「ここ、良いかな?」
ここ、と言うのは八戒の隣。
そこへ座って良いのかと、本を抱えて訊ねる。
八戒と一緒に読書出来たらと思って。
読書より八戒目当ての方が大きいんだけど。
「・・・・・・・はい、どうぞ」
整いすぎた顔を緩めてそう言ってはくれたけど、その間は一体何?
そんな事がちょっと気になりつつ八戒の隣に腰掛けると、それと同時に非難めいた声が届いた。
「?そんな事わざわざ訊かなくても良いんですよ、この家の中では。なんだか他人行儀で淋しいじゃないですか」
家主の悟浄と同居人の八戒と私しかいないこの家。
まるで合宿のように賑やかで気楽な暮らし。
でも、八戒への気持ちに気付いてから私の中にはある種の緊張感があるわけで。
「でも」
「でもじゃなくて。隣に自然に座れるくらい仲は良いと思ってるんですけど、違うんですか?」
「そうかな?そうだと嬉しいな」
「そうですよ」
えぇと、そうですね、と僕の距離はこんな事を訊ねるくらいだと思うんです。
そう言いながら続けた言葉は
「ここ、良いですか?」
言いながら長い指が微かに触れた場所は私の唇。
それは一体どういう意味なのか、思い上がりも甚だしいこの自分の想像で合っているのだろうか?
それともからかわれているのか?
頭の中は真っ白で何も無いみたいなのに、それでも脳内を様々な事が駆け巡っている。
これがパニックってもの?
フリーズしたままの私をクスクス笑いながら眺めている八戒の視線に耐え切れず、折角確保した
場所を放棄して立ち上がろうとすると、両手を掴まれてしまった。
力で強引に引き止めようとするようなものじゃなくて、穏やかに優しく。
「だめです、逃がしませんよ。僕はもうちょっとこの距離を縮めたいと思っているんです。
聞かなくても許されるような距離にね」
だからもう一度聞きますよ?と柔らく紡がれた問い。
「ここ、良いですか?」
私は返事の代わりに瞳を閉じた。
まだそれを落とされてもいないのに、もう酔ってしまったかのように。
【ホームワークが終わらない】にご参加下さりありがとうございました!
六花さん、素敵八戒をありがとうございましたーっ♪
何度「はい、どうぞ」と答えたことかっ!!!(笑)
短文の中に、これでもかというほど詰められている甘いお砂糖と雰囲気にあっという間に飲み込まれてしまいました。
っていうか、八戒ってすげぇ…とか思ってしまいました。
このお題で、こういうシチュエーションはちょっと私は思いつかなかったので、勉強したいと思います(笑)
こちら、喜んで懐に収めさせていただきます。
お忙しい中、本当にありがとうございました!!