さん、お願いがあるんだけれど」

校門で、にっこり優等生笑顔の柚木先輩に声をかけられた。
一瞬、身構えつつも、無視するなんて事は出来ないので、とりあえず話を聞く。



――― 逃げ腰で。



「な、なんでしょう?」

「実は、もうすぐ雅の誕生日でね」

雅…あぁ、あのすっごい綺麗な妹さん。
柚木先輩に似てて可愛い…というか、綺麗だよね。
スタイルが良くて、可愛くて…でも性格が、なんとなぁ〜く柚木先輩に似てる気がして、実はちょっと苦手だったりする。

なんて、先輩には口が裂けても言えない。

「…聞いてくれているのかな」

「あっ、はいはいっ!聞いてますっ!!」



――― ごめんなさい、聞いてませんでした



「という訳だから、今からいいかな?」

「え…」

「忙しいところ、本当に悪いんだけれど…」

何が今からいいのか、は、さっぱりわからないけれど、そんな風に校門前で言われて断れるわけがない。

「えっと、少しだけなら…」

「そう、じゃあ車に乗ってくれるかな」

「は?」

そしてそのまま拉致…もとい、車に乗せられ、早速盛大なため息をつかれる。

「お前、上の空で返事をしただろう」

「え゛」

「…だろうと思った」

「あのっ、本当はなんて言ったんですか?!」

「俺がもう一度ご丁寧に説明すると思うか?」

「……しない、と思う」

「わかってるなら、ついてくればいい」

なんであの時説明を聞いてなかったんだ、あたし!?
…と、後悔してももう遅い。

「ま、ちゃんと夕飯には間に合うように帰してやるから、暫く付き合えよ。雅のプレゼントを選ぶっていうのは本当だから、さ」

「でも、あたしと妹さんの趣味が合うとは…」

「あぁ、勿論俺も思ってないさ」



んじゃ、なんであたしが一緒に行かないといけないんだ?




















「次はこれ」

「先輩っ!」

「早く着替えろよ。他にも試着して貰う服があるんだからな」

「先輩ってば!」

渡された服を手に持ちつつ、試着室から顔を出す。

「こ、こ、ここの服高いんですよ!?」

いや、ツッコミ所は多分そんなとこじゃないんだけど…でも事実!
今試着してるのだって、秋の新作…しかも店頭に出てないヤツだってお店の人が言ってたし!

「気に入らないか?」

「そんな…ずっと着てみたかったし入ってみたい店でしたけど〜っ!」

お店の奥の…それこそ、別室みたいな所でこんな風に試着を繰り返すなんて経験したことないから、どうしていいかわからないんですってばっ!!
必死に先輩の袖を掴んでいると、またもや店員さんが何か新しい服を持って来てくれた。

「柚木様、こちらが先程言われました物でございます」

「ありがとうございます。それじゃあ、それにあわせた靴も何足かお願い出来ますか」

「かしこまりました」

ここまでくると、冗談じゃすまない。

「柚木先輩ぃ〜〜っ」

「ほら、お前の好きそうな服がまた来たぜ」

「そうじゃなくて〜っなんか、もう、耐え切れません〜っ!」

庶民には敷居が高いし、値段を見ようとしたらそもそも値札なんてついてないしっ!

「新手のイジメですか!?」

もう半泣きみたいな状態で掴んでいる袖を揺らしたら、背を向けていた先輩が急に振り返って…とんっと肩を押され、よろけるように試着室の中に入った。
今度は逆に、試着室の中に先輩が顔を覗かせてるような状況なんだけど…その近さは、目の前と言ってもいいぐらいの距離。
思わず息を飲んで硬直していると、ちょっと低い声が狭い個室に響いた。

「たまにはお姫様扱いしてやろうっていうんだから、大人しくしてろよ」

「…お、姫…様?」

「それともなに…お前、いじめられたいの?」



そんなことあるわけないっ!!



思いっきり首をぶんぶんと横に振ったら、優しい笑顔で髪をひと房取られた。

「お前が上の空で返事をしたから悪いんだぜ。俺はちゃんと、最初に説明したんだからさ」

「…ふぇ!?」

うわぁぁんっ、本当にあたしの馬鹿っ!
今度は…今度は絶対っていうか、柚木先輩の前でぼんやりするのだけは絶対止めようっ!

そう、心に誓った瞬間…先輩が手にしていた髪を口元へ引き寄せ、口付けた。

「!?」

「…もう暫く俺の目を、楽しませろよ」

そのままするりと髪から手を離す動作すら、まるで映画のワンシーンのようで目を奪われる。

「手早く着替えて、残りの服も試着しろよ。これで終わりってわけじゃないんだからな」

「…え!?」

「雅のプレゼントを買いに行くって言っただろう」

「あ゛…」



そ、そういえばそうだった。



「まったく、お前は本当に馬鹿だな」

「…わかってますよ、それぐらい」

目の前の事にいっぱいいっぱいで、次の事に頭が回せないだからしょうがないじゃん。
っていうか、そんな風にさせてる先輩が悪いんじゃ…なんて、思うだけにしとこう。

新しい服に着替えて、カーテンから顔を覗かせれば、柚木先輩はいつもの優しい笑顔で今度は靴を持って来てくれた。

「約束は守らなくっちゃ。……ね? 」



――― 先輩、その約束って…どれですか?





BACK



【ホームワークが終わらない】に自主的参加です。
ただ単に、柚木先輩にお姫様扱いされたかっただけです(きっぱり)
ほんで服選んで、着せて貰いたかっただけです(どきっぱり)

柚木先輩の約束って、なんでしょうね?
ってか、そもそも車で何の話してたんだかも、わかりません。
あの人の言動は、ゲームをやっていても思うんですが、私を手のひらでころころ転がしてくれるのでわからないんですよねぇ。
白と黒が出るのが柚木先輩の魅力だと思ってます。
あ、あと何か褒めたりする時にも理由が必要だったりするとことか?
…残念なことに、私はその魅力を活かしきれてないってのが一番の問題。
だって私が一番共感しやすいのが…火原先輩←なんせ自分を見ているようで(苦笑)
こちらも今後精進出来たら頑張りたいと思います。

主催者として、多少頑張ってみました。
あといくつ頑張っているかチェックしてみるのも一驚です?