「はぁ……」
ことさら、大仰に、ため息をついて見せる。
目の前で、問題集とにらめっこしているの肩がぴくっと動き、おそるおそる、上目遣いで俺の様子をうかがっている。
…そんな顔するから、いじめたくなるんだろ?
「何?問題全部解けたわけ?」
「うっ…す、すみません、まだ…」
「せっかく、俺がこうして勉強を見てやってるっていうのに…
まさかお前、夏休み中、補習やりたいわけ?」
「や、やです!それは絶対に嫌です!頑張って解きます!」
そんなに簡単に解けるなら、俺がここでお前の勉強見る必要もないだろうに…
半ば本気でため息をつきそうになったとき、聞こえてきた小さな声。
「でないと…柚木先輩と夏休み、一緒に練習できない…」
まったく、困ったものだね。
そんな…そんな可愛いことをいうから、ますますいじめたくなってくるよ。
「風雅とかそういったことには疎いだろうとは思っていたけれど…
せめて、教科書に載っているくらいの古典文学が頭に入らないものなのか?」
「こ、古典は苦手なんです〜」
「お前の場合、現代日本語も危なっかしいだろう」
「……………」
やれやれ、可愛すぎるってのも、罪なもんだぜ。
俺は、目の前の問題集を取り上げた。
「え、あの、まだ、全然問題解けてなくて、あの…!」
本当に自分で言うほどに、真っ白だな、回答欄…
俺はざっと目を通すと、要所の問題の解答を書き込んでいった。
所要時間は、10分もかからなかっただろう。
案の定、問題集を返すと、は頭の上をクエスチョンマークだらけにしている。
「あ、あの…あたしの問題を先輩がやっても、あの…」
意味がない、と言いかけて、俺の顔をのぞき込むように上目遣いで見ている。
…そんな顔してると、本当に知らないよ?
「当たり前だろ。その問題と解答を、まるまる覚えるんだよ。
解釈がどうのとか勉強していったら、お前の頭じゃ、来年まで経っても理解できないだろう?
あの先生だったら、その辺がおそらく出題範囲だろう。
だから、今、俺が解いた問題を覚えておけば、とりあえず、及第点は取れるはずだ」
「な、なるほど…」
「それくらい、できるよな?」
「頑張ります…」
「ということで、赤点取らないように勉強を見てくれ、ってことだったけど、大丈夫そうだな。
今度は、俺につきあってもらうぜ」
「は?え?あの…」
練習室前の廊下ですれ違ったとき、やたら表情が暗いから
何かと思って声をかけてみれば、夏休みに補習になるかもしれないという。
ついてこい、と予約していた練習室で、練習ならぬ、勉強会になってしまった。
「まさかお前、俺の貴重な練習時間潰させておいて、このまま…なんていわないよな?」
「は、はい、あの、柚木先輩!」
いつものようにたたみ込むようにしてやろうと思ったのに、いつになく、勢い込んで俺の名前を呼ぶ。
なんだ、今日はダメだとでもいう気か…?
「ほ、本当に助かりました!先輩に教えてもらったところ、しっかり覚えます!本当にありがとうございました!!」
ぶんぶん、という音がしそうなほど、頭を下げて、そしてにっこり笑顔で俺に礼を言う。
「…っ…」
不用意に、そんな顔見せるなよ…
知らず、顔が熱くなって、思わず顔をそむけた俺に、は勘違いしたようだった。
「あ、あの…本当に面倒かけて、すみませんでした、いつも…あの…迷惑ばっかり…」
の声がだんだん小さくなり、顔が俯いていく。
だから、俺が近づいても、気付かない。
そっと近づいて、抱きしめる。
「っ!せ、せんぱ…!?」
「面倒かけて、だって?お前みたいなヤツの面倒みようなんてヤツ…」
案の定、おたおたしているの耳にそっと囁く。
「俺以外に誰がいるっていうの?」
腕の中で硬直しているらしい、は大人しく抱きしめられたままになっている。
それでいい。
ずっとそうしていればいい。
お前の面倒をみたいってヤツはきっと、他にも現れてくるだろう。
だけど、俺の腕の中で、そんなヤツのことなんて見ないようにしてやりたいね。
俺以外いないって思っていろよ。
そうすれば、お前は他にはいかないだろう?
もう一度、呪文のように囁く。
「俺以外に誰がいるっていうの…?」
お前がらみの面倒ごとなら、全部俺が引き受けてやるよ。
そんなふうに、自分以外の誰か、に振り回されるのが楽しいなんて思うのは、
少し癪だが、お前ならそれでもいいなんて思ってしまう。
だから、今度は俺の考えている問題の答えを教えてくれよ。
、お前が俺のことだけしか考えられないようにするには、どうしたらいい?
答えが聞けるまで…
この腕は、離してやらないよ?
【ホームワークが終わらない】にご参加下さりありがとうございました!
犀さん、黒柚木先輩をありがとうございましたーっ♪
ゲームの中でもしょっっっちゅう、彼の言動には振り回されています。
にっこり笑顔で言われた事に頷いたらば、次の瞬間叩き落されます。
そのたびに、しくしく…このぉ…とか思うんですが、そんな先輩は結構好きだったりします。
ちなみに私も古典が苦手でございます。
昔の言葉なんぞ知らんでも生きていけるわーっ!!が口癖。
ちなみにこれ、日本史でも言ってました…あぁあと数学と物理と科学と(ほぼ全教科(笑))
さっ、話を戻して!!
柚木先輩の独占欲って、好きですよ…これぐらい愛されると、幸せかもしれない。
え?病んでます、私?(笑)
こちら、喜んで懐に収めさせていただきます。
お忙しい中、本当にありがとうございました!!