ほんの少しだけ、腕をゆるめて、金やんはあたしの顔をのぞきこんだ。


「バカだろ?男なんて惚れた女の前ではバカなもんだ。」

いつもの笑顔が、いつもよりずっと近くて、どんどん顔が赤くなる。

「ばかってそういう意味じゃなくて…って、でも、金やんスケベだし、そんでもって、バカだし、えっとそれから…」


胸がドキドキして、なんて言っていいかわからなくて、どんどんおかしなことを口走ってしまう。





「それでも好きだっつうんだろ?」





そんなあたしに、すぐ近くから聞こえる自信たっぷりな声。


「な!?」

「なんだ違うのか?お前さん妬いてたんだろう?」

「ち…ちが…わな、い…」


こんな時に、違う!って嘘でも言えない自分が悲しい。


「う〜…」

悔しくて、ぎゅっと白衣を引っ張って気付く。

以前のように、煙草の匂いがしない。


でも、金やんの匂いがして、少しだけ、気持ちが落ち着いてくる。


「機嫌なおせって…な?」


耳元に優しい金やんの声。


「お前さんの機嫌を損ねたなら謝るって。だが、な…」

さっきの自信たっぷりなのとは、全然違って、なんだか歯切れ悪くて、照れくさそうな声。



「やっぱ、妬いてもらうってのも悪くない、とか思って、つい、な…」


思いもかけない台詞に、思わず顔を上げて、金やんの顔を見ようとしたら、ぎゅっと抱きとめられた。


「…今、俺の顔を見なさんなって…」

やだ!見たい!!」

「あのなあ…」



ちらっと見えた金やんの耳が、すごく赤くなってた。



金やんが大事に想ってくれている、っていうことが、音楽が流れるように、
自然にあたしの心に伝わってきて、さっきまでのイライラとか嫌な気持ちがすうっと溶けて消えていく。




ゆっくり腕を離してくれた金やんの顔は、ほんの少しだけ、まだ赤くて。


「なんか、今日は格好悪いこと言ったりもしたし…ま、カンベンしろや」

照れ隠しのように、また、頭をぽんぽんっとされて、今度は素直に頬が緩む。





その時さっきの金やんの台詞が頭によみがえってきた。


「それでも好きだっつうんだろ?」



いつも、大人の余裕で翻弄させられて、おまけにスケベでちょっぴり意地悪で…

でも…それでも…


「好きじゃなきゃ、妬いたりなんてしないもん…」



あたしの言葉に、ちょっとだけ、目を丸くした金やんだったけど、すぐにさっきの返事だってわかったみたい。



「ありがとさん」



また、あたしの大好きな大きな暖かい手が頭をぽんぽんってしてくれる。

そして、誰より大好きな人の優しい笑顔が近づいてきて、そっとあたしも背伸びをした。





音楽準備室の床に、二つの影がそっと重なって…

その影は、少し長く伸びるまで、ずっと一つに重なったままだった。





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【ホームワークが終わらない】にご参加下さりありがとうございました!
犀さん、愛しの金やんをありがとうございましたーっ♪

…いいでしょ?カッコいいでしょ?素敵でしょ?!
私が落とされたのは、この金やんです(どきっぱり)
頭をぽんぽん撫でてもらうのが大好きなので、えぇもうホント嬉しいです。
普段は飄々としてる先生が、こんな風にちょっとでも照れてくれたら…万梨阿さんじゃありませんが「…たまりません」(笑)←遙か祭2005DVD参照
相手が大人なだけに、絶対四苦八苦するのはこっちなんですよねぇ…人生経験が違うんですもん。
でも、そんな先生が嫉妬してくれるのが嬉しいとか、こんな顔見せてくれたら、本当に自分だけが特別だって思えますよねっ!!
色々な表情、ごちそうさまでした(両手を合わせてぺこり)

こちら、喜んで懐に収めさせていただきます。
お忙しい中、本当にありがとうございました!!